第537話恩師(?)と海弟
書いたのはいいけど更新するの忘れてた。テヘッ☆
視界がぼやける……。それと同時に体中の痛みを感じる。
頭がボーッとする中、今までのことを思い出して上半身だけ起こす。
「……ああ、ここは……」
どうやら村の地下にある施設……村長の家の真下にあの空洞があったのだから、何の変哲もないあの剣があった場所に近い……何処かだろう。
何処かの通路らしいが……太陽の光があるおかげで明るく視界に問題はない。俺は何時間横になっていたんだろうか。
にしても、鏡は地上だし妖精の剣は……ないし。
「前に進むか、後ろに戻るか。大抵進めばあっているだろ、こういうのはさ」
瓦礫が段差になるように落ちている場所でもあればそこから上って上に行くのだが、残念ながらそういう場所は見つからずに下に進むことのできる階段だけが見つかった。
「……もど、るか? いや、待て。たぶんここはショートカットした場所のどこかだ」
人魚と一緒に天井裏から一気に一番奥へ行ったからここらは見ていない。
うむ、何かを閃いたかのように言っているが正直、詰みだと俺は思うわけですよ。
「くそう、一度戻るか。奥に進んだところで一番奥の……今は何もない広間に出るだけだからな」
物に触れられないというのが痛いな。その割に地面や壁を貫通なんて真似できないから性質が悪い。
俺は幽霊じゃなかったのか!
と、まあ透け透けの俺は来た道を戻ろうとして――
ドッシーン!!
――落ちてきた少女に出会う。
目をくるくる回しているその少女、背中から羽……というよりも翅か。昆虫の持つような。
それを背中から生やしている。
落ち着いた色の髪をした少女なのだが、妙な趣味でもあるのだろうか。
いや、人には言えないようなさ……うん。
俺は普通の人には見えないし、協力することも出来ないだろうが……うん、そうだ。
まだ目を回している少女なのだが俺の考えることは一つ。
コイツが出口を見つけたらそこを使わせてもらおう、というもの。
なので出口を見つけるまでこの少女をこの崩壊した神殿から出すわけにはいかない。
残念ながら救出しに来た人間は片っ端から倒していくことになるだろうな。うん、俺の命のために散れ。
そんな黒い思考をしていると、目の前の少女が目覚める。
「くっそー、神器のニオイがして来たのに……何でこんなことにぃ~」
「すごいなお前。何で創られたばかりの神器の気配がわかるんだよ」
「ん? そりゃあ――」
……え?
二人して顔をあわせそんな表情になる。
何でコイツは俺のことが見えるのだろうか?
もしやクォン的立場補正か? そんな補正があるかどうかは知らないが。
ひとまず落ち着く俺。しかし、俺とは逆に慌てだす少女。
「な、何!? 聞かれた? 絶対聞かれたよー。うわー」
雰囲気が慌しいな。この表現で間違ってないと思う。
兎に角、雰囲気が慌しい少女に張り手をいれて落ち着かせると冷静になるように言う。
「女の子に手をあげるなんて……。男の風上にもおけないわ!」
「お前なぁ」
お前も女の風上に置けないから似たようなものじゃあないか。
一々叩かれたぐらいで騒ぐなよ。
もう色々と面倒なので放っておこうかと思ったが、ギリギリのところで思いとどまる。
どういうわけだか知らないが、俺と会話出来るのだ。ならばこれを有効利用せねば。
ここからどう有効的に利用出来るか知らないが。
でも、まあ俺もここから脱出はしたい事実は変わらない。
「わかった。悪かったよ」
「悪かった、で済むと思ってるの!?」
「いや、一番行いの悪いお前に言われても……」
「あんた、私のこと馬鹿にしてるでしょ?」
「ようやく気付いてくれたことで何よりだ」
まあ、一応冷静にはなってくれたようだな。
悪口の言いあいで冷静になる奴なんて少ないほうだと思うのだが……俺にその才能があるのか。
ううむ、怖いなぁ。才能ってヤツは。
「そんなことよりも、だ。ここから脱出したいから手を貸せ」
「ムッ、何その言い方……」
一々突っかかってくるな。
これは言い方を噛み砕いて更に噛み砕いて更に更に噛み砕いて……、まあ途轍もなくわかりやすく敬語抜きにして俺の意思を説明してやったんじゃないか。
「文句あるのか?」
「言いたいことは山ほどある……んだけど、仕方ない。私も脱出したいもん」
作戦は? 見たいな視線を俺に送ってくるので一応言っておく。
「お前が出口を探し、俺が脱出する。作戦はそれだけだ」
「ちょっと待って……。協力って言葉の意味知ってる?」
相手がこちらに手を貸し、またこちらが相手に手を貸すことだろう?
間違っていないはずだ。
だから俺は言ったはずだ。お前に『手を貸せ』と。
こちらが手を貸すなどと一言も言っていないぞ。
……なんて言ったら呆れられ、逃げられるだろうな。
まったく、めんどうくさいものです。はっはっは。
……コホンッ、よし俺がサルにでもわかる言葉を並べ説得してやろう。
「あのな、俺はこの通り……」
少女の体を触る。すり抜けたのを見てこの少女も納得するはずだろう。
ペタリ、と少女の胸の辺りに触れてから続きを言う。
「ほら、この通り。すり抜けてしま……う? あるぇ?」
何これおかしい。
俺の手はしっかりと、少女の胸の辺りに触れていた。
もにゅもにゅやってみるが確かに感触はある。
……恐ろしいなぁ、現実って。
これってコイツも俺に触れられる、ってことだろ?
「……最低、最低すぎッ!!」
「うわぁッ!!」
鉄拳制裁が俺を待ち構えているのであった。
うむ、格ゲーにおける必殺技並みの威力があったね、これは。
吹っ飛びこそしなかったが、川は見えた。川は。
俺が頑丈でよかった、とか言って笑っていられるレベルをコイツは百ぐらい超えている。
マジでふざけんな、と言ってやりたい。
「ホント、マジでふざけんな」
「ふざけているのはそっちでしょ!!」
「おっしゃるとおりでございます」
……ぐぬぬ。
「でもな、お前の胸にそれだけの価値があったと思うか? 無いだろ? だって胸無いに等しいんだもブベラッ!!」
えぇっ、何でぇ?
☆
「私のガラスのハートは粉々よッ!!」
「何? お前の絶壁に亀裂が入った?」
「殴られたいの? ねぇ、殴られたいの?」
正直、女の腕力で殴られたところで痛くも痒くもないのだが、的確に頬とか狙われると舌を噛むやもしれない。
しかたない、からかうのは終わりにしよう。
「怒っていても仕方ないし、よし脱出するとしようじゃないか。怒っているのはお前だけだが」
「謝れッ! 誰でもない私に謝れッ! キサマは六つの罪を犯した!」
「ほう、聞こうじゃないか」
「一つは私の胸についてからかったことッ!」
バシィッ! と効果音でも付きそうなポーズとともに言い放つ少女。
少女といっても成長期は終わっていそうな歳、とここで言っておこう。
続いてポーズを変え、しかしこちらを向き少女は言う。
「一つは私のガラスのハートを粉砕したことッ!」
「はぁ、そこまでからかってすまんな。よし、じゃあ行こう」
「残り四つッ! 聞こうって言ったのはあんたでしょーが!」
「テンション高いなお前」
「誰のせいだと思って……はぁ、やめた。いいわ、口で言うよりも己の存在を賭けたラストバトルで勝負を決めましょう」
「ほお、面白い」
お互いがお互いの存在を賭け、激しいバトルを行う。
最後にこの地に立っていられた者が勝者、負けは死を意味する。
さあ、やろうじゃないか。
「って、ちょっと待て。俺は丸腰だ」
対する相手は何処からかナイフのようなものを二本取り出して構えている。
おかしくないかそれは。
「関係ないでしょ?」
「いや、俺の得物は剣なのだが……」
「人間、両手という二つの武器を持って産まれてくるの……」
何それ酷い。
瞬間、俺が愕然としている真っ最中なのに、卑怯なヤツは俺の頬の皮をナイフを突き出しギリギリ一枚を削り実力というものを見せ付けてくる。
皮一枚、といっても物凄いスピードだった為かかなり痛い。
的確な位置へ運べるそのコントロールと素早さ。確かに素手では威力がなくても軽量の刃物を手にした彼女は十分強者と呼べる。
俺にはわかる。
「おう、わかった。お前は俺より弱いということがなァッ!!」
「っ、今のでわかったでしょ!? あれが私の実力、あんたは素手だし勝てっこない。オーケー?」
「いや、何てことないさ。うん、だってアレだよ?」
背後を向き全力で走る。
ほら、世間でも言うじゃないか。
「逃げるが勝ちだろッ!?」
俺の勝ちで勝負は終わった――彼女素直に負けを認め、己の首筋に……
なんてことは無く、俺の全力疾走に食らいつくように走り後を追ってくる。
正直言って予想の範疇を超えている。
「何でそんなスピードが出せるんだよ!?」
クソッ、逃げ足一級を持つ俺と同等のスピードだと!?
「人が神に適うとでも思ったのかッ!!」
「はっはっは、神様? いるわけねーだ――いるな」
うん、いるね。
そういやさっき神器が何とかとか……。
「スツォッープッ!! イヤッフゥー!」
「い、イヤッフぅ?」
俺はテンションの圧倒的な違いを見せつけ少女の足を止める。
「神だと? 俺の娘だと?」
「……」
うわぁ、って顔やめろよ。
っていうか、いきなり俺の娘ってのもないとは思うが早急にコイツとは和解しなければ。
そしてお父さんと娘の威厳の差というのを教えてやらねば。
「あ、でも……うーん」
「何が気になっているのかは知らないが。一つ言っておこう。俺はこの世界に神を呼んだ人物で、神を生んだのも俺。つまりアレだよ、恩師、恩人だ。恩人以上甘い物未満なんだよ」
「何で甘い物のが恩人より優先させられてるわけ!?」
いや、普通だろう。
「で、だ。ここまでの話を信用してほしい」
「馬鹿じゃないの!? 何の根拠もないのに信用してほしいとか、それとも根拠があるの?」
「母性本能の塊である俺の説得が通じないとは……」
「いや、母性本能があったら父親じゃないし」
「よし、今のが根拠だ」
息のあった漫才のようなボケと突っ込み。
これこそが親子の絆、親子だからこそ出来る信頼のボケと突っ込み。
「……は?」
「すみません、ゴメンなさい。ここで根拠なんて出せるわけないじゃないですかー」
何だよ親子だから出来る信頼のボケと突っ込みって。そんなもん誰とでも出来るよッ!!
「でも、さ。あんたは私が神だ、って言っても馬鹿にしなかった。少なくとも神と関わりはあった……んだよね?」
「お前の考察だろう? それよりも俺はお前の父親だということを認めさせたい」
「それはない」
なんでなの!? 何でこんなに即答されるの!?
チィッ、反抗期か!?
「神様に家族がいるわけないでしょ? まぁ、父親のようなものがいる……記憶があるけど。あんたみたいな間抜け幽霊じゃないだろうし」
「誰が間抜け幽霊だッ!」
もういいや。父親とか、そんなの関係ない。
まずはここから出ることを優先しよう。それと貴重なデータも得ることが出来た。
神の家族に関する記憶は曖昧、ってことな。
「そりゃあ、家族はいたら嬉しいけど。ないものねだりをするほど甘ったれた根性で神様やってないわけですし」
「ま、証明してくれる人間はこの外にたくさんいるんだ。一先ずは外に出ることを目標にしよう」
「ラストバトルは延期ってことね」
そんなもの開始した覚えはないぞ。純粋に俺は命を狙われていただけだろアレは。
命のやり取りなんてモノじゃねぇ。俺だけが必ず死ぬ結末しか辿らない恐ろしい虐殺だ。
そんなこんなをしていると、視界が茜色に染まっていることに気付く。
そろそろここを出なければ時期に夜になる。
こんなところじゃあ一直線にしか逃げられないし、もしも鳥型の魔物などに襲われたらと思うとゾッとするな。
魔法で対処できるのにも限界があるし、そろそろ俺の体も疲れてきた。
「そうだ。お前は神なのだろう? なら空を飛べるはずだ」
「あんた、神が空を飛んでいるところを見たことある?」
……思い出せ。
クソッ、該当する記憶がないッ!!
しかし、しかし……ここでイエスと言えば。言うだけで、コイツは空を飛ぶ能力があるっていう設定が付くかも知れないッ!
言うしかない。言うしか……。
「ああ、見たことあるぜ」
「私は飛べないけどね」
クソッ、このメタ発言土下座じゃすまねぇぞ!?
どうしてくれるっていうんだ……。
「んー。音を立てて人を呼ぶ……ってのが一番いい方法かもね。その他は……壁を破壊するとか」
「半壊しているここをもっと崩したら俺たちペシャンコだぞ? 一度に消滅させるぐらいの力がないと無理だ」
白の剣(仮)があれば可能といえば可能なのだが……残念なことに手元にない。
となると、音を立てて人を呼ぶほうだな。
……って、待てよ?
天井までの高さは……二十メートルぐらいだろう。そこから落ちて、一応無傷な俺が落ちていた場所は勇者の末裔から真の勇者に無事クラスチェンジできたセルティ……そういえば俺は綿毛だったな。
だから無傷なのか。
と、そうじゃない。
あそこにいればセルティが見つけてくれるんじゃないか? ということだ。
きっと落ちた位置も大体把握してくれていると思うし、例えあの後逃げたといっても勇者様だ、きっと帰ってきて俺を救ってくれる。
「よし、俺たちのいた位置に戻るぞッ! お前の求めているその神器を持った奴が助けにきてくれる」
「……だったら最初から言ってよ!」
来た道を見ながら言う少女。
「どうした?」
「元の場所わかんなくなって――」
「まぁ、何て馬鹿な子なの。でも馬鹿な子ほど可愛い」
「ぞくっ、ってした」
悪かったな。
しかし、コイツも説明がいると思うから俺も一応言っておこう。
「俺は転移魔法が使えてな、ほとんど想像力任せで記憶力など塵以下に必要としないのだが一応、行ったことのある場所の風景ぐらいは楽に覚えている」
まあ、覚えていようと意識しないと消えていくがその後三十分ぐらいなら記憶は残っている。
何度もこの記憶術を生かそうとしたのだが……何度挫折したことか。
何に生かそうとしたのかって? そりゃあテストの暗記に決まっているだろッ!?
問題用紙を入手するところまではいけるのだが、その後の記憶がダメなのだ。
「ま、元の位置に戻るぞ」
「今までのことは無意味だったってこと……ね。ははは」
「いや、無意味ではないだろ。俺の名前は海弟だが、お前は?」
「モミジ、だけど」
「うむ、名前を教えあえるぐらいの仲にはなれた」
「初対面なら普通でしょ」
「言うな」
二つ連続して更新しますねー。
次の話を書いている途中に気づいたので。というか、正直この話はいらなかったと思うんだ。もっと別のことできた気がするし。




