第517話日常と非日常
日常に生きるのならば夢を見よう。
非日常は非日常ってだけで、出来ないことなど一つもない。
異世界に行きたい、未来へ行ってみたい。
夢はあるんだ、やる気を一つ見せてみようぜ。
とりあえず、金になる依頼だけをピックアップして紙に書いていったわけだが……ううむ、やはり時間が掛かるな。
字が読めないので周囲の人に聞いたりしているのだが、その中でも高額な依頼だったのが……護衛、か。
確かに、人の命を預かる依頼だからな。そりゃあ額も額になってくる。
討伐依頼の比ではない。
「うーん。でも、一応討伐依頼だけをやっていこうと思っているしな。じゃあ一番報酬の高いコレからだな」
内容は魔物退治。
動物退治ではない分、報酬に差がある。それだけ危険なのだろうが……俺には関係ない。
魔物など何体も倒してきているのだから。
依頼を受け、ギルドの外に出ると魔物が住むという森へ向かう。
ここらの討伐依頼はすべて俺が片付けてやるぜッ!!
☆
……二日かけた。
何に? 依頼にだよッ!!
俺が討伐依頼をこなしていく間にもまた依頼は増えていき……と、全て片付け終わったのは二日後だ。
もうヘトヘトである。
木陰でうとうとしていると、横に何者かが座る。
「聞いたよ? すっごいことしてるねー」
「ん? ああ、お前か」
この時間帯はいつも休みらしく、顔を見せにくる。
もちろん、俺が依頼でいないときは無理なのだが、休み時間はギルドの周囲を散策しているらしい。
何が目的かは知らないが、こうやってゆっくり休むのが一番だぞ。
欠伸をしてから目を何度か擦るとジーナのほうを向く。
「婚期逃すぞ」
「おいこら、何て言った」
「何でもない。暇だったから独り言をな」
「……で、これが報酬?」
目の前にある袋を足でつんつんと突くジーナ。
ジャリジャリという音からも分かるとおり、これが全ての依頼の報酬である。
この村の十分の一ぐらいの金はたぶんここにあると思う。
全体がどのくらいかわからないが。
「そろそろ戻らなくていいのか?」
「まだ五分も経ってないんだけど、邪魔?」
「そんなことはない」
年上相手なのだが……何かもう今は……というかずっとめんどくさいのだ。
ああ、何か面白いこともでないだろうか……。
ん? いや、面白いことを待つ? 違うだろう。
面白いことは自らが中心にいるからこそ面白いのだ。傍からニヤつくだけならそこらの痴話喧嘩でも見ていればいい。
「ジーナ。俺は良い事を思いついた」
「……何?」
その目は何だ。
というかお前も興味あるんだろう? 隠さなくていい。
「祭りの日に向けて俺は何かを練習するぞ!」
「何か?」
「思いついてないだけだ。お前にも手伝ってもらうぞジーナ、いいやニックネームJ!!」
妖艶な笑み、いいや……それに混ざった好奇心。
やってもいいけどー、何だかなー、って顔をしている。
俺がもう一押しする必要もないので自己判断に任せる。
「決まったら言ってくれッ! 俺は寝るッ!」
「練習は?」
「寝ながら考える」
「器用ね」
「ああ」
……おやすみ。
☆
一と一を足せば二になる。
しかし、一人と一人が重なれば生まれるのは無限の……えーと、愛。
うん、恥ずかしい! 演劇やめ!
「そんなさー、恥ずかしいとかめんどくさいとかでやめてたらキリがないよ。ほら、やるよ」
「お前の意見に俺は左右されないッ! 俺は俺の道を行く!」
「海弟の首輪に繋がったヒモを持ってるのはわたし、っと。はい、やるよ」
この野郎! うまい切り替えしなんて俺は望んでないぞッ!
首根っこを掴まれ思いっきり引っ張るジーナ。
その勢いに呑まれ立ち上がる俺。
もう、やるっきゃないか。
「えーと、何で純愛物なんですか?」
「今更! 今更だよ! 何で提案した時に言ってくれなかったの!」
「寝てたからな」
「あそこの会話は全部寝言!?」
……覚えてないし、そうなんじゃないか?
いきなりたたき起こされて俺はこの状況に至るわけだし。
どんな寝言言ってたか気になるが、それ以上にめんどくさい。
「ドキドキワクワク、って感じの……そんなものが純愛には詰まってるのがわからないのか!」
「……ぷぷっ」
「真顔で言うな!」
何か荒れてるなぁ。
いつもだったら乗ってやるところだが生憎と今の俺は最悪状態なのだ。
死を生でぬりぬりした感じの人生なのだ。
しゃがみこむと台本をジーナに渡す。
どうせ俺はこっちの世界の言葉読めないし、ジーナが言ってくれないとわかんないんだよ。
「……何も変わらないの?」
俺からそれを受け取ると呟くジーナ。
言葉の意味がわからない。というよりも言葉の意味以上のものが含まれている気がしてならない。
「平凡な人生。それで終わり? そんなのイヤよッ!」
「俺に怒鳴るな。平凡がイヤだ? ならやりたいことをすればいいじゃないか」
「そんな、好きなこともないし。恋だってしたことない。ただ愛想を振りまいて生きているだけ、イヤじゃない、そんなの」
「楽でいいと思う」
イヤになるのなんて人生の中でも一瞬のことだろうさ。
自由に生きたいのなら生きればいいし、そこに恥があるのなら取っ払えばいい。
一歩を踏み込めずにいる奴が『平凡がやだ、自分がイヤだ』とか言われてもこっちが困るぞ。
「答えなんて明らかなのに、何で俺にそれをぶつける。お前の思いは俺に伝わった、ならお前自身が一番よくわかっているはずだろう?」
「……ダメ、だよね。大人になって、なのに年下の子に……何だか、感じたんだよ。この人なら、何とかしてくれる、って」
困惑の表情に似た、けれども悲痛なものを秘めた表情で俺を見るジーナ。
まるで俺が悪いみたいじゃないか。
「そうだな、うん。俺ならなんとかしてやれるぞ。お前の知らないことを俺は知っているし、濃い時間を長く過ごしている」
「……うん」
「けどな、お前は力不足だ。夢を見るなら可能不可能の壁なんて取っ払っちまえ! その夢がお前の力になる」
現実に夢を重ねる。
それが絶望に繋がるのならしなければいい。
この世の不可能を知らないのなら、絶対無敵の最強になれると思うんだ。
まあ、俺は外道さんだから王道とは無縁ですがね。
はっはっは。
ニヤリと笑い二冊の台本をジーナから奪い取ると言う。
「村の酒場で働く綺麗なねーちゃんで終わりたくないなら、紙に書かれた本じゃなく、本を読んだ後に繋げろ」
「成長しろ、ってこと?」
「本を読んだとする。その内容の受け取り方は人それぞれだ。お前の理想は俺の理想じゃない。けど、萎縮して、誰かの理想になるよりかは、自分の理想になったほうがいいだろう? って話だ」
本に書かれていた内容が何であれ、人それぞれの意見なのだからどれかを否定する必要はない。
「演劇? 上等だ、でもお前の夢はこんなので抑えられるほど小さくはない、第一俺がやりたくない」
うーん、とチラチラこっちを見ながら考えている様子のジーナ。
俺の言葉が響いているようには思えない。
「……わたし、おっきい龍の背中に乗ってみたいな。子供みたいな夢だけど、自由っぽいじゃない?」
……やばい、笑いが止まらない。
「何で笑うの!」
「大人だってドキドキワクワクするさ、お前みたいな奴もいることだしな」
「子供に言われなくないね」
「そうか。じゃあ、龍を捕まえにいくぞ」
「何処まで行く気な――」
「現実と夢を重ねるな。不可能も可能もないんだ、出来るか出来ないかじゃない、やるんだよ」
さて、祭りまでは後五日。
それまでに龍を従え……龍?
……あ。
「ああああああッ!」
「な、どうしたの?」
な、なんでもないですよ? ホントですよ?
「龍が苦手ってことなんてないですよ?」
「ええっ」
本音と思考が逆だー! わっしょい!
「兎に角、行くぞッ! 北へ!」
さて、海弟が唯一嫌うものを紹介しましょう。
はい、りゅ――
それ以外? そうですねぇ。
青――
それも違う?
じゃあ、うーん。
周囲の異様な盛り上がりですかね。
海弟のテンションが吸い取られていきます、周囲に。
だから何故か戦いとかその他もろもろの時の海弟のテンションは低い場合が多いです。
クハハハハッ、と笑って戦えるのは敵に恐怖という刃を向けることの出来るときだけなのです。
では!




