第501話『軍隊? 敵じゃない、ぜ?』by海弟
男は見栄と根性で生きているのさ……。
ふっ、いざとなりゃあやるのがヤツなのさ。
あれ、おかしいな。
俺の目がおかしいのかな?
いいや、おかしいのはこの世界だよね。
うん、おかしいの連発で混沌な事態になってる。
でもこの状況を説明するには『おかしい』という一言が一番似合っているんだ。
映画でも見るのかこの野郎、ってほど大きなテレビの対面に座りながらニュースを見る俺達。
夕方にやっているワイドショーを思わせるそれなのだが、内容が衝撃的すぎるものなのだ。
『目撃情報を元に現地へと行ってみると――』
それほど大音量でもないのに俺の頭にこびり付くような感じ。
何だか嫌な予感。
……言うならば、最悪の事態。
『居ました。アレは……龍!? その隣には仮装集団、この町は既にこの集団で埋め尽くされているようです』
……うん、いろんな世界からこの世界に来ている人、もしくは魔獣とか。
まあ色々いるらしいね!
……一から整理しよう。
☆
テレビを消して隣に座る犬死ちゃんとセリー、更に青空に虎子竜子へ一度に視線を向ける。
コレはもう非常事態である。
「動いたな。裏の異世界から……たぶん呼んだんだろうな」
ママ、が動いた。
援軍とは違うのだろうが、明らかに仮装集団とかそういうレベルじゃない。
ニュースでやっていた特集、アレに映っていたのは本物。
本当に異世界からやってきた人物だ。それも軍団とも呼べる人数。
「俺にはあんな力ないぞ。一度に異世界からあれほどの人数を集めるなんて」
場所は隣町だったか。
もう攻め入る準備万端だぜー、ってことなのだろう。
「たぶん、全員強いんだろうね。表の世界からこっちもいくらか呼ばないと――」
「ダメだな。今回についてはあまり巻き込む人数を増やしたくない」
裏世界の存在、それ自体を表に明かしたくはないし、それ以上に今回は本当に危険である。
支配者でもない神でもない。
それを喰らう者との戦いだ。
「状況もまだわからないことだらけ。援軍を呼べるとしたら影流かクォンぐらいだな。神関係繋がりで」
「……わたし達にも説明をしてほしいのだが? 異世界、表と裏以外にもあるのか?」
ふむ、竜子と虎子にはそこから説明しなければいけない、のか。
まあ必要な知識ではあるだろう。
この二人の力は俺にないものを補ってくれているところがある。
常に攻撃的な力ではなく、判断し決断できるところ。
一度決めたら止まらないんじゃなく、何度でも考え直すことの出来る者達。
そう考えると失いたくない仲間でもあるな。
「表の世界は今回あまり関わりを持たないだろうがら裏の世界だけで説明していこう」
紙とペンを取り出して机の上に置くと説明と同時に絵を書いていく。
「まずはこの世界」
小さな丸を描いてその中に『セ・虎・龍』という文字を書く。
この世界に元々いた連中の頭文字である。
「裏の世界だ」
その小さな丸を囲うように大きな丸を描き『裏』と書いた後、離れたところに『マ・軍』と書く。
もうママとその軍隊。関連性がある、とは限らないものの十中八九仲間であることは間違いない。
この世界が比較的平和なのはセリーが守ってきたからなのだろう。
たぶん、他の世界はもっと酷いことになっているに違いない。
ママだから、なんて理由でその暴虐が許されると思うなよ。
俺はパパなのに娘に怒られてばかりなんだからな!!
「裏の世界とは表の世界のコピー。ということになっているが――」
大きな丸を描き『表』と書く。
そこに小さな丸を書き『海・青・影』と書いた後にもう一つ小さな丸を描きその中に『犬』と書く。
「この面子がセリー、虎子、竜子のいるこの世界にいるわけだ」
一本の線で表と裏の世界を繋ぐとペンにキャップをする。
「俺がいる限り、鏡さえあれば自由に表と裏は行き来できる。この丸の外に出られるわけだ」
「ふむ、それでママとやらも同じ力を持ち――」
「同じじゃない。それ以上だ。この裏の世界での話だがな」
裏と書かれた丸をなぞりながら言う。
俺は表の世界にずっといたので裏の世界での伝は少ない。
だからこそ戦力的に言って不利だ。あまりにも不利。
だからこそ無鉄砲なことはしたくない。
いざとなれば戸惑わないがな!
「裏の世界も表の世界も、複数の異世界の集合体だ。表には色があり、裏には色がない」
「……色?」
「普通に暮らしている限りじゃあお前達は気にしないらしいな。だから説明しない」
面倒なのは省こうぜ。
「ま、このママというのをぶっ飛ばすのは最終目標で、現在それを護衛するための軍隊さんが出てきてしまったというわけだよ」
「……つまり、本格的にこの世界を支配しようとしているわけだな?」
「さすが第二の秀才竜子ちゃん。飲み込みが早い。たぶん、他の世界は既に支配済みだと思うから当たっていると思うぜ」
そろそろ長い台詞に疲れてきたな……。
ソファに寄りかかると竜子の方を見て言う。
「影流がいたら影流にも任せられるんだが……雑務が忙しいらしいから呼ばん。お前と俺がこの戦いの要だ」
「雑務ぐらいなら影流はやめてこっちに来てくれるよ!」
「黙れ、青空。アイツがいたら俺の活躍が消え去る!」
「……えぇー」
そんな目で見ないで!
「何となく、わかった。しかし、さすがにあの数は相手に出来ないぞ?」
「そんなこと知ったことか。剣やら魔法やらを平気で使ってくる集団なのだ、こっちだって死ぬ気でやれば何とかなるさ」
「……無理だ」
「無理じゃない。実は俺には後五段階ほど最終形態まで変化させることが出来るのだ」
「嘘はいい。人が揃わないのであれば死ににいくようなものだ!!」
「HAHAHA、怖気づいたのか竜子?」
「お前は戦いをナメている!!」
「馬鹿。命のキャッチボールの回数はこの中で俺が一番多いんだぞ?」
「……お父さん、命の投げあいは不味いと思う」
いや、犬死ちゃん、そういう意味じゃないんだよ。
てんやわんやでゴタゴタになりそうだったので一度咳払いをして場を沈める。
「正直、逃げてもいい。虎子と竜子とセリーを連れて逃げりゃあ俺的には後腐れないからな」
「わたしはある! 友達もいるし、家族も……自分達だけ助かるなど――」
「なら死ね。今すぐ死ね。満足するまで死ぬがいい。嫌なら戦うんだな」
道は三つ。
竜子、死す。
逃亡。
真っ向からバトル。
ちなみに降参というのはない。
パパが俺ならばママの顔というのは一度見ておきたいものだろう?
妻の尻に敷かれるのはゴメンだぜ。
「……勝てる、わけがない」
「負けるはずがない」
俺を睨みつけてくる竜子。
とりあえずそういうの俺は気にしないから。うん。
「ここにいる奴等全員が戦うんだ。世界を救う勇者、世界を滅ぼす軍団なんて倒しちまおうぜ!! ひゃっはー」
早速出撃だ、ということで柔らかいソファから立ち上がり出口を目指す。
しかし途中で気づく。
「話がまとまってないッ!!」
「チームとしてもまとまってないよ!!」
「お父さん一人で考えてないで話してよー!!」
……こういうの苦手なんだよ、どうすりゃいいの神様。
☆
根掘り葉掘り聞かれて青空と竜子が作戦を練っていった。
何か知らないが戦いは出来るだけ回避しろ、とか言っていたので敵に出会ったら真っ先に喧嘩を売ろうと思う。
何で敵に怯えてなきゃいけないのだ。
「でも、まあ……仲間が少ないというのは俺達の弱さに繋がっているところがあるなぁ」
ごろごろごろごろ、とベッドの上を転がってみる。
ああ、三日月が綺麗である。
……ん?
視界がぼやけた。
見えているはずのものがすべて劣化したかのように美しさを失っていく。
この状況、普通ではない。
振り回されるのは嫌いだが、この状況を止めるだけの力は俺にはない。
すると、声が頭の中に響いてくる。
『あなたは活発な子がお好き? それとも冷たい子? 自分に優しい子? あ、ツンデレ?』
何だ気持ち悪い。
誰だよ。
すると、ぼやけた視野の中に白い服を着た……たぶん女の子。
背は小さかった。けれどもぼやけていて顔はよく見えない。
『見える? 見えないよね。最弱さん』
「……ふざけんなよ。誰だお前!!」
俺が最弱だと!?
そりゃあ、最近は負けてばかり……竜子相手に連敗記録を伸ばしているが俺は最弱ではない。
決してな。
『この世の誰もが私を認知できない。強さを持たないあなたは私の姿がぼやけて見えているはず』
……俺が弱いから、コイツのことがよく見えない、と?
はっ、言ってくれる。
「見えるぜ。お前のブサイクな顔がよーく見える!!」
『私はあなたの馬鹿面がよく見える』
煽り勝負では完全に俺の負けた。
抑えろ俺。
「お前、何者だ? さっきから聞いているだろう」
『私自身わからない。ただ、欲求のままに動く怪物。自らの子さえも欲で染め上げる狂気』
「……長い名前だな」
『……くだらないギャグは嫌い。じゃ、また会いましょう』
白い影のようなものが消えると同時に、俺の視界がクリアになる。
……まったく、何だったんだ……怪しすぎる。
「ママ、だったりしてな。子とか言ってたし」
だとしたら勝てるか微妙になってくるなぁ。
相手の姿が見えない、更にアイツ……かなり強い気配。
……まあ、ママが誰であろうと俺は戦わなきゃいけない。
普段外道さんな俺でも子供のこととなりゃあ身を挺することぐらいはするさ。
「うわぁ、何か今回は本当に負けフラグがビンビンに立っている気がするなぁ」
どんよりする。いや、げんなりする。
……負けるなぁ。
こりゃあ負けるなぁ。
と思いつつ続きを書くことにします。
海弟が自らのために戦おうとしていない、ってのが敗因なんですよ!
吹っ切れていないヤツはただの海の弟です。
むう、負けてほしくないなぁ。