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2.ホントのバイトは、暗殺者です。







「えっと、細川会長……で、合ってますか?」

「いったい誰だい、キミは」



 ――巡査到着の数分前。

 ビルの最上階付近。そこにある執務室に、一人の少年が訪ねてきた。

 日本の最新医療機器開発で財を成す大企業――ホスピック・グループ会長の細川尊は、思わぬ来訪者に驚きながらも威厳のある声で答える。ランプの明かりだけが照らす薄暗い室内からは、相手の顔をうかがい知ることはできない。ただ身の丈から、年端もいかない子供であるというのは分かった。



「あ、僕は田中です」

「ほほう。不審人物にしては、ずいぶん礼儀正しいのだね」

「ありがとうございます」

「……して、何用かね」



 だが、得体の知れない人物であることに変わりはない。

 細川はその皺だらけの顔に難しい表情を浮かべ、さらにそう訊ねた。すると田中と名乗った少年は、少し間を置いてからこう答えるのだ。



「えっと、ホスなんとかグループって、凄い企業なんですよね?」

「ホスピック、だな。日本の医療を支えておるよ」

「わー、凄いですね!」



 田中少年は、わざとらしい拍手をしながら言った。

 その薄ら寒さに細川は、また不快を抱く。



「いったい、何だというのかな。社会見学を許可した覚えはないが?」

「あー……そうですね。えっと、本題ですけど――」



 そのため、少しだけ語気を荒げると。

 相手は思い出したように、そう言ってから懐を探った。そして、



「これ、ご存知ですよね?」



 取り出したるは、ナイロンの袋に入ったレッドアイズ。

 麻薬をちらつかせられ、細川は一つ息をついた。



「はて……? なんだね、それは」

「合成麻薬のレッドアイズ、ですね。使用すると一時的な快楽物質の分泌があって、副作用には幻覚作用の他、全身の倦怠感や依存性があるらしいです」

「ほほう。それはまた、恐ろしい」

「ですよねー」



 田中もふざけた調子で細川に同意する。

 だが、すぐに――。



「そんなレッドアイズですけど、少しオカルトな使用法があるらしいんですよ」

「…………ほう?」



 声のトーンを落として、そう口にした。

 細川は静かに目を細めながら、田中の言葉を待つ。すると少年は、



「いわゆるトランス状態? とかいう時に見る幻覚について、馬鹿げた研究をしている団体があるとか。彼ら曰く、レッドアイズによる幻覚はマヤカシではない、とのことで」

「ずいぶん馬鹿げたものだね」

「えぇ、ホントですよ。ただ――」



 そこまで語ると、懐から刃物を取り出した。

 そして、他人事のように告げる。



「そこから先はちょっと、踏み込まないでほしいんです」――と。



 直後、信じられないことが起きた。



「……ほう、素晴らしい間合いの詰め方だ」

「喉元に刃物を当てられて、冷静なのも凄いですけどね」



 細川の身動きは封じられ、彼の首には刃渡り十数センチの包丁があてがわれていた。目にも止まらない速度に彼は瞬間の驚きを抱くが、表情は崩さない。

 互いを賛辞し合いながらも、緊迫した空気は続いていた。



「さて……田中くんの、要望を聞こうか?」

「あ、それならですね――」



 ただし、やはり緊張感のない声色で。

 田中は細川に、こう言った。



「例の研究は、即刻中止してください」



 それが何を指すか、細川には分かったらしい。

 しかし、会長はあえて笑って少年に向かって答えるのだった。





「もう、私の一存では止まらんよ」――と。





 その言葉に田中少年は頷く。

 まるで最初から、こうなることが分かっていたように。



「それじゃ、死んでくれますか?」



 軽い調子のまま、そう告げるのだ。

 しかし、細川もただ者ではないらしい。小さく笑い、少年に問いかけた。



「私を殺してどうにかなるのか?」

「さぁ、見せしめ? くらいにはなるかな」



 すると返ってきたのは、どうにも曖昧なもの。

 そこに勝機を見出したのだろう。細川は交換条件を提示した。




「であれば、キミの自由を約束しよう。私を殺せば、キミは拘束される」




 つまり見逃すことを条件に、便宜を図ると。

 しかし、少年の答えは――。



「あ、それは別に間に合ってるので」

「……なに?」



 相も変わらず、どこか緊張感に欠けたもので。

 さすがの細川も驚きを隠せなかった。その瞬間だった。




「か、は――!?」





 少年は躊躇うことなく、老爺の喉を引き裂いた。

 そして、トドメとばかりに今度は首へ包丁を突き立てる。細川は痙攣し、次第に動かなくなった。そんな彼に向かって、少年は小首を傾げながら言うのだ。




「僕のこと、誰も覚えてられないんですもん」――と。





 まるで、拗ねる子供のような口振りで。



 


お前のような平凡がいるか()




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