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TSガンで女体化

 TS[てぃーえす]とは、肉体の性別が変わることをいう。

 

 中学生の時、たまたまネットで目にしたこの一文はとてつもない衝撃だった。

何故なら俺は百合オタ。

 そう、女性同士が愛を育む世界が何より大好き。

 百合は至高にして尊い世界なので男は入り込む余地無し。

 当然俺も例外じゃない。

 でもいいの、至高にして尊い百合世界を眺めるだけでもう十分なの、そう思っていた。

 

 そこへTS。

 そうTS。

 その手があったかTS。

 

 TSして美少女になれば、尊い百合世界に飛び込めるんだけど。

 そう気付いた瞬間、眺めるだけで十分という考えはポイっと捨て代わりにこう祈る事にした。


 ああっ、TSの神がいるならお願いします! どうか俺をTSしてください! 美少女にしてください!


 毎日心の中で祈ったよ。

 部屋の中では声を出して祈った、それも土下座してのガチ祈りだよ。

 傍から見たらバカに見えるかも。

 でも俺はどうしてもTSしたかったの、美少女になりたかったの。

 そして高校二年の夏休み、俺はTSしたよ。

 Dカップの胸にぷりっとしたヒップ、そして腰のくびれが美しい、ロングポニテ美少女になったんだけど。

 そんな俺を、異世界といえばコレ的なモヒカンが怖い顔で見下ろしているよ。


「おい女、今何て言った?」

「聞こえなかったの、じゃあもう一度言うよ」


 モヒカンの後ろで怯えながら身を寄せあう女の人達を指差した。


「さらってきたその人達を売りに行く途中でしょ、と言ったんだけど」

「ほう、女のクセにいい度胸じゃねえか」


 あっ、女のクセにとかこいつ俺のすげえ嫌いなタイプだよ。


「その言い方だと女性に生れなくて良かった、とか思ってるの?」

「あ? 当前だろうが、力も何も無ぇ女なんかに――」


 後ろ手に持っていた主人公専用アイテムをモヒカンに向ける。


「いっ!?」

「TSガン、GO!」


 赤と青が絡み合ったビームがTSガンから飛び出す。


「おばッ!?」

 

 モヒカンのブ厚い胸に命中。

 途端にゴリラみたいな体が虹色に染まり、炭酸みたいなシュワシュワ音を立てる。


「ぐぉぉー! ぐおぉ……オァッ、アァーー!」


 ゴリラっぽい雄叫びが甲高い悲鳴に変化、モヒカンヘアもマヨネーズケースを思いきり握ったみたいにニュルルーと伸びて、ゴツイ巨体がみるみる萎んでいく。


「う、うう……」


 地面に広がる長い赤毛がゆっくり持ち上がると元モヒカンがこちらに顔を向けた。


「お、お前……よくも……」


 ほっそり整った小顔、健康的な小麦色のお肌。

 わーお、モヒカンゴリラがとんでもない褐色美女になったよ! 

 さっそくステータスオープン! どれどれ、百合魅力値は……って53! 

 すごっ、モヒカンゴリラから考えるとトンデモない数値なんだけど。


「ぐっ……ぐぐう!」


 立ち上がろうとしても無理、TS直後は体がいうこと利かないから。


「ぐう! お前らぁ!」


 女の人達の周囲でポカンとこっちを見てる二人の手下を呼んだ。


「TSガン、GO!」


 すかさず手下の一人にTSビームを撃ち込む。

 あっという間にふっくら男子がぽっちゃり女子に大変身、ただでさえキツそうだった皮の胸当てが、たぷたぷおっぱいで圧迫度アップ! むごー、言いながら転がり始めた。

 さてもう一人!……って速っ! もうあんなとこまで逃げてる!

 普通の銃ならまず当たらない距離だけどTSガンは違うよ。


「TSガン、GO!」


 見事命中。

 くらった手下は女体化しながら転倒、そのまま壁に激突した。

 このTSガンは俺が標的と決めた相手にはビームが自動追尾、確実に命中するよ。


「うああ!? 何だこりゃあ!」


 色っぽいハスキーボイスに目をやると、女体化モヒカンが体を見ながら震えていた。


「どう、女性になった気分は?」

「うおぉぉぉ! お前か? お前がやったんだな、戻せ! 俺を元に戻せぇぇ!」


 こっちに掴みかかろうとしたので後ろにぴょん。


「うおっ!」


 両手をばたつかせた女体化モヒカンが巨乳をぶるんぶるんさせてからの尻餅。


「もう一度聞くけど女性になった気分はどう?」

「気分もへったくれもあるかー! 何で女なんかにしたー!」


 女なんかにした? って、やっぱ俺と永遠に平行線なタイプだったよ。


「気分良くないの?」

「良い訳ねえだろーが! 早く元に戻しやがれー!」

「お断りなんだけど、せっかくTS美女になったんだから楽しんで生きてよ」

「も、戻さねーってのかー!?」


 おっと、こいつの背中にある剣は奪っとくよ。


「あ! てめー!」


 女体化モヒカンの声をスルーして女の子たちに手を挙げた。


「はーい、縄切るんでこっち来てくださーい」


 我先にと集まって来た女の子達の縄を剣で切る。


「これで終わりっと」

「あの、ありがとうございます!……わたし、TS魔法を初めて見ました。もしかしてあなたはTS神に選ばれし者ですか?」

「え? ま、まあ……」

「てっきりおとぎ話と思ってたのに凄い! 握手していいですか?」

「え? う、うん」


 男の時から低かったコミュ力のせいで「え?」連発なんだけど。


「えっと、これでみんな自由になった訳だけど、そこにいるモヒカンっていうか女体化モヒカンはどうするの?」


 こちらを微笑んで見ていた女の人達の目が女体化モヒカンに向けられた途端、空気まで凍るよう冷たくなったんだけど。


「みんなぁ、コイツどうしようかねぇ」

「死? それとも売って金にする?」


 女体化モヒカンの体がビクンと震える。


「それより一生あたしらの奴隷がいいね。どれ、素っ裸にひんむいて、奴隷の教えを叩き込んやろうじゃないか!」

「賛成! 賛成ー!」


 あっという間に女性たちに囲まれた女体化モヒカンが変に色っぽい悲鳴をあげる。

 これこそ因果応報、自分の罪を贖うといい。

 っていうかお前作ったの俺なんだけど、何かゴメンね。

次回「幼馴染はTSガン」に続く。

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