第5話魔法上達への道~その1~
体が所々痛みを発する中、その痛みのせいか目を覚ますと癖になっているのか腕を伸ばす。
「うぅ~ん」
「起きたか小僧」
……ん?
おかしい、目の前には何故かちっこいおっさんの姿がある。
俺はそっちに視線を送り立ち上がろうとする――が、足が動かない。
「骨折しとるようじゃぞ」
そう言われるとそんな気がする。
触ってみれば途轍もない激痛が俺を襲う。
「……って逃げ王様!!」
「今気づいたのか戯けが!! って、逃げは余計じゃ!!」
目の前にいるのは、ちょっとポッチャリなドワーフ。つまり(逃げ)王様だ。
レティナの国の王。マエティー・ナル・レティナ、何ていうかメチャクチャなおっさんだ。
ベッドから起き上がると武器や防具がちらほらと目につく……が、全て壊れている物らしい。
溶かしなおしもう一度剣や防具にすれば良いのに……と思っても、相手は王様。口出しは出来ない。
「小僧、治癒魔法を使えるのであろう。使って直してみよ」
「そういや……」
何でこの逃げ王が知っているかは知らないが治癒魔法というのを使ってみよう。
自分のなかで右手の回復をイメージ。
光をおびて右手の痛みが引いていく。光が消え、意識して右手を動かすと痛みなどまるで感じない。
……魔法最強!!
「これって病気とかにも効くんだろ!?」
それとも別の魔法があったりするのだろうか。
「想像力の問題じゃが、応用は出来るぞ」
「やはりか」
想像力という点では俺は飛びぬけて優秀だ。
何故なら俺は彼女がいない――おっと、自虐はそこまでにしようか。涙が出てきちゃうよ。
兎に角、漫画とアニメと小説がある世界で生きた俺はこの世界では天才なのか。
主人公っぽいな。
「凡人でもそれくらいできるがの……ふっ」
「………」
悲しいが、事実らしい。
って言うか、その目はやめて。
「さて、本題に入るかの」
「本題?」
本題、というと城に戻れといっていただけのような気がするが……。
なのになんで俺はここで寝てるんだ?
「ん? 何か、あんたに騙されていたような……」
「気のせいじゃ」
じゃあ、何で逃げ王なんて口にしたのか……。いや、何処かで俺を置いてコイツは逃げたはずだ……。
それで誰かと戦ったような気がするのだが……。思い出せないし……気のせいだろう。
「さて、話が逸れたな」
「始まっても無いですけどね」
「それもそうか。一つ提案があるじゃが、どうじゃ聞いてみんか?」
そんな言い方をされたら気になる。
好奇心が刺激され首を縦に振るととんでもない言葉を後に続けるマエティー王。
「魔法の師匠をとってみんか?」
俺の耳の調子が悪いのだろうか? 師匠と今聞こえた気がする。
あはは、まさか。この天才である俺に師匠? そう、師匠ね。
「……って、はぃぃぃぃぃぃぃいい!?」
「そんなに驚くことは無いじゃろうて」
いや、驚くことはないって、師匠って。
師匠というとハングリー精神を学べ……。ん? 何か違うような……。
「あぁ、分かっておる、ファンではないから安心しろ」
「そうなのか。って、違う。俺に魔法の師匠なんていらないからっ!」
って言うか、やっぱりファンと通じてるんだこの人。
一度息を吐くと少し考える。
結果、ありえない。
「ちなみに、凡才のおぬしが強くなる手っ取り早い方法だと思うのじゃがなぁ」
凡才……あはは、やっぱりか。
しょうがない、受け――
「じゃが、魔法は才能だけじゃないぞ」
「えっ」
おぉ、急に事情が変わったな。
って言うか、才能だけじゃないのか?
「師匠を取り、そやつに聞いてみることじゃな。命令じゃ、その代わり城に戻ってやる。そこに金は用意してある」
何故そんなことを言うか分からないが、戻ってくれるならよし。いや、師匠を何故取るのかまだわからないが受けてみるのもいいだろうと感じる。
「絶対に戻るんですね?」
「あぁ、約束は守るぞ」
その言葉に、俺は一つ頷いて金の入った袋を取る。そして、部屋から出る。
うん、何か主人公っぽい。
出て行った後、城に戻るマエティー。そして内心では、『小僧、悪いな。賭けに負けての……』と思っていた。
賭け? わからないが、ちょいとヤバイ体験ができそうだった。
☆
「え~っと、まず買出しからだな」
金貨袋をじゃらじゃらと鳴らしながら大通りを進む。
今頃マエティー王は城に帰っている事だろう。
まるは師匠のある家というのは遠いらしいので食料と水を買い込むことにする。
地図ももらってあるので大体の日数は計算できる。
まず、手ごろなところの干し肉と買うことにする。
「いらっしゃい。どのくらい買ってくれるんだい? 見たところ旅人さんだね」
「ん? ああ、五日分ぐらいの干し肉をくれ」
「はいよ。持てる?」
「当たり前よ。釣りはいらねぇぜっ!」
金貨を数枚叩きつけそう言い去っていく俺。
少しカッコつけすぎたか、思ったがこれで食料のほうは完璧だ。
次は水……なのだが、井戸でも探して水をくみ上げる事にする。
大きな城下町のせいか地図はいたるところにあるのですぐに見つけることが出来た。
「ふむ、これぐらいでいいかな」
入れ物は適当な値段の物があったのでそれを買い食料と水を背負い、いざ旅へっ! のテンションの俺。
って、ちょっと待て。
「魔物とか……やっぱいるよな」
武器屋が視界の端に映りそんな思考を口に出してしまう。
「さて、どうするか……」
周りを見ると、影流の話題 (勇者を影でサポートしている者)のことで持ちきりだ。
雰囲気からしていきなり『魔物っているんですか?』などと聞いたら怪しまれること間違えなし。
ここは用意周到に武器を買って――
「あの~」
突然女性の声が俺の耳の中に入ってくる。
が、それも影流の話題に入るためのものだろう。
「えっと、聞こえます……か?」
……俺に話しかけているのだろうか。
ちらりと視線を向けてみる。
こちらを思いっきり見ている、俺と同年代ぐらいの少女がいた。
「はい?」
「ひっ!!」
いや、何このやり取り。
話しかけてきたのはそっちだよね?
「えっと、なんですか? 一応、怪しい者じゃないけど」
「え、あ、その、なんといいますか……その」
これは、聞くまで待たないといけないのか。
それとも「すみません」と言って逃げるべきか。
迷うが待つことにする。
「付いて来て下さいっ!」
俺の手を掴み目の前の店に連れ込む少女。
何と、怪しい者は少女のこうだったということかっ!!
くっ、このまま誘拐されるのか。
視線をめぐらせればごつい顔の男が俺の目に映る。
コイツが主犯だな。まだ初心者だが俺も魔法使いっ。ここでただただやられるわけにはいかない。
「炎っ!」
ぶおんっ、出現する炎に俺は魔力を込め続ける。
肥大していく炎――
「……くさんっ! 何してるの!」
男の叫び声が聞こえるが……まだだ。
まだアイツを倒すには足りないっ!!
「お客さんっ! 店燃やす気?」
「……客?」
周囲を見れば剣の柄に手をかける旅人風の剣士や杖を持った魔法使いがいた。
いや、客と言って油断させようとしているだけに決まっている。
「騙されないぞっ!!」
「えと、その……ここ、武器屋です」
「はぁ? そんなのどうだって――武器屋?」
ここは武器を売っているところなのか。
なるほど、だから……剣士や魔法使いが……へぇ。
どうしよう、これは捕まる。
店を燃やそうとしていたんだよ? 捕まっちゃうよ。
「え、えと、そのー。何と言いますかっ! 勘違いというヤツですよ!」
炎を消し土下座する俺。
そのテンションの差に驚いたのか、簡単に許してくれる店主。
この店主の顔がごついからいけないのだ。
「ま、良いけどさ。お客さんいせいがいいねぇ~。良すぎるぐらいだよっ!」
「その節はお世話になりました」
「もう過ぎた出来事ってか。良いねぇ、そこの子と一緒に剣でも探しに来たのかい?」
微笑む店主の顔を出来るだけ見ずに剣選びへと入る。
剣の柄を触ってから少女の存在を思い出しそっちに振り向く。
「そういやお前――」
「ひっ、危ないっ!!」
……ああ、剣か。
「何、斬れるぐらいどうってこと無いって」
何たって俺は治癒魔法を使えるんだからなっ!!
「その自信は何処からくるのかわかりませんけど……店主さん、何か私にあう剣は無いですか?」
「ん? そうだねぇ」
剣を選び始める店主。
その間に俺を連れて来た理由を聞いてみる。
「えっと、旅の人みたいだったので何かアドバイスなどをもらおうかと思って」
納得。だが、俺は旅人じゃない。武器のことは王様に聞け。
「アドバイスね。俺も格好だけなんだよね、今ちょうど武器を買いに来たところだし」
「……あ」
気づいてなかったのか。
俺の腰には剣がないことに気づいていなかった様子の少女。
「あ、でも魔法使いさんですよね? さっきの炎っ!」
「これでもまだ弱い方らしい。だから師匠をとりにちょっとな」
いきなり憧れの視線で俺を見てくる少女。ちょっと危ないのではないだろうか。
……いや、かなり危ないのではないだろうか……。
「私も連れて行ってください!」
「え?」
「おいおい、じょーちゃん武器はどうした?」
「魔法剣士なんてどうでしょうか?」
そっから少女のペースになり俺も武器を購入。
俺は日本刀しか見たことは無いが、テキトーに選ばれて(武器屋のおっちゃんおススメ)にして店を出る。
「すごいです!! 私も少しなら魔法使えますがほかの魔法使いに会うのは初めてです!!」
興奮した口調で話す少女。さっきとは大違いなのでちょっと戸惑うが、相槌を打つだけなのであまり苦労はしない。
って言うか、俺も魔法使いって始めて知ったばかりだよ!!
コイツに会った時点で勇者コースはナシ? 魔法使いコースへ直行? いや、魔王なんて居ないし勇者だって意味無いか。
「あっ、そういえば名前を教えて無かったですね。私はヘレン・サティルって言います」
「あぁ、俺は風詠海弟という」
「変な名前」
「いきなり酷いな」
この世界じゃあおかしいのはわかっていたがこうも直接言われると……。
俺の心の叫びを聞かずに先へ先へと進むヘレン。
「じゃあ転移しに行きましょう」
「は? 転移?」
転移ってあの転移?
瞬間的にびゅんっ! ってなるヤツ?
そこまで魔法は出来るのか。
「転移ね。うん、行こうか」
「それじゃあ地図、見せてくれませんか?」
「地図? まあ良いけど」
そう言って地図を見せる。
「魔法地図ですねっ」
「はい?」
俺の疑問に対し答えず俺の手を握り引きずっていくヘレン。
周りが同情のまなざしを向けてくる。やめてっ!
「ここです」
兎に角でかい建物だった。
ここで転移が出来るなら言えよ、マエティー王さんよ。
「でかいな」
言葉通りでかい。でも城の二分の一ほどだったのであまり驚かない。
上に伸びた建物に入るとその大きさに二度目の衝撃を受けるが表情には出ない程度だった。
「あれ~、何で驚かないんですか?」
「城を見た後だからな」
「あの城は大きすぎますよね……」
そう言うと地図を台座のようなところに置くヘレン。
そういえば何故ここには人の気配がないのだろう。俺達以外には誰もいないし。
この大きさなら誰かいてもいいはずなのに。
「さ、乗ってください」
俺も乗るが何も起きない。
「もう! ちゃんと魔力を出してください」
「は?」
そう言われ、転移用魔方陣の説明を受けること五分。やっと理解して魔力を発する、という行為をしてみる。あまり難しくなかったので一分も掛からなかった。
ヘレンも魔力を出し始めたようだ。
「って、透けてきてるぞ!!」
「これでいいんです」
その言葉を最後に、俺達は転移用魔法陣の上から転移することに成功した。
手直ししました。