第504話『うわぁ、戦いたくねぇ』by海弟
何が起こっているのか作者の脳内で整理できていない。
それになんか卑怯な小競り合いしかしてない戦いになってるし。
「……むっ!!」
上半身を勢い良く起こす犬死ちゃん。
いきなりだったので身構える俺とセリー。
「に、に……」
に?
きょろきょろと周囲を見ながら呟く犬死ちゃん。
何かを探しているのか、それとも何かに怯えているのか。
どちらだろう。どちらもか?
「に、逃げたい」
「……はい?」
「逃げるからね!」
完全に起き上がると何処かへ走っていく犬死ちゃん。
逃がさん。
びゅるるん、って感じで犬死ちゃんを捕まえる。
そしてびゅるるん、って感じで俺の元まで連れてくると話を聞こうと――
「い、今、腕! お父さん!!」
「ん? どうかしたか?」
「腕が伸びた!!」
「伸びてない。幻覚だ、伸びてない。ただ、びゅるるんとしてたな」
まあ、こんなこと言うために引き止めたんじゃない。
「どうして逃げるんだ。逃げるんだったら理由を言え、俺が逃げるから囮になれ」
「いやぁぁぁぁ~」
何か今度の犬死ちゃんは本気だぞ。
「本気でホントにどうした?」
「来る。私たちだけじゃ勝てない、神じゃないんだけど……何だろう。兎に角、逃げなきゃ死んじゃう!」
必死に話してくれる犬死ちゃんだが、すまない。
「囮、頑張ってくれ」
両肩を掴み耳元で小さく呟く。
「……イヤ」
俺の背中に手を回す犬死ちゃん。
はっはっは、別の状況だったら嬉しかったな!
「放せッ!! 何かくるんだろ!? 囮やってくれよ!」
「お父さん、私死んじゃうんだよ!? ずっと一緒だよ!」
「クッ、セリー!!」
後ろを向く。
「……アーメン。パパ」
あ、こら。一人で逃げるな!!
クッ、何で俺たちは抱き合っているんだ!
「犬死ちゃん、追うぞ!」
「一緒に死のー。お父さーん」
ば、馬鹿!
お前、何て不吉なことを……。
「これまで倒したのが十三人。これから二人……合計十五人」
「一人だ! 十四人! 俺は逃げェェェェェ――」
ッ、何だ……この気配。
さすがに気づく。
これほど近くに……いや、遠くの気配など俺は探れないが……それでも。
何だ、この大きさ。
「チッ、犬死ちゃん。一緒に逃げるぞ!」
「この距離じゃあ無理だよ!! だから一緒に――」
「死なんッ! もういい、戦うぞ!」
……。
「ッ、何だ。この感触……いいや、空気、か? おかしい」
「触れないでね」
「ならお前も触れる……な? 犬死ちゃん?」
首をぶんぶん横に振る犬死ちゃん。
じゃあ、今の声は……。
後ろを振り向く。
セリーではない、違う。
「……十三人分、か。結構食べたよ、こぼしたご飯なんて食べたくなかったけどね」
……何を言っているのかは知らんが、コイツは犬死ちゃんが怯えている人物。
何がどうであれ、俺も感じる。
「この強さ……いいな。お前が親玉か?」
「答えは不要」
……攻撃、来るッ!
犬死ちゃんを連れて大通りへと飛ぶ。
ここから人の目がある分、向こうも動きづらいはず……。
背後の爆発で注目が集まっている中、すぐに立ち上がり人ごみに紛れる。
奇襲をずっと仕掛けていたのだが、こちらが仕掛けられる側になるとはな……。
「甘いッ!」
野次馬の壁の向こう側から聞こえてくる声。
同時に野次馬達を貫通するように雷の槍が俺と犬死ちゃんに向かい放たれる。
「『鏡』」
それを鏡を出現させ跳ね返す。
野次馬達に被害が出るのも構わず相手は動いている……この戦い、圧倒的に不利だ。
「俺と一対一じゃあ勝てない、な。犬死ちゃん、いけるか!」
あれ、気絶してるー!?
この大事な時に!
周囲を見回し、一目につかない路地裏に犬死ちゃんを置くと再び大通りへ戻る。
「お前、少しぐらいは殺人に戸惑えよ」
「あなたが言える台詞じゃないわ。十三人よ?」
「はっ、お前と俺を一緒にするな」
ニヤリと笑みを作り言う。
俺は戦いに一般人を巻き込む気はない。
「お前、旧世代の神を全部"食った"らしいな。ってことは、力もそのまんま受け継いでるのか?」
「ええ、当然。だから、あなたじゃ勝てない」
「どうかな? 俺も世界の力を少しずつ、得ているんだぜ?」
代償として気絶する……ってのがあるが、最近はタイミングが少しコントロールできるようになってきたのだ。
慣れというのは恐ろしい。
そんなことはどうでもいい。
重要なのは、少しずつ……俺が世界の力で強化されていっているということだ。
うん、期限は一年。もう半年ぐらいは経過されてるんだよね、実は。
「だから、神を食い。お前が強化されていようと、関係ない!」
「力の差は歴然。見えぬのならば具現化してやろう」
水、いや、氷。二種類同時か!
氷と水がせめぎ合い、俺へ向かい放たれる。
避けようにも攻撃範囲が広く、反射しようにも力で押し切られそうだ。
「白の剣ッ! 光よ!」
鏡から白の剣を取り出し、閃光を相手の放つ水と氷の合体技へとぶつける。
それよりに小さな爆発。
風圧でバランスが崩れそうになる体を何とか制御しつつ、相手の動きを見極める。
動くか……いいや、こちらから攻める!!
白の剣を片手で握ると前方へ走り出す。
白い煙を抜け、敵がいるべき場所へと剣を突き出す……のだが、感触がない。
「弱点、教えてあげましょうか」
「……背後ッ!」
「それはあなたの弱点」
炎の連続攻撃。
防御が間に合わずもろに食らってしまった。
そのまま炎に包まれ転がる俺の体。
その発射元は……たぶん背後。
しかし、どうなっている。
突っ込むことが予想されていた?
炎が消えると同時に相手の方を向く。
「……な、空に……浮いてる!?」
背後、というだけではない。
浮いている。
これではこちらの攻撃は……魔法を使わなくては当たらない。
「私の弱点。それはあなたに触れられてしまうこと」
「……はぁ?」
「もっとも、無理な話だけどね」
水、炎、雷、風。次々と放たれる魔法を避けたり防いだり反射したりしつつ耐えていると、脳裏に危険だとでもいうような音が響く。
確かに、このままでは俺はいつか負ける。
相手のこの素早い慣れた動き。ありえん。
臨機応変などとは違う、独特のペース。相手の流れを無視した攻撃。
……威力とスピードだけに頼った戦い。
だからといって、他に俺がアイツを越している部分などない。
だから勝てない? だから負ける?
その通りだとも。
ただ、負けている部分があろうとやるっきゃねぇんだよ。
「珍しく、俺が考えて行動してるんだからなァッ!!」
白の剣を投擲。
放たれた風が消え、炎が消え……光の魔法の効力である消滅が効いているらしい。
このまま突き刺さり、消え去れェェェッ!!
しかし届くギリギリのところで山を描いて落ちていく白の剣。
近くにあったコンビニの屋根に突っ込んでいく。
「……チッ、飛ぶなんてずるいぞ」
「あなたも工夫すれば飛べるはずよ。工夫すれば」
何処をどう工夫したって……あの浮遊感が嫌いなのは治せないんだよ、馬鹿!
「風よ! これでトドメ!」
風のナイフ。
鋭いそれらが俺へ向かい複数放たれる。
……避けれる隙もある、防げる武器だってある。まだ黒の剣があるしな。
しかし、そうだ。
「受けてやるぜ」
腕に一本、下腹の辺りに一本。太ももの辺りに一本。
合計三本が俺に刺さり血が流れる。
「……何がしたいの?」
「それはこっちの台詞だぜ。終わり、というなら終わらせられる攻撃をしろよ、見事に急所を外しやがって」
この攻撃を受けた理由は簡単だ。
俺が反射したのならばそのカウンター攻撃にカウンターしてくるだろう、ということがわかったから。
この威力の攻撃じゃあどの道俺を倒せないのはわかっていたしな。
避けようともコイツは先回りするだろうからそれもダメ。
ならわざと受けて初動で止めておくのが最善の手。
……こっちの手は届かんが、向こうの手だって掠る程度の傷しか残さない。
「近づいてこなけりゃ、決着は着かないぜ」
「……氷よ!」
まだやるのかよ……。
めんどくさい。
海弟は空が苦手!
そして親玉、つまりママの弱点は触れられること。
……おい、これ決着つかないぞ。
じわじわ海弟が削られて終わりになるか……。
イヤですね、こんな戦い。実際はこんなもんでしょうけど。
まあ、今回は海弟くん考えて動いているらしいので安心してください!
ちなみに最初から、ね。その最初が何処からかは言いません。