1.東京へやってきてから、起こったこと。
――ニヶ月前。
田園風景の広がる片田舎から東京というコンクリートの森へ引っ越し、少しの時が経過した頃。慣れない環境に戸惑いながらも、僕は供給過多な不自由を楽しんでいた。耳に馴染んだ虫の鳴き声は、人々や車、電車の忙しない騒音に代わったけれど、これはこれで人の営みというやつだろう。
そのように考えつつ六畳間の狭いアパートに身を置いて、初めての一人暮らしに精を出していた。そんなときに、ちょっとばかり困ったことが起こったのだ。
「……え、爺ちゃんが倒れた!?」
『あー、気にせんでいいがよ? 倒れたって言っても、段差に足を引っかけただけやちゃ!』
ほとんど日課にしていた祖父母との通話。
数日ほど連絡がなかったので気を揉んでいると、婆ちゃんから驚きの報告があった。曰く祖父が農作業へ向かう最中に転倒し、軽い骨折をしたとのこと。年齢も年齢のため、下手をすれば現場復帰は難しいかもしれない、という話だった。
「そうは言っても、実入りがないと生活はどうするのさ?」
『だから、慎太郎は心配せんが! 仕送りも今まで通り――』
「いやいや、何言ってんの! 二人の生活費に回せって!」
『うーん……だったら、慎太郎はどうするがけ?』
「ぼ、僕は……うー……」
そこまで口にしてから、僕は思わず口ごもる。
だけど、ここで祖父母に迷惑をかけるわけにはいかなかった。そもそも一ヶ月の間、生活費の他にも色々と食材を送ってもらっている。
僕もいい加減に自立しなければ、世間に笑われるというものだった。
「バイトするよ! すぐには難しいけど、お金は自分で何とかする!!」
だから、ハッキリと。
覚悟を決めて、反対を押し切るように祖母へ宣言したのだった。
◆
「とはいっても、バイトなんてしたことないからな。……どうすれば?」
バイト先が決まるまでは、いまの手元にある資金でしのぐしかない。
しかし、このまま手を拱いていてはジリ貧、というやつだろう。とにもかくにも、なんでも良いから自分にできるアルバイトを探さなければならない。
そう勢い勇んで、僕は街角にあった情報誌やら掲示板の貼り出しに目を通した。赤城くんにも意見を仰いだりして、情報をとにかく集め、色々なものに手を出してみる。
「あ、えっと……これが、あれで……?」
しかしながら、学生――しかも高校生が稼げる金額、というのには限度があった。お世辞にも綺麗といえないアパートでも、東京の家賃は高い。そこに加えて食費の他、諸々の雑費が必要になってくる。祖父母との約束で、学業は疎かにしないと決めていた。
そんなこんなで、僕の生活は僅か一ヶ月ほどすると困窮し始める。
「マズい、このままだと……うぅ……!」
とはいえ啖呵を切った以上、今さら祖父母に泣きつくわけにもいかない。
これは我儘というか、僕の中にある欠片ほどの意地だった。
――で、どうなったか。
追い詰められ、マトモじゃない精神状態で下した僕の決断はこれだった。
「……よし! ここなら、家賃も必要ないな!!」
アパートを出て、近所の河川敷に段ボールで城を構える。
端的にいえば『ホームレス生活』を選択した、ということだった……!
こいつ、普通の高校生じゃないわ。
(常識が)不通の高校生だわ。
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