第2話 冒険者ランクは“Z”でした
──ギルド出禁になった。
ギルドの半分が爆発し、天井は飛び、受付嬢は転職して行方不明、筋肉☆セーフティーズは“被災者”扱いされていた。
「やっちまった……完全に、やっちまったぞ俺……」
信長は街の片隅で体育座りしていた。背中には「悪人」って落書きされた木札がぶら下げられている。誰が書いた。
「ていうかさ……異世界って、こんなに生きにくいの……?」
彼の隣でため息をつくのは、獣人の少年・ルルー。
「お前、昨日まで“魔王様かっけぇ!”ってなってたのに、今じゃただのギルド爆破犯だからな……」
「俺だって好きでやってるんじゃないんだよ!? 酒が、酒が勝手に……!」
「もうそれアル中のセリフだよ?」
と、そのとき──
「織田信長さんですね?」
カツ、カツ、と場違いな革靴の音。現れたのは、全身黒スーツにサングラス、肩に“異世界転生庁”と書かれたワッペンをつけた中年男。
「え、なにこの感じ……急に現代パロ始まった!? 異世界ってなんでもアリかよ!」
「我々、異世界転生者の監視および調整を行っている部署でして。今回、あなたの“過剰転生パワー暴走”について、警告と“ランク判定”のために伺いました」
「過剰転生パワーって何!? 俺なにもしてないよ!? 酒が勝手にやっただけで!」
「……それを“やった”って言うんですよ」
男は小さな水晶球を取り出し、信長の胸にグサリと突きつけた。痛くはないが精神的に刺さる。
数秒後、水晶球が発光し、ランクが浮かび上がった。
【ランク:Z】
「Z~~~~!?!?!?」
「はい。ランクZ、ゼット。伝説の下、神話の下、失格の上です」
「微妙すぎる場所!? てか“失格の上”って何!? 上なの!? 下なの!? どっちなの!? 上下で分けるな!!」
スーツの男は無表情で告げた。
「ランクZの方は、原則としてギルド所属、商業活動、恋愛、旅、人生、全て禁止されます」
「人生まで否定されたあああああ!?!?!?」
「ただし、例外的に“社会復帰更生プログラム”の参加資格が与えられます」
「更生プログラム!? 俺いつの間に犯罪者ルートに!? ねぇルルー、異世界って俺の知ってる異世界と違うよね!? 俺、こんなブラック異世界だとは思わなかったよ……」
──そして数時間後。
信長は“社会復帰更生プログラム”の施設に到着していた。
そこには、元犯罪者、ギルド爆破魔、課金チート失敗者、ポーションの違法所持者など、異世界界隈のアウトローたちが集められていた。
「ここが地獄か……」
誰かがそう呟いた瞬間、どこからともなくBGMが流れ出す。タイトルは《地獄のトライアル★ビギンズ》。
「BGM鳴ってるゥゥ!? なんで!? どこ製!? てかこの演出、完全に某デス〇ートの裁き受ける側じゃん!?」
信長の目の前には、試練の課題が表示されていた。
──【1日1善を100日続けよ】──
「それ、現代人でも無理だろうがあああああ!!」
こうして、織田信長の「Zランクからの社会復帰大作戦」が幕を開ける!
* * *
異世界の社会復帰プログラム、その第一試練──
「町のゴミ拾い(制限時間1時間・命懸け)」
……もう、嫌な予感しかしない。
「はい皆さん、今日も“清き道”への第一歩! 拾って拾って拾いまくれーッ!!」
朝6時、目覚まし代わりにバズーカをぶっ放す鬼教官・マリア(年齢不詳・筋肉50%)。爽やかスマイルで瓦礫を砕くこの女、絶対過去に世界救ってる。
「信長くんはこの辺をお願いね♪ ええと、“呪われた死者の森”周辺エリアね~♡」
「え、なにその明らかにゴミ捨て場じゃない名前!? 森じゃん! どこが“周辺エリア”だよ!? 完全にメインダンジョンだろ!!」
「うるさい! ゴミと向き合えない者に未来はないッ!! 反抗は肉体言語でねじ伏せるぞ!」
そして信長は──投げられた。
ドゴォ!!
森の入口に直撃着地した信長、全身がバネのようにたわみ、無言で涙を流す。
「……つらい。異世界、ほんとつらい」
手にはトング。腰にはナップザック。中身は「エリクサー(使用禁止)」「魔導書(読めない)」「非常用の酒(封印中)」。
「絶対死ぬやつじゃんこれ……」
それでも信長は歩き出す。落ち葉をかき分け、骨の山を乗り越え、拾ったものは“燃えるゴミ”ではなく“燃えたゴミ”。
「なんで炭化してるのが普通に落ちてんの!? もう火事あった後でしょこれ!?」
そして草むらから現れたのは──
ドスン。
「グルルル……!」
「え、なにこれ……魔獣……? いや、違う……これは……」
そこにいたのは、巨大なハリネズミのような生物。目がキラキラしてて、背中から黒煙を噴いている。
名前:ゴミンチュ・エボリューション
種別:燃えるゴミの王。
「なんで“燃えるゴミ”に進化形態があるんだよおおおおお!?」
ゴミンチュは鋭い針を飛ばしてくる。トングで受ける信長。即粉砕されるトング。
「あ、終わった。俺、ここで異世界人生二回目終了だわ……」
そのときだった。
「おい信長ォォ!! 逃げろォォォ!!!」
森の奥から突撃してきたのは、例の筋肉集団──筋肉☆セーフティーズ。
「お前らぁ!? なんで来た!?」
「更生プログラム、俺たちも受けてんだよォォ! ギルド爆破のおかげでな!!」
「それ完全に俺のせいじゃねえか!! ごめん!!」
ガルマが信長を背負いながら、サブメンバーの魔法使い・マルタ(MP3)と、獣人のパンチ担当・ペコ(IQ2)が同時に叫んだ。
「筋肉スペシャル・リサイクルビーム発射ああああ!!」
「その技名どうかしてるだろ!!!」
ビームがゴミンチュに直撃し、ゴミンチュは「エコ……」と呟いて木っ端微塵に爆発した。
──地球に優しいラストだった。
* * *
そして試練終了後、マリア教官から信長に言い渡された結果は──
「よくやったわ信長。あなたに……“ゴミ拾い師見習い”の称号を授けましょう」
「全然嬉しくねええええええ!!!!!」
こうして、Zランクからの復帰を目指す信長の“清掃系異世界ライフ”は、まだ始まったばかりだった。