表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/59

第2話 冒険者ランクは“Z”でした

 ──ギルド出禁になった。


 ギルドの半分が爆発し、天井は飛び、受付嬢は転職して行方不明、筋肉☆セーフティーズは“被災者”扱いされていた。


「やっちまった……完全に、やっちまったぞ俺……」


 信長は街の片隅で体育座りしていた。背中には「悪人」って落書きされた木札がぶら下げられている。誰が書いた。


「ていうかさ……異世界って、こんなに生きにくいの……?」


 彼の隣でため息をつくのは、獣人の少年・ルルー。


「お前、昨日まで“魔王様かっけぇ!”ってなってたのに、今じゃただのギルド爆破犯だからな……」


「俺だって好きでやってるんじゃないんだよ!? 酒が、酒が勝手に……!」


「もうそれアル中のセリフだよ?」


 と、そのとき──


「織田信長さんですね?」


 カツ、カツ、と場違いな革靴の音。現れたのは、全身黒スーツにサングラス、肩に“異世界転生庁”と書かれたワッペンをつけた中年男。


「え、なにこの感じ……急に現代パロ始まった!? 異世界ってなんでもアリかよ!」


「我々、異世界転生者の監視および調整を行っている部署でして。今回、あなたの“過剰転生パワー暴走”について、警告と“ランク判定”のために伺いました」


「過剰転生パワーって何!? 俺なにもしてないよ!? 酒が勝手にやっただけで!」


「……それを“やった”って言うんですよ」


 男は小さな水晶球を取り出し、信長の胸にグサリと突きつけた。痛くはないが精神的に刺さる。


 数秒後、水晶球が発光し、ランクが浮かび上がった。


 【ランク:Z】


「Z~~~~!?!?!?」


「はい。ランクZ、ゼット。伝説の下、神話の下、失格の上です」


「微妙すぎる場所!? てか“失格の上”って何!? 上なの!? 下なの!? どっちなの!? 上下で分けるな!!」


 スーツの男は無表情で告げた。


「ランクZの方は、原則としてギルド所属、商業活動、恋愛、旅、人生、全て禁止されます」


「人生まで否定されたあああああ!?!?!?」


「ただし、例外的に“社会復帰更生プログラム”の参加資格が与えられます」


「更生プログラム!? 俺いつの間に犯罪者ルートに!? ねぇルルー、異世界って俺の知ってる異世界と違うよね!? 俺、こんなブラック異世界だとは思わなかったよ……」


 ──そして数時間後。


 信長は“社会復帰更生プログラム”の施設に到着していた。


 そこには、元犯罪者、ギルド爆破魔、課金チート失敗者、ポーションの違法所持者など、異世界界隈のアウトローたちが集められていた。


「ここが地獄か……」


 誰かがそう呟いた瞬間、どこからともなくBGMが流れ出す。タイトルは《地獄のトライアル★ビギンズ》。


「BGM鳴ってるゥゥ!? なんで!? どこ製!? てかこの演出、完全に某デス〇ートの裁き受ける側じゃん!?」


 信長の目の前には、試練の課題が表示されていた。


 ──【1日1善を100日続けよ】──


「それ、現代人でも無理だろうがあああああ!!」


 こうして、織田信長の「Zランクからの社会復帰大作戦」が幕を開ける!


* * *


 異世界の社会復帰プログラム、その第一試練──


 「町のゴミ拾い(制限時間1時間・命懸け)」


 ……もう、嫌な予感しかしない。


「はい皆さん、今日も“清き道”への第一歩! 拾って拾って拾いまくれーッ!!」


 朝6時、目覚まし代わりにバズーカをぶっ放す鬼教官・マリア(年齢不詳・筋肉50%)。爽やかスマイルで瓦礫を砕くこの女、絶対過去に世界救ってる。


「信長くんはこの辺をお願いね♪ ええと、“呪われた死者の森”周辺エリアね~♡」


「え、なにその明らかにゴミ捨て場じゃない名前!?  森じゃん!  どこが“周辺エリア”だよ!?  完全にメインダンジョンだろ!!」


「うるさい!  ゴミと向き合えない者に未来はないッ!!  反抗は肉体言語でねじ伏せるぞ!」


 そして信長は──投げられた。


 ドゴォ!!


 森の入口に直撃着地した信長、全身がバネのようにたわみ、無言で涙を流す。


「……つらい。異世界、ほんとつらい」


 手にはトング。腰にはナップザック。中身は「エリクサー(使用禁止)」「魔導書(読めない)」「非常用の酒(封印中)」。


「絶対死ぬやつじゃんこれ……」


 それでも信長は歩き出す。落ち葉をかき分け、骨の山を乗り越え、拾ったものは“燃えるゴミ”ではなく“燃えたゴミ”。


「なんで炭化してるのが普通に落ちてんの!?  もう火事あった後でしょこれ!?」


 そして草むらから現れたのは──


 ドスン。


「グルルル……!」


「え、なにこれ……魔獣……? いや、違う……これは……」


 そこにいたのは、巨大なハリネズミのような生物。目がキラキラしてて、背中から黒煙を噴いている。


 名前:ゴミンチュ・エボリューション


 種別:燃えるゴミの王。


「なんで“燃えるゴミ”に進化形態があるんだよおおおおお!?」


 ゴミンチュは鋭い針を飛ばしてくる。トングで受ける信長。即粉砕されるトング。


「あ、終わった。俺、ここで異世界人生二回目終了だわ……」


 そのときだった。


「おい信長ォォ!! 逃げろォォォ!!!」


 森の奥から突撃してきたのは、例の筋肉集団──筋肉☆セーフティーズ。


「お前らぁ!? なんで来た!?」


「更生プログラム、俺たちも受けてんだよォォ!  ギルド爆破のおかげでな!!」


「それ完全に俺のせいじゃねえか!!  ごめん!!」


 ガルマが信長を背負いながら、サブメンバーの魔法使い・マルタ(MP3)と、獣人のパンチ担当・ペコ(IQ2)が同時に叫んだ。


「筋肉スペシャル・リサイクルビーム発射ああああ!!」


「その技名どうかしてるだろ!!!」


 ビームがゴミンチュに直撃し、ゴミンチュは「エコ……」と呟いて木っ端微塵に爆発した。


 ──地球に優しいラストだった。


* * *


 そして試練終了後、マリア教官から信長に言い渡された結果は──


「よくやったわ信長。あなたに……“ゴミ拾い師見習い”の称号を授けましょう」


「全然嬉しくねええええええ!!!!!」


 こうして、Zランクからの復帰を目指す信長の“清掃系異世界ライフ”は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ