第527話憎悪と絶望
今回は白黒らしくない展開ですね。
うーん、何故だろう……海弟ほのぼのは住み込み神様のほうを使ってバランスを取るって言ってたのに、最近までこっちがほのぼのしていたからなぁ。
反動というヤツか……。
ジーナを置いて、一人浜辺へ来たわけだが……。
ここにいるのは一人じゃあない。
先客がいる。予想通りといえばそうか。
いいや、当然というヤツか。
「……許せない」
「許してもらおうとは思わないぞ」
表情を歪め、脅す口調で叫ぶ黒ローブ。
やっと素顔が見えたのだが……それはあまりにも恐ろしい。
「ッ、私の……役割を奪うなッ!! 誰もが納得するような終わり方なんてない、だから恨みは生まれる」
「今のお前みたいにか。面白い」
不敵な笑みとともに言葉を返してやる。
何度も倒した敵だ。
例え、何度襲いかかかってこようとも、俺に勝利以外の道はない。
剣の柄に手を当てる。
「行くか?」
「……そこまで、私は頭は悪くない」
「はァ?」
何をコイツは言って――
思考が途切れる。
その理由は、地面の揺れだ。いわゆる地震というヤツである。
それも収まる気配がない。
「鏡の外だからか、使える技が増えているみたいだな」
「この世の半分以上は憎悪で出来ている。だから悪は強い、だからこそ希望が求められる」
「何が言いたい」
「憎悪を持っている者こそが最大の希望を求めている。その矛盾から生まれる痛みが私の力になる」
誰かを憎み、救いを求めている。
確かに矛盾している。
けれども、一つの事実はわかる。
その誰かに助けを求めている人物が傷つけられた、ということ。
だからこそ憎む、そして何も出来ない自分を救ってほしいと思っている。
この世にヒーローなんていないんだがな。
「正義とは何? 悪とは何? 時が過ぎていく中で忘れられるものはたくさんあるけれど、あなた自身が忘れている」
「忘れてなどいないさ!」
正義が何か、悪が何か。
答えてやろう。
「正義ってのはな、何かと比べられるものじゃあない。それは正義が単体で存在するわけじゃあないからだ」
「……答えになっていない」
魔力で生み出された刃が俺へと放たれる。
それを後ろへ飛んで回避すると、理解できていない黒ローブに向かい叫ぶ。
「道だぞ。正義は道だ、何処へ繋がっているのかわからない、けれども踏み外しちゃあいけないものだ!!」
俺は当然、踏み外したがな!!
「道……そう。では少しでも踏み外したら悪、そういう認識なのね?」
「おいおい、馬鹿なことを言うなよ。正義の道を踏み外すことなんて誰にも出来ないんだぞ?」
普通は、な。
「言っている意味がわからない」
「誰かに背中を押されなきゃ、その道からは外れない。誰かに手を差し伸べられなきゃ、その道へは戻れない。それが正義の道ってものだ!!」
剣を抜いて黒ローブに切りかかる。
砂に足を取られているせいか、お互いに動きが鈍いが……腕の動きまで鈍ることはない。
高速で打ち出された一振りを何処からか取り出した剣で防ぐ黒ローブ。
打ち合うごとに風が生み出され、黒ローブのローブが風にすくわれ顔が丸見えになる。
けれども、俺が見ていたのは黒ローブの瞳のみ。
それ以外のことに気をつかっていたら勝てない。
「憎悪の力はどう?」
「心地良いな」
「……意味がわからない」
冗談の通じない奴め。
こんな荒い剣戟が心地良いわけないだろう。
本当にこれが憎悪から生み出され黒ローブに宿った力だというのなら、これはもうトラウマになるな。
人から憎悪を向けられただけで発作が起きるっていうね。うん、最悪だ。
だから、コイツは倒さないとな。
世界のためとか、たった一人の誰かのためとかじゃなく。
俺の未来のために! ……ちょっとカッコつけたな。
数分間連続で攻撃の応答を続けているとさすがにスタミナが持たなくなってくる。
それも当然なのだが……相手はまったく疲れている様子ではない。
余裕さえある気がする。
「まだ弱い。悪龍様、あなたの力が必要なのです……。私たちにしか出来ない、この世を絶望で埋め尽くすという野望のために」
「俺は絶望しないぞ。この世から甘いものが無くならない限りッ!! よって、お前等の野望が成就することはないッ!!」
「あなたはここで死にますから問題ありません」
その一振りに込められた力を埋めとめきれずに俺の持っていた妖精の剣が弾かれて何処かへ飛んでいく。
砂浜に刺さる音が聞こえたと同時に自分が丸腰なのに気づき距離を取るため背後に飛ぶ。
「……っ、逃げ足の速い……」
何? 俺はここに……そうか。
妖精の剣、俺に実体を……いいや、俺の力の源ッ!
それがなくなった今、奴に俺の姿は見えない。
……めんどうだが、ここで片付けるッ!
「炎よッ!」
「後ろ?」
炎に反応し、後ろを振り向く黒ローブだが遅い……振り向く前に火球が黒ローブに当たり弾ける。
その衝撃で砂煙が舞い視界を悪くさせる。
……不意打ちレベルとしては五億ぐらいつけてもいい攻撃だったのだが……どうだろう。
レベルの基準さえもわかっていないわけだが、適当に思考をめぐらせる。
まあ、あの攻撃を受けて死んでいないはずがないだろう。
「アアアアアァァァァァァァァァッ!!!」
「な、何!?」
砂煙とともに止んでいた地震が再び起こり、砂煙が風に乗りすべて遠くまで散っていく。
そして火球に当たったはずの黒ローブの姿が風が飛んできた中央に見えた。
「夢? 希望? 憎悪があるから絶望は生まれる。けれど、夢があるから何なの? 希望が生まれる、そんなわけないッ!!」
……ふっ。
フッハッハッハッハッ!!
「久しぶりに笑わせてもらおう」
妖精の剣が風で飛ばされたのか、近くにあったので手に取る。
「クハハハハハハハハハッ!! テメェにそれを言う権利はねェッ!!」
「うわァァァァァッ!!」
……酷く錯乱している様子だな。
俺もだ。俺も。
「俺も感情をむき出しにして行くぞッ!」
お互いに縦に剣を振り鍔迫り合いに持ち込む。
それが五秒ほど続いたところで力の押し合いが終わり黒ローブの体が傾く。
「うおりャァァァァァ!!」
開いていた腹へ横殴りの一撃を放つ。
もうほとんど奇声といってもいい叫び声とともに――
「アアアァッ!!」
より高い声の黒ローブは右腕で攻撃を防ぐ。
いや、防ぐとは言わない。
右腕を犠牲に攻撃を防ぎきった。
勢いのままに横に飛び死から逃れる黒ローブ。
……何か、違和感。
「……片腕の再生なら、三秒もあれば終わる。お前はその程度なんだ」
「俺に絶望を与えようとしても無駄だぞ?」
「……どうだろうか? これは最後のメッセージだ」
最後のメッセージ?
これで会話は終了、という意味か。
「村へ戻ってみろ。私がお前のために"とっておき"を用意した」
「……それは――」
俺の言葉が発せられる前に、べちゃりと水の塊になり浜辺の砂に吸い取られる黒ローブ。
……あれは、偽物。
「……最後のメッセージ、か」
村のほうを向く。
夜空のせいか、よく見えないが……あれは、煙?
「……嘘だろ?」
俺をここまで誘導させるために……馬鹿な。
あの場にはアンちゃんがいるんだ。そう簡単に……。
憎悪、絶望。
……まさか、そんなはずはない。
奴がそれで強化されているなら、きっとアンちゃんも……きっと。
「……悪い予感しかしないぞオイ」
もしもウミが倒されてしまえば俺は元の世界へと帰られなくなる。
これは……この世界で辿るべき道を間違えた俺への罰ゲームなのか?
誰かが死ぬ責任を……俺が取らなきゃダメなのか?
「救うッ!! 何があってもだ!」
例え、追い込まなければ右腕を切り落とすぐらいしか出来なくても。
救いきってみせる。
ここで決めた。走りながら決めたッ!
考えさせられるゲーム、ってのもありますよね。教育ゲームとかではなく。
教育ゲームが有効活用される例を自分は知りませんが、精神をギリギリまですり減らされるようなゲームは逆に何か深いものが詰まっている気がします。
作者の意思ももちろんですが、自分自身を見つめなおす、何てことも出来ている気がします。
現実とそれは違うのかも知れません。けれども、決意の元に動くヒーローほどカッコいいものはないものです。それは現実もゲームも変わりません。
小説ではどうなのだろうね。




