第507話奇襲と気絶
王道ファンタジーを書きたくなってきた今日この頃。
ファンタジーから遠いところに飛んでいってしまいそうなので……何処かで何とかしなければ。
赤い……これは血?
竜子家へ帰ってきて……寝て?
おかしい、血を流す場面なんてないと思うのだが……。
何で血? 鼻血? 違うか。
まあ、何でもいい。
「何でもいい? 随分と余裕、ねぇッ!!」
目の前まで迫ってくる火球。
それに気づくのが少し遅れたせいか、避けるのに手間取り前髪が少し燃える。
ただ、致命傷にならずに済んだので気にしない。
一度冷静になって相手を見つめる。
そして場所。
……思い出した。
どうやら先ほどまで気絶していたらしいな。
起き上がったばかりなのに無茶をさせてくれる……。
俺の部屋、ベッドがグチャグチャになっているのだがそれを今気にするのは論外だろう。
当然のように俺と対峙し佇む色の抜けたような女の子。
世界の鮮やかさを奪い、自らを輝かせる。
そんな表現が似合いそうな……それでいて簡単に踏み潰されてしまいそうな雰囲気を漂わせている。
……けど、そんな甘い相手じゃあないんだよな。
「前よりも俺は強くなっている、ということでいいのか? 世界がぼやけていないぞ」
「だから手を出していいと思ったの。だから、倒すよ」
声も鮮明に聞こえてくる。
口の中に溜まった血を唾と一緒に吐くと近くに落ちていた剣を拾う。
「お前、何者だ?」
「記憶が少し飛んでる? さっきも聞いた、はずだけど」
「……知らんな」
何処まで遡ればいいのだろう。
わからないのだから仕方がない。
もしや寝ているところを襲われた、とかそんなのじゃあないだろうな?
口調からはありえない、ということは感じられるがいまいち敵の言葉は信じられない。
剣を握りなおし、摩擦で熱くなった柄をチラリと見た後……走る。
「速いッ!」
「水よ!」
水の弾を複数展開。
俺の突撃と同時に発射――その数は八発。
そうそう簡単に避けられない攻撃を片手で剣を、片手で水の弾を。
なんらかの力を使ってか、無力化する。
勢いの落ちていく体をくねって床に足をつかせると、反発するかのようにもう一度突撃する。
「良い言葉を教えてやろうッ!」
手首を裏に返し、剣の刃の動きを変えると柄の部分を両手で持ち、支える。
そして下から上へ向かい思い切り切り上げる。
「俺をナメると死ぬぞ!!」
「ぐっ、全然良い言葉じゃあ……」
「眠気全快アタァァァックッ!!」
本当は全然眠くないのに連打を繰り出し技名を叫ぶ。
ちなみに意味は『敵襲だッ! 誰か助けに来いッ!』である。
カッコ悪いのでそのまま言わない。
「馬鹿、もいたもの……ねッ!」
何か硬いものを弾いた感覚。
軽い反発を受けて小さなよろめきを起こす俺の体。
その隙を逃す相手ではなかったようで……急所を狙った……この距離で魔法!?
鋭い氷……なるほど、俺は使えないから盲点だった。
ぐさりと急所という急所……その近くを貫いている氷。
俺の体温のせいか、もう溶け始めている。
「避けた、か」
「当たり前だ。今の俺は本気だぞ? 理由は秘密」
筋肉が緩んでいるのか、体中が動かないが問題ない。
溶けろ氷。
「炎よ!」
「この、近距離でッ!」
「お前もだろ?」
水蒸気が視界を覆う。
この近距離だが……相手の顔すら見えない。
いや、元々相手である女の子自体がぼやけて見えるのだが……。
周囲が鮮明になったのにそれは変わらない。
どうしたものか。
重力に従い前へ倒れる俺。
力が入らないのだから当然といえば当然か。
治癒魔法をかけて……と。
まあ、そんな時間はないわけだが……。
「お父さんッ!」
「パパッ!」
この二人のが速いとは、意外だな。
「虎子と竜子は?」
「二人は竜子のお父さんに止められてるよ! もすうぐ警備員さん、って人が来るかも!」
「……ったく」
金だけじゃ出来ないこともあるんだぞ、馬鹿。
まあ、そんなわけで金を俺に差し出して……なんて展開になったらいいな!
はっはっは。
「……はぁ。じゃあ、任せた。少し不安だがな」
「パパ、任せられぇたー」
ずりずりと壁際へ近づきつつ治癒魔法をかけていく。
ぶつかり火花を散らす戦い。
それを見ているだけ、というのは案外キツいものなんだな。
「……な、これは……?」
「お、警備員。来たか、ちょうどいい」
もう入り口とか破壊され、わからなくなっているが……ひょっこりと顔を出している警備員の顔を見て言う。
「……そ、その傷ッ! それに、何が起こって……!!」
「うるさいぞ。虎子と竜子を連れて来い。青空はどっちでもいいぞ」
実際、守れる自信がないからな。
一対一でこの様だからな、青空を狙われたら俺も対応が遅れざるを得ない。
「……ひ、ああああああああッ!!」
「あ、ちょ。逃げるなァッ!!」
ったく、使えんな。
立ち上がる。
まだ傷口さえ塞がっていないが……しょうがない。
「セリー、この世界は誰のものだッ!」
「っ、セリーの!」
「よし、守りきれよ!」
部屋から出ると痛みを気にせず体を強化し走る。
この二人が先に来るとは思わなかった……その真意はこういうことだ。
虎子と竜子、犬死ちゃん、セリーを含め俺たち五人でぶつからなければアイツの本気を引き出すことは出来ない。
そこまでの戦いが出来ない、と。
「ま、そこまでやって……勝てるかなんて知らないがなッ!」
もしかしたら、五人とも死ぬかも知れない。
そう思って戦って、死んだことがあるか?
「ないだろうッ! それは見栄じゃない、自信だッ!!」
……この気配。
真横にあった壁を破壊する。
きょとんとした表情の虎子と竜子。
それに……竜子の父さん……かな?
ニヤリとそれらに笑い言う。
「その拳が化け物に通じるか試してみないか?」
返答はなかった……俺の横を走り抜けていく竜子。
……今回は許してやろう。
「虎子、行くぞッ!」
「青空、は?」
「アイツなら死なないから安心しろ。アレだよ、美は不滅」
意味がわからなんな、うん。
まあ、行くぞッ!
ああ、主人公が自ら傷を治して味方を呼びに行くなんて……。
何だこの小説、おかしいぞ。
改めておかしいと感じられる自分はまだ正常だ。
たぶん。