3.バイト終わりに。
ここまでオープニング。
「あーあ、やっぱり雨降ってるー」
僕はホスピック・グループのビルを正面から出てすぐ、空を見上げて呟いた。
何やら人の出入りが激しいのは、先ほどのレッドアイズの一件によるものだろう。あのバイトの先輩はきっと報道陣に囲まれるだろうし、下手をすれば会長殺害の嫌疑をかけられるかもしれない。
それについては少し申し訳ないけど、運がなかったと諦めてもらおう。
「さて、と。どうやって帰ろうかな……ん?」
このまま濡れそぼって帰るのもやむなしか。
そう考えて歩いていると、視線の先に見覚えのあるナンバーの黒いセダンがあった。まさかと思って駆け寄ると、窓が開いて中にいる人物の姿が露わになる。
その女性は、まるで絵画から出てきたかのように美しかった。
長く滑らかな銀色の髪に、左右で色の異なる円らな瞳。白いスーツを着用し、幼くも整った顔立ちの印象以上に大人びた雰囲気が漂っていた。これで僕の一つ上でしかないのだから、驚きだ。
さて、そんな美少女は僕を見て微笑む。
そして言うのだった。
「お疲れ様、田村くん」
「あ、田中です」
直後、後部座席のドアが開く。
僕はいそいそと車に乗り込みながら、ふっと一息ついた。そして、
「あ、ヤバい……!」
「どうしたの? 田島くん」
ふと、バッグの中に入れていた祖父母への手紙を思い出す。
中を覗くと、やはりそれらは雨に濡れていた。
「あちゃー……ま、いいか」
二人への報告は、もう少し先でもいいだろう。
僕はそう思いながら、前に座る少女に首を振って答えた。
「ううん、なんでもないよ。レイラさん」――と。
すると彼女――貴城レイラさんは微笑み、静かに頷くのだった。
それに見惚れながらも、ふと思い出して言う。
彼女には、しっかり覚えてほしいから。
僕は声を大にして、繰り返した。
「あと、僕は田中です」
――田中慎太郎。
どこにでもいる平々凡々な男子高校生兼暗殺者だ、と。
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