第524話二度目と説得
……更新が不安定すぎる。
一週間に四回から三回更新できてれば良いほうだと友人に言われました。
でも毎日更新は貫きたいんです。
……頑張ろう、自分。
咆哮……それと同時に鏡が音を拾い反射し続ける。
三度の反射だったのだが……それでも大きな衝撃となった。
「鼓膜が破れるかと思ったぞ。アンちゃん、覚悟は決めたか?」
意思疎通など出来ない、だから何を伝えたいのかなんてわからない。
ただ、俺の意思が伝われば相手だってこちらに意思を伝えてくる。どんな方法を使ってでも。
戦いとはそういうものだ。
力と力のぶつかり合い程度なら喧嘩で十分。心と心をぶつけないと、戦いとは呼べないぜ。
「海……あれ、視界が……」
後ろから掠れるような声が聞こえてくる。
ずっと静かにしていたジーナだが、視界……?
俺の名前さえ中途半端に呼んでくれたので何か文句でも言おうかと思ったのだが……どうやら色々と危ない状況らしい。
「チッ、そういうことか」
俺はアンちゃんをそう簡単に倒してしまうことは出来ない。
それはジーナの夢を壊す行為であるから、しかし……今の状況。
黒い魔力がジーナを包んでいる。
視界を奪っているのはそのせいだろう。そして、今まさに意識さえ乗っ取ろうとしている。
「う、うぅぅぅ……」
「どうやりゃ治るんだよ、コレは」
俺に乗っ取りの魔法をかけてこなかったところを見ると、膨大な魔力を持つ相手には使えない……とか、そんな制限があるはずだ。
いや、制限というより自らの能力の限界が。
ならば、ジーナには悪いが……少し眠っていてもらおう。
本来魔力を持たない人間に魔力を流し込む……だけでも危険なのだが、アンちゃんの魔法を防げるだけの量をジーナの体の中に溜めるのだ。
嫌なことはあまり想像したくないが、もしもアンちゃんの魔法を無力化したとしても、ジーナの精神が持つかどうか……。
でも今はやるしかない。
アンちゃんの魔法に完全にかかっていないジーナ、今しかチャンスはない。
「よし、やってみるか」
一度に大量の魔力を注入するのではなく、少しずつ。
それでも拒絶反応に似た、痙攣を起こしているジーナ。
もう意識があるのかどうかもわからない。
「……そちらに気を取られていていいんですか?」
「ッ!」
背後を振り向けば、再生していた。
誰が? とか、そういう疑問はナシだ。
「黒ローブ。何で生きてるッ!」
「……逆に、何故あの程度で殺せたと確信できたのかが不思議ですね」
「あの程度……仮にも劣化した攻撃だったとしても、消滅したのは確認したぞ!」
黒ローブの姿が、この鏡の箱の中から完全に消えているのは確認済みだった。
魔力の残滓すらない、だからこそ完全な消滅。
「私は悪龍の使い、悪龍様がいるのなら、完全な消滅からも逃れられる」
「……殴って死なないなんて、まるでゾンビみたいだ」
ったく、厄介だ。
俺はジーナだけで手一杯だというのに、これで逆転されてしまうってのか?
俺がジーナを連れてきたから、だからジーナを狙われて、負けるのか?
「戦いの続きをしましょう。あなたの負けは確定していますが」
真っ黒い刀身、黒水晶で出来た剣を振り下ろす黒ローブ。
同時にそこから発生した次元の歪みにも似た黒い残滓が俺へ向かい放たれる。
ジーナを抱えたまま横に飛びそれを避けると黒ローブを睨む。
「悪龍様、どうやら最初の犠牲者はあの者のようです」
それに反応するようにアンちゃんの咆哮。
あの龍、見かけによらず知能は高いみたいだ。
だからこそ厄介。
俺たちみたいな夢を追いかける馬鹿にとって、天敵だ。
「……けど、それを乗り越えてこそ夢が叶えれる、ってモノだな。最初から、そう決めてたじゃないか」
アンちゃんを倒して、背中に乗せてもらう、って。
仲間にして……悪いことをしないように誓わせる、って。
……果たさなきゃ、眠れないぜ。
「この戦い。死を覚悟しよう。だから全力を出すぞ」
わけのわからない男が創った世界だが、俺がここで死ぬだけの価値はある。
「……こちらは遊びのつもりでいきますよ?」
「俺の覚悟への冒涜だな。だが、この遊び……本気にさせてやるよ」
剣の刃の部分を一度撫で、指先の痛みを確認し……同時に切れ味も確認する。
ふっ、この剣……白の剣よりかは劣るが、剣の形をしているだけのことはある。
「白の剣でしか安定させられない光の魔法を操作できるようになるだけのことはある」
「……もう、おしゃべりの時間は終わっています」
頭上から迫る黒い刀身の剣。
それを自らの剣で弾くと黒ローブの姿を追う。
着地地点を瞬時に判断すると、黒ローブが着地すると同時にすぐに横殴りの一撃を放つ。
不安定だったからか、手を添えて攻撃を防ぐ黒ローブ。
剣を弾き飛ばすまでにはいかなかったが、手首へのダメージは相当なものだろう。
意外にあの防ぎ方はやりたくないものである。万能っちゃ万能だけど。
そこから何度か剣を重ね、鍔迫り合いへと持ち込む。
「……遊んでていいのか?」
「あなたこそ、彼女……もうすぐ私たちの仲間になりますよ」
ッ、しまった……。
後ろへ視線を戻した一瞬の隙――黒ローブが身をくねり鍔迫り合いから逃げる。
バランスを少し崩したところに黒ローブの剣が俺の首を狙い放たれる。
それを剣で受けると再び鍔迫り合いへ。
「確認、できましたかね?」
黒ローブが呟く。
その視線は俺の目へ固定されている。
話を聞くときは、とかそういうのじゃない。
つねに相手の目を見ていればどんな手を次に使うのかがわかるからだ。
これも万能の手段ではないがな。
「……卑怯だな。うん、俺に卑怯と呼ばせるぐらいだ、すごく卑怯」
ジーナの周囲を覆う黒い魔力の残滓。
明らかに洗脳完了が近いことを意味している。
魔力の量では対抗できず、このままでは洗脳を待つしかない。
……と、ここまでが今の現状だが、恋も戦いも盲目なんだぜ?
初耳? いや、俺が今ここで決めたんだ。
「ジーナッ! ここで失った夢は取り返せないぞ、それでもいいのか!?」
背後で反応はない。
「無駄です」
「俺たちに勝ち目はないが、夢はある」
「……あなたたちの夢になど興味はありません」
「悪人の言い草だな」
「悪人ですから」
……んじゃあ、正義のヒーロー海弟さんと助手のジーナに倒されてもらわないとな。
「この世界、人が生きるにはツライと思わないか?」
「……何を……」
「ゲームでもさ、誰かを優先すると、そのパーティの誰かにしわ寄せがくるんだよ、大抵それは使えない奴」
「……理解できません」
「現実でもそうだ。自分が楽をすることで、見知らぬ誰かにしわ寄せがくる。困るよなぁ」
……でも、何処かで誰かが我慢しなきゃ回らないこの世の中だ。
全員が全員、王様じゃあ国は作れない。作れても国民が自分一人なんだからな。
だから誰かが王様になるのを諦めなきゃいけない。
「我慢するのを不幸だとか、自由に生きているのが幸運だとか。でもさ、不幸でも幸運でも夢は見続けられるんだよッ! いいや、夢さえ叶えられれば運勢なんてどうでもいい、だろう?」
「……それは、人の生き方に矛盾している」
「わかるみたいだな。そう、全員が全員、王様にはなれないが……生きている奴全員、野望を持って生きてるってことさ」
頭が良くなりたい、モテたい、金持ちになりたい。
その野望。
「枯渇した自分の中から生み出される夢を、追い掛けるだけの……ジーナ、お前は出来ているはずだ」
毎日が楽しくない。ドキドキワクワクしたい。
だからお前は夢を追う。
だからお前はここまで来た。
俺に後悔させないでくれ。他人に迷惑をかける夢なんてないんだから。
砕けて散るのが夢じゃない。
それでも散らないのが夢だ。
……矛盾してるが、それでいい。自分の生き方とは違うモンが夢なんだから。
俺みたいに。
「……立ってみろッ! お前の目に、絶望は絶対映らない、映らせないッ! この俺がいるんだからな!」
布と布が擦れ合わさるような音……そしてうめき声。
「負けたく、ないよ。そりゃあ、さ」
「何に負ける必要がある! 目の前にあるものを手に取るんだ」
小さな声に反応し、俺は口を開く。
「……馬鹿な。何故声が……」
「王道だ。殴れば悪が滅びるように、心が通じていれば、必ず奇跡は起こせる、ってなァ!!」
現実、それで本当に悪を倒したと言えるのか?
ならば、何を倒せば良いって言うんだ。
「全部まとめて、俺に任せろッ!」
「クッ、キサマァ!!」
黒ローブの剣に力が込められる。
残念ながら、きっとこの剣に適う剣は、この世界にある黒の剣(偽)しかないだろう。
悪の塊のようなその剣なら、簡単に真っ二つに出来てしまうぜ。
横に真っ二つになる黒ローブの剣。
「ふ、はっはっは!! 私は、何度でも蘇るッ!」
「すまんが、次も殺すぞ」
黒ローブに二度目の死が訪れる。
三度目が来る前に、アンちゃんにもう一度問おう。
「さあ、仲間になろうぜ。アンちゃん」
「……海弟」
俺のすぐ傍まで来ていたジーナ、戦いの途中だというのに呆れた奴である。
まあ、俺は気にしない。
『グルルゥン』
「はぁ?」
『グルルル!!』
「はぁ?」
二度目のはぁ? は発音が違うからな。
『グルオオオオオオォォォンッ!!』
「うるさい。お前の言葉はわからん!」
「……きっと、いいよ、って言ってるんじゃないかな?」
「わかるのか?」
ジーナの顔を見る。
それはドキドキワクワクしている奴の顔。
……その気持ちを独占できているなんて、お前は幸運だ。
「よし、信じよう。お前の夢についてもここで話をしてやれよ」
「もう話したよ」
……ん? どういう意味だ?
「それって――」
「秘密ー」
「……まあいいか」
やっぱり男女問わず、笑顔っていいものだな。
優しい笑みは大好きだ。
あれ、黒ローブさんどうなったの?
……ネタバレになるので言えません。
今後、もう一戦控えているなんて口が裂けても言えません。
それと、宣伝になってしまうのですが、自分の友人の書いた小説。
『God The Road』
とりあえず、頑張っているようなので読んでみてあげてください。
これは小説じゃねぇぜ、って感じる人もいるかも知れません。
でも文章です。日本人であればきっと日本語の文章は読めます。
だからハードルを『売れない漫画家のアシスタントの友達の自慢話』程度に落としてください。イメージしにくいですが、それくらいです。




