○○さんといっしょ
少子高齢化社会がますます進んだ今、これまで私が情熱をかけて取り組み、朝と午後に放送してきた幼児番組を見る者がいなくなってしまったのだ。幼児番組は、母親と子どもがいっしょに見て、子どもたちが健全に成長するようにと工夫してきた。ところが、母親たちも仕事をもって社会に進出し、子どもたちは一日中家に居なくなった。朝から晩まで保育園などに預けられている。そして、家でテレビなど見なくても、子どもたちが喜ぶコンテンツはネット上にいくらでもあるのだ。幼児番組の使命はなくなった。
そこで、私がテレビの幼児番組の時間帯に放送する番組として思いついたのが、老人向け番組である。テレビの主な視聴者が高齢化したからだ。老人は、変化を嫌う。だから、一度ある時間にテレビを見るようになれば、毎日見続けてくれるはずだ。
さらに老人向けの番組の構成を考えるのは案外楽だった。老人が健康で健全に生活するように、体や頭の老化を抑制させるようにと考えると、何だか幼児番組が目指していたことと一致するのだ。だから、かっこいい体操のお兄さんやかわいい歌のおねえさんが、毎日画面から笑顔で大きな声をかけて、老人たちと一緒に歌ったり体を動かしたりするコーナーや、マスコット人形の劇や、簡単な工作の時間もせってする。そして、一般の参加者を募り、ときどき公開録画もすることにした。これならば、番組の制作費用もこれまでとさほど変わりがないはずだ。予算面でも増額を望まなくてもいいのだ。
ただし、番組を編成会議に提案するのに一つだけ難しいことがあった。そこが思いつかないので、自分の企画は一向に前に進まない。番組のタイトルが容易に決まらないのだ。幼児番組と同じように「○○といっしょ」ではだめなのだ。大多数の老人には、いっしょにテレビを見てくれる人がいないのだから。