第7話 鍛えて、喋って、殴られて! 信長の“逆・筋肉裁判”!
「それでは、被告・織田信長に対する“筋トレ拒否罪”の審理を開始する!」
「罪名が斬新すぎるんだけど!? 俺、呼吸と同じくらい自然に筋トレ拒否してるんだけど!?」
エルドラ王国の裁判所にて。
信長はなぜか“筋トレ法案に従わなかった”という罪で、ガチ裁判にかけられていた。
「証人、前へ!」
裁判官の掛け声とともに現れたのは、謎にムキムキな男だった。
「伊達政宗、筋肉系Vtuberです。今はこの異世界でインフルエンサーやってます」
「なんで現代文化持ち込んでんの!? っていうかVtuberやってんの!? 生配信できる環境あるの!?」
「この世界ではね、筋肉がWi-Fiの代わりになる」
「何そのサイバーパンクな概念!? 誰か物理法則呼んできて!!」
政宗は証言台で堂々と語る。
「この者、筋トレ中に明らかにさぼっていた。腹筋10回すら拒否し、逃走を試みたこと数回。筋肉の神に対する冒涜です」
「その神ってどこの神!? 一神教なの!? 多神教なの!? マッチョ教なの!?」
さらに証人が次々と現れる。
「この前、私の筋トレ配信に低評価押してました!」
「バーベルの上に座ってコーヒー飲んでた!」
「筋肉に興味ないとか言ってたくせに、さっき自分のふくらはぎ褒めてた!」
「それもうただの妬み混ざってない!? 陳腐な日常会話から無理やり罪状ひねり出してるだけでしょ!?」
最終的に、裁判官が審議を下す。
「織田信長に“逆・筋トレの刑”を言い渡す」
「逆って何!? なにが起きるの!? 俺の身体に何をする気なの!?!?」
判決に従い、連れてこられたのは謎の施設──
「ここが“筋肉収容所・モモヒキ支部”です。今日からここで、体力ゼロの者たちに筋トレを教えていただきます」
「え、俺が教える側!? 体力ゼロの俺が!? 実質“0÷0=何かすごい”みたいな理論じゃん!」
信長は困惑した。だがその時、どこかで聞き覚えのある声が聞こえる。
「よっ、ノッブ! 俺たちも捕まっちまったわ~!」
「お、お前は……前田利家!?」
「よぉ! 俺もいるぜ!」
「柴田勝家!? うわぁ、なんか懐かしい顔ぶれ増えてきた!」
まさかの旧・織田軍メンバーが勢揃い。
「というわけで、今話から“筋肉リハビリ部・織田組”が始動だぜ!」
「なんで異世界で筋トレ部作らなきゃいけないんだ俺ぇぇぇ!!」
* * *
──筋肉収容所・モモヒキ支部。
ここは、筋トレを拒否した者たちが送られる矯正施設。
施設名に反して地獄のような環境である。
だって施設長が、筋肉でドアを開けるタイプの人なんだもん。
「ようし、お前らァ! 今日からこの織田信長が、てめぇらの筋肉の家庭教師だァ!」
「いきなりキャラ変わってない!? テンションどうした!?」
「いや、今のは利家が代わりに読んだ」
「だからってなりきりすぎだろ!」
信長は完全に戦力外扱い。なのに指導役にされてしまった。
ちなみに本人は、今、そっと端のベンチでスライムの背中を撫でている。
「信長様……無理しなくていいんですよ」
「ありがとう、ねね……。でも僕、がんばるよ。腹筋、今日は2回くらい……」
「目標が小刻みすぎる! 二回て!」
施設では朝からトレーニング。
腹筋、背筋、スクワット、ランニング、謎の謎掛け相撲。
「フンヌアアアア!! バナナは! 果物か!? 野菜か!?」
「それ筋トレ関係ある!? 哲学!? パワー系の哲学!?」
そして、織田組メンバーは──思った以上にノリノリだった。
「いや~! 信長様とまた一緒に汗かけるなんて、最高っスよ~!」
「お前、謀反起こした過去なかったっけ?」
「そういうのは異世界来た時にリセットされたことにしましょうよ」
「この作品の世界観、都合のいいリセットボタン多すぎん!?」
勝家は自前のプロテインを配りながら、信長のそばにやってくる。
「これ、飲むと魔力も筋力も2倍になりますぞ」
「えっ、それ飲んでから毎回火吹いてるやついなかった?」
「副作用で時々暴発しますが、大体は安全です。たぶん」
「たぶんって言っちゃった!?!?!?」
トレーニングの合間、休憩室にて。
「信長様、今日はどうでした?」
「うーん……身体は痛いし、精神もけっこう削れたけど……みんなが笑ってるの、ちょっといいなって思った」
「やだ、少しだけ成長してる……! 主人公みたい!」
「言っとくけど、次回にはまた戻ってるからね。俺、成長しても3話でリセットされる系主人公だから」
「その自覚はあるんですね」
そして、夕方。
今日のラストメニューは、腹筋10回チャレンジ。
「行くぞ信長様ぁぁぁぁ!! 一回目!!」
「うおおおおお……うぅ……い、いち……」
「二回目!」
「ううぅぅぅぅ……なんで俺、腹筋に泣かされてるのぉぉぉぉぉ!」
「信長様、泣いてもいいんですよ! 涙は汗と同じ味ですから!」
「それもおかしいけど、ちょっといいこと言ってる感あるのやめろ!!」
結果、信長──六回でダウン。
しかし、施設長の一言。
「よくやった。……ここまでやったのは、お前が初めてだ」
「え、マジで!? やったぁ! よし、これで今日の夜は──」
「そのまま二回戦行くぞ」
「なんでえええええええええええええええええ!!!」