第8話 突撃!異世界マッスル収穫祭! 魔法と筋肉とイモ畑!
──場所は変わって、筋肉収容所・裏庭。
今日の課題は、「畑を耕し、収穫し、そして筋肉を使い果たす」という一石三鳥イベント、通称“マッスル収穫祭”。
「よし、今日も耕すぞォォォォォォ!!!」
「なんで筋肉だけがやる気満々なんだよ!? 俺は朝から足つってるんだよ!?」
収容所の裏庭はなぜか一面サツマイモ畑。
というか、イモ以外育てる気がない。
「この異世界、炭水化物の主食ぜんぶイモ説あるな……」
「ですね。パンや米は課税対象、イモは非課税です」
「法律のバランス、どうなってんのこの世界!?」
しかもこのイモ、ただのイモじゃなかった。
「気をつけてください! その芋、魔力を吸収して動きます!」
「動く芋!? もうイモの定義どっか行った!?」
芋A「モギュ…モギュ…」
信長「喋ったあああああああああああああ!!」
イモは、畑から飛び出し、筋トレ中の人々にアタックを仕掛けてくる。
腹筋に飛び乗る、スクワット中の背中にぶつかる、休憩中の水筒を奪う。
「いやいやいや! イモがラスボスみたいになってるけど!? これ、収穫祭だよね!?」
「奴ら、エネルギーとして吸った魔力を返す気がないようです」
「もうそれ吸血芋だよ! ジャンル違ってきたよ!」
そこで立ち上がったのが、ねねだった。
「私に任せてください! 魔法《イモ返しの陣》!」
空中にイモが浮かび、ぐるぐると回転しながら畑へと吸い込まれていく。
まさに芋台風。
「おお……! すげぇ……!」
「ねねが! 初めて! まともに活躍してるううううう!」
「“初めて”って強調しすぎじゃないですか!?」
この魔法、実はねねの一族に代々伝わる“農業系魔法”の奥義らしい。
「というか、そんなピンポイントな家系あるの!? どういう遺伝なんだよ!」
収穫を終え、落ち着いたところで、皆で焼き芋タイム。
「うまいな……」
「うん……筋肉にしみる……」
「焼き芋で感動してる場合じゃないだろ!?」
しかしその時、空がパカッと割れる。
ドカーン!
まるで天が裂けたような音とともに、何かが地面に墜ちた。
「……誰だ!? 畑に落ちてきたのは誰だ!?」
土煙の中から立ち上がる影。
「拙者……上杉謙信。転生して、再び舞い戻ったでござる……筋肉より酒をくれ……」
「うわああああああああああああああああ!! 上杉来たああああああああああ!! って酒!? え、そっち!?」
どうやら、筋肉収容所の次なるカギは──上杉謙信らしい。
だが酒を持ってないと、動かない。
* * *
──その男、落ちてきた瞬間から酒くれコール。
さっきまで焼き芋と和やかムードだった収容所の空気が、一気に「居酒屋の開店前」になる。
「拙者、上杉謙信。異世界に転生し、まず最初に探したのは仏でもなく、武でもなく……清酒」
「どんな転生理由だよ!? 誰だよ転生の神!? 面接しろよ一回!」
信長、少し距離を取りながら観察。
「うわー……マジで酒ないと動かないタイプだ……」
「逆に、飲んだらどうなるんでしょうか?」
「知らんけど、あいつ歴史上だとガチで強いぞ……しかも戦場に酒持ち込むタイプだからな」
そのとき、ねねがなぜかポーチから小瓶を取り出す。
「実は、非常用のアルコール消毒液、持ってますけど……」
「それ医療用だろ!? 渡すな、絶対渡すなよ!?」
「飲んだァァァァァァ!!!?」
上杉謙信、突如として立ち上がり、空を裂くような一喝!
「見えたぞ……! 芋の動き……次の筋肉の痛み……そして未来のアルコール残量ッ!」
「やっべええええ! 飲んだら超覚醒しやがった!?」
彼が繰り出した技は──
「酔拳奥義・千鳥足百連撃!」
「それ完全にただの酔っ払いムーブ!!」
だが、謎のステップから繰り出される攻撃は、動くイモたちを片っ端から粉砕!
「一撃で……!? え、謙信さん強すぎません!?」
「そりゃまあ、戦国最強説あるしな……ただし酔ってる時に限るけど!」
信長、妙な親近感を覚える。
「……俺と似てるな、酒飲んだら強くなるとか」
「信長様は酒入ると魔法ぶっ放すし、謙信さんは拳でイモ潰すし……なんか、二人そろったら危険じゃ?」
「マジで異世界に“居酒屋ノブケン”開けそう……」
収容所の者たちは畏怖する。
「謙信様……本当に“筋肉より酒”の人だった……」
「というか、飲んだら筋トレとか関係なくなるのやめてほしい……」
戦い終わって、日も暮れた頃。
信長はそっと、謙信の隣に腰を下ろす。
「なあ、謙信。お前、なんでまた転生してきたんだ?」
謙信は、月を見上げながらボソリ。
「拙者……あの世で気づいたのだ……。戦いのない人生もまた、悪くないと……だが、飲み足りなかった」
「なんでそこで人生締めるんだよ!?」
信長は、ちょっとだけ笑った。
この世界、なにがあるかわからないけど──
「酒さえあればなんとかなるんじゃね?」
「その思想、危険だからな!?」