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第2話 初手

第19周回目 1月1日夜 魔王城


新魔王就任式が終わり、魔王城は新魔王誕生を祝う宴の真っ最中である。

先の事を思うと気分が沈み正直気乗りしなかったが、魔王軍の事実上のTOPともいえるアドラブルが出席しない訳にもいかないので、一応出席し祝い事を述べる。しかし、やはり新魔王誕生を祝う皆の明るい雰囲気に溶け込んで酒を飲める気分ではなかったので、一通り顔見せをした後は自室に下がった。


独り自室で酒杯を傾けながら頭を悩ませる。


どうしたらいいか分からない。終わりの見えない周回の螺旋とそして周回を重ねるごとに強くなる勇者。

前回の最終決戦時点ではまだかろうじてアドラブルの方が上だったが、今回の最終決戦時にはあの勇者一行は恐らく自分の強さを超えてくるだろう。

自分も強くなるという選択肢もあるが、現在レベル90の自分を鍛えても一年後せいぜいよくてレベル91だろう。それに対して勇者はいくつレベルを上げてくるだろうか。勇者もだいぶレベルが上がってきたから多少は上がりづらくなってきただろうが、それでも2か3は上げてくるだろう。しかも勇者一行4人全員がだ。

こちらがやっとのことでレベルを1上昇できたとしても、それに対して勇者一行は合計でレベルを10程度は上げてくる目算だ。とても間に合っていない。これでは今回の最終決戦で上回られてもおかしくない。いや、むしろ確実に上回ってくるだろう。

そして、たとえ今回の最終決戦で勇者一行をかろうじて跳ね返すことが出来たとしてもその次の周回では絶望的だろう。


窓の外からは新魔王誕生を祝う声がそこかしこから聞こえてくる。

呑気なものだ。

ブランデーを一気にあおる。


ふぅ。先を思うと溜め息しか出ん。




第19周回目 1月2日朝 魔王軍総司令部

それでもまず出来る事からやらねばならぬ。


「ハキム!」


「はっ」


「魔王軍を強くしたい。具体的には魔王軍の中核をなすゴブリンどもに武器を持たせる。先のアシマイダルボの戦いで得た人族の奴隷を使い、ニブル山より材木を切り倒しそこで棍棒や木の盾を作らせよ。そこで生じた廃材をニブルボルグの鍛冶集団にまわし、人族どもから奪った鉄製の武器を修繕させ精鋭どもに行き渡るようにさせよ。」


「ははっ。」


この指示は前回までと一緒だ。

18回(といっても最初の数回は何もしていないが)の中で工夫を凝らして、最初は木の枝や簡単な棒を魔王軍全体に支給するだけだったが、どうすれば効率的により良い武器を支給できるか試行錯誤した結果、今のところこれが一番良さそうだった。


「ビヨルン!」


「はっ、ここに」


「第2軍団への使者となれ。イケルカムイ神聖国しんせいこくを攻略中のはずだが、一部部隊を割かせて北国街道ほっこくかいどうからダルハン公国こうこくの国境を略奪させよ。ダルハン公国を落とす必要は無い。ダルハン公国が自由に動けないようにさせるのだ。別動隊の軍監ぐんかんとして同行せよ。」


「ははっ、必ずやご期待に沿えるよう動きます。」


ここも一緒だ。

ダルハン公国からの援助・援軍がイケルカムイ神聖国の肝だった。派遣した側近によっても毎回結果が変わりビヨルンを派遣した時がもっとも優れた結果になった。イケルカムイ神聖国はこれで一年後にはほぼ死に体となり、最終決戦には援軍を出せない。ダルハン公国も同様だ。

勇者一行のいるイブラシア帝国には最終的にはどんな作戦も勇者一行の直接の介入によりほぼ失敗してしまうが、勇者一行の直接の手の及ばない他国には効果があった。


「グルジャラ!」


「はっ」


「第三軍団の軍監としてクシャーリャ王国攻略に随行し効率を上げさせよ。

…分かっていると思うが、ドラゴノス軍団長は気難しいやつだ。上手くやってくれよ?」


「ははっ、最善を尽くします。」


先代魔王の秘蔵のワインを3本持っていけ。蔵の管理人には許可をとってあるからな。と伝えるのも忘れない。ドラゴノスは良い酒に目が無い。これで上手くいくはずだ。


その他、次々と指示をして信頼できる側近たちを各地に派遣していく。このあたりはもう改善点はほぼ無い。いや、もしかしたらあるのかもしれないが、軍勢同士の対決では魔王軍やや優勢という状況でここ数戦は割と均衡を保っており、この状況でギャンブルを打つ必要は全くない。もし軍対決が劣勢にでもなってしまったらその真っただ中で行われる勇者一行との直接対決では負け確定になってしまうだろう。


ちなみに各地に侵攻している魔王軍の各軍団は最終決戦には参加しない。というかしてくれない。

まず、各軍団長同士の仲が非常に悪い…よく言えばライバルで悪く言えば多少負けて弱くなるのはむしろ歓迎くらいの仲の悪さだ。

最終決戦は、私が率いる第一軍団が中心となって臨むわけだが、魔王のお膝元たる魔王城を根拠地とするだけあって他軍団より圧倒的に数が多い。

そんな第一軍団から人類の軍との戦いにおいて救援要請などしようものなら、鼻で笑って無視されるか第一軍団弱しとみてそのまま総司令の座を奪う勢いで攻め挙がって来るだろう。

だから各軍団をあの手この手で指示し有利に戦況を運ばせ、せめて各軍団の交戦国が最終決戦時の人類側への援軍を出す余裕を無くさせ、結果人類側の参戦兵数を減らす事が出来ればそれでいいといったところだ。

各軍団長のプライドの高さを考えると簡単には総司令からの指示を受けたりはしないのだが、各軍団長間での戦功争いというかマウントの取り合いが熾烈なので、戦果の上がる指示・支援策は比較的歓迎されるのでぎりぎり私の側近の派遣が成り立っているといえる。

この点は軍団長間の仲の悪さが逆に役に立っているという皮肉とも言える。


さて、信頼できる側近達には粗方指示を出した。

指示を受け私の期待に応えようと鼻息を荒くし、手柄を立てんと我先に部屋を出て行った。頼もしく思える。彼らは今回もやってくれるだろう。


そんな頼もしい部下たちが出ていき、執務室は一時的に人がいなくなる。

人がいなくなると、またあの悩みが頭をもたげてくる。

机に座り、しばし頭を悩ます。

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