第538話たくさん放置とハイパー帰還
はっはっは、自分が読んでいる小説でこんな切り方されたらブチ切れます。よっしゃ、いっちょ怒ってみようぜ。
「……ふむ、ジッとしていればよかったのだ。何故移動した?」
「そりゃあアレだよ。俺だからだ」
真勇者となったセルティに詰問と手当てを同時にされつつ、夕刻をすごす俺。
俺の後ろでは、俺の腰掛けているベッドに横たわってすやすや寝ているモミジの姿がある。だいぶ疲れたのだろう。
「っていうか、ロープが途中で切れたのにはビビッたからな。おかげで俺は大変不快な思いをした」
モミジに足を掴まれつつ、俺の両手を勇者はしっかりと握っていた。背を伸ばすのに有効そうなのはいいが、今度は俺が千切れるからな。
救出風景を思い出し苦笑いを浮かべる俺。
仕方のないこと、と勇者にあしらわれ次の話題に移る。
「……あの時の、アレってどういうことなのだ? あ、一応自称天使の人からはいくらか話は聞いているんだが」
「ふっ、聞くか。いいだろう、まず神というものについて教えておこう。ま、知識的にはこの場で俺が一番詳しいだろうからな」
神自身よりも詳しいのは俺が神様を生んだからです。実感ないけど。
適当にまとめ話してやると、信じられないといった表情になる勇者。
彼女自身、今回の壮大な物語の一部を担っているのだが……突っ込まなくてもいいだろう。
「そして、お前の持つ砂時計。それは神器と呼ばれるものでな、神の支配する世界にあるもの……まあ世界にひとつ必ずあるらしい」
とすると、俺たち――影流と青空、俺を除く――が責任者様やっている世界にも神器はあるのだろうか?
ふっ、そうか。ならば俺をこの世界に送った奴を倒してからやることは決まったな。
神どもは城で放置で、俺と……部隊の連中は連れていけないな。
最近隊長の俺をおいてけぼりで仕事やってるみたいだし……むむぅ、影流に言って誰かと隊長を変えてもらおうかな。
まあ、ヤツ等は俺の最初の同僚だしな……これは考えるだけで終わらせておこう。
いずれまた一緒に戦うときが来る。ただし俺は後ろで見守るだけな。
「つまりこの子が神器を嗅ぎつけこの世界に来たことで……性格には現れた、出現したといったほうが正しそうだな。まあ、そのおかげで世界は崩壊を逃れることができた、と」
「ま、かなりでかい傷跡は残ったがな。後は自動的に世界は元通りになっていくだろう。それもこれもコイツの働き次第なんだがな」
ん? そういや、今気づいたのだがコイツの二つ名を聞いていないな。
なくてもよさげなのだが全員についている。ならば何らかの意図、関係がありなのだ。
これから出会う神すべてに聞き込みをし、何か見つけられたらいいんだがな。
でてしまった溜息に反応してか、つられるように勇者も溜息をつく。
一応、ここはあまり壊れていなかった民家のひとつでベッドもそこのを借りている。簡単な治療セットなどは勇者が持ってきたらしい。
「っていうか、そろそろ俺も疑問を口にするんだけどさ」
「どうした?」
「何で俺が見えてるの? しかも触れてるし」
「うひゃぁ!」
うひゃぁ! じゃないぞ。
っていうか飛びのくな。まるでゴキを相手にしているような反応じゃないか。若干顔も赤いし、失礼極まりない。
「……あのなぁ」
「い、いや、アレだ。手当てのために触れていただけだ。うん」
「ああ、うんそうか。で、何で見えるんだ?」
「う、うう……」
顔をうつむける勇者。
俺のこと直視できないの!? これは本格的に嫌われたなぁ、俺も。
何か気を悪くするようなこと言ったのだろうか? たぶん、言ってない。
だって政治君子を掲げる海弟さんですよ? 悪口なんて産まれてから一度も言ってことはありません。
「まあいいや。きっとアレだ、勇者覚醒の後だから見ることができるんだきっと。そうに違いない」
じゃないとこの世界での俺のアイデンティティが崩壊する。
そんなことを考えたりしていると、背後で布同士が擦りあうような音が聞こえる。
「口、渇いた……」
「おやよう」
「おやす、おやよ……。おはよう」
二度つられたな。
「水か。海にたくさんあるぞ」
「あの水は飲めない水だ!」
いや、神なら……神なら飲めるはず!
「何か嫌な予感しかしないんだけど? ったく、まあいいや」
って覚醒早いな!
ぼんやりとした時間は大切にしなきゃいけないと俺は思うんだが、最近そんなことはないのかとか思い初めてきた。
だって俺の周り寝起きはスッキリしてる人ばかりなんだもん。
ベッドからモミジは降りると急いで家の外へと向かう。
勇者と顔を見合わせてから後を追う。
何か探しているのだろうか?
「ふう、久々の外は気持ちいいな」
「うむ。深夜じゃなかったらもっといいんだがな。おら、家の中に戻るぞ」
「待って! っていうか、私は神なの。暗闇だろうと気にしないわ」
「……なら二つ名を教えろ」
「へ?」
何だろうこの反応。
何かおかしい気がする。
「っ、な、なんでそんなの教えなきゃいけないのよ!」
「そりゃあ普通神様にはそれがあるはずだからだ」
「……び、び……」
「び?」
「女神よ!」
「撃沈しろ馬鹿」
ったく、神器神器騒いでるから本物かと思ったが……そんなことはないんだな。
どうやって嗅ぎつけたかは知らないが、この少女はただの頭の痛い子でした。
……むう。
「何でよ! しっかり教えてあげたでしょ!」
「あのなぁ。俺もルールはしっかり知らないが、二つ名の中には必ず役職名が入っているんだよ。門番、絵師……その他たくさんだ」
お前のヴィーナスは違うだろ。何が違うってお前がヴィーナスと呼ぶべき貴婦人さがないところから始まるな。
あとお前じゃ若すぎるだろ。
年齢は勇者ぐらいあって、勇者より落ち着いてて時折俺を怒らないのが本物のヴィーナスだ。決して青空怖いなんてことはない。
「あの、ひとつ聞きたいんだけど?」
「いくつでもいいぞ。聞くがいい」
話の展開についていけていない勇者を放っておいて俺たちは会話を進める。
「何でそんなに詳しいの……? えと、本物?」
「ついに弱気になったか。まあ真実はいつもひとつだからな。お前の予想は大当たりを超え一日で世界一周旅行ができるペアチケットプレゼントものだぞ」
「観光ないよねそれ!」
正確にはその場で一周回って世界一周終わりですレベル。
うん、一番長い距離を旅行できるなんて思わないことだ。一番短い距離ってこともあるんだぞ? 三泊二日とか何回転すりゃいいんだよ。
「……はー。じゃあネタバレすると私は妖精の剣を作った人なんだけどさ」
「本当にお前は空気を読まんな。そういうところ助かる」
とんとん拍子で話が進んでいくね!
にしても、だから俺を見ることができたのか……。
まあ、そんなことどうでもいい。クォンを連れてあとは帰るだけ。
ま、ヤツのことだ。呼べばくるぐらいの気軽さで現れてくれるだろう。
俺の旅の最後が頼りっきりだった妖精の剣の製作者と謎覚醒を起こしたのを自覚していない勇者とは……。
ううむ、もう少し俺は人望があってもいいと思う。
っていうか、来てくれる人はいると思うんだ。でも、会ったら最後……しばらく元の世界に帰れない状況になるような気がするし。
何か逃げるのが一番いいよね!
一応地面に書置きを残しておこう。消えてもしらん。
「ん? お前……異世界、帰る……って」
俺の書いている文字をみて勇者が突っ込む。
まあ、理解できないだろうな。
「もしも、俺のことを聞いてくる奴がいたらこう答えてくれ。つけめん、と」
「……意味がわからないぞ」
「俺もだ。じゃ、書き終えたし帰るかな。クォーン」
何か泣き声みたいになったな。
「何というか、気軽すぎない?」
「元々はこんな長く滞在するつもりはなかったんだよ」
正直、世界崩壊を相手にするのが一番キツかったです。
「どうも」
「怖いぞおいッ!」
いきなり背後から声をかけられ隣にいた妖精が飛びのく中、動じず言う俺。
クォンの声はなんか怖さが足りない。
「じゃ、帰りますか。この後、たくさんの"女の子"から海弟は恨まれることは確定ですけどね」
「はっはっは、しかし世界の壁は厚かった」
「……犬死ちゃんを派遣しますか」
俺の死亡フラグを何度でも建ててくるコイツは何なんだろう。
俺を心の底から殺したがっているのか。
「はぁ。まあ許します。まったく私のこと全然構ってくれませんでしたし」
「必要ない」
殺気のオーラが見える。
「それじゃ、みなさんさようなら」
「『鏡』」
って、久々に叫んだ気がする。
さて、虎子と竜子のいる世界に戻るとしよう。クォンから受け取った手鏡に触れ転移する。
……さて、適当な処理だったが何だか重い肩の荷が下りた気がする。
あれ、たくさんのヒロインた――放置。
何でそこで帰ったん――帰還。
世界の謎は深まるばかり。
っていうか、溜めておいた登場人物一覧から何から何までが消えたので濃い話が書けないッ! え? 覚えておけ?
……。
もうそろそろ、新しい小説書きたいな。アイデアいっぱいで覚えるどころじゃあありません。