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第495話海弟と竜子

カウントダウンとかすっかり忘れてた。

ちなみに後5話で500話達成です。

「……よお、久しぶ――お前、こっちの世界でもメイドに囲まれてるな」

「いや、色々認識がおかしいと思うんだが……。好きで囲まれているわけではない」


何だよメイド大好き影流君。今更否定するのかい?

はっはっは、メイド大好き影流君。馬鹿なことを言うんじゃない。


……些細な抵抗も虚しくなってきた。


「感動の再会、というよりも……ついに来たか、という感じなのだがな。今までの話、聞かせてくれるか?」

「影流。焦るな、だからお前は童……チェリーボーイなんだ」


モテモテなのにね! 不思議だね!

涙が止まらないよ!


目蓋をぐしぐし擦った後、出会いの少ない海弟さんは影流の対面のソファに座りましたとさ!

めでたしめでたし。


さて、一区切りできたことだし……話を始めよう。


竜子がメイド達を部屋の外に追い出し影流の隣に座る。

死ね。親友とかこの際関係ない。


一つわざとらしい咳をすると影流が言う。


「話してもらおうか?」

「うむ、いいだろう」


タイトル『俺の大冒険(仮)』のシナリオを教えてやろう。

今まで苦労の連続だったんだ、テメェに同情されるぐらいのことは許してほしいぜ。

はっはっは。


……本当に苦労したんだからな?





「だが、海弟は来てくれたわけだ」

「うん。犬死ちゃんを探すのに手間取ったがな。セリーについては――」

「俺はお前に聞きたいな。あの時、お前の目は本気だったし」


時は人を変えるものだよ影流君。


説明も終え、俺と影流が真剣な表情へと変わる。


「ママ、か。知らないな」

「素性を隠して何処かに潜入している可能性もある。セリーがいなくなったこの世界は無防備だから、俺はこの世界にいる可能性が大きいと思っている」

「だが、この世界以上に安全な場所もありそうだろう?」


その言葉に頷けない俺。

影流と話しているうちに思ったのだ。


「影流。タイミングが良さすぎないか?」

「ん?」

「神殿、俺達が去ってから……不良の溜まり場だー、とかで壊されることになったんだよな?」

「……そう、だな。そうか、その可能性もあるのか」

「たった一回荒れただけですぐ『壊してしまおう』なんて結論に至るか?」


いや、今回が初めて……とは思わない。

だが、俺達が来る前に神殿が荒らされたことなどないだろう。セリーがいるわけだし、ありえない話だ。


つまり、たった一回起きた真偽もわからない『不良の溜まり場になった』なんて情報を信じる奴なんて、極論を言えば絶対いないだろう。

それに説得力はあるが『よし、神殿をぶっ壊そう』なんてことにはならないはずである。


まあ、あの墓地に墓を持つ誰かがあの神殿自体、もしくはセリーに恨みがある場合は別だが。

ただの一般人にセリーが絡む可能性はないだろうから、何者かの情報操作……気づけそうで気づけない小さな異物が……。


この世界には絶対ある。


それが何かはわからないが、今までの情報の中でママという人物の可能性が大きいだけだ。

それに影流は気づいた。俺が気づかせた。


コイツは理解すると早いからな。きっといい作戦をたててくれるは――


「……今のところは静観するしかないな。海弟、お前はこっちの世界にいろ」

「影流は?」

「ファンのところへ行く。さすがに国王不在が長いとダメだろうしな」


……俺を置いて。へぇ。


「ここで俺に何をしろと!?」

「怪しい人物を見つけ、調査しろ」


いい作戦に思えない! 何で俺が……。

いや、待てよ?


影流が帰るのならば、俺はこの家に住み込みで……。となるとメイドさんとキャッキャウフフ。


……いい作戦じゃないか。俺にとって。


「よし、今から影流を転移させる。何処かに鏡はないか!?」


ここにある。

俺のポケットの中。


取り出して影流へ渡す。


「す、素早いな。まあ、向こうの仕事がひと段落したらこっちへ俺も戻ってくる」

「いや、本来こっちの仕事は裏の世界に関係している奴等で解決すべきことなんだ。はっはっは、俺へ任せろ」


三日でメイドさんハーレムを築いてやるぜ。


「……お前になら、任せられるか」

「影流」


今まで口を閉じていた竜子が口を開く。


「顔ぐらいは、たまに見せろ。お前の腕が(なま)っていたら私が叩きなおしてやる」


……ツンデ――


はっ、これは……殺気!?

この少女、本気である。


「ま、その時は頼んだ。海弟、頼む」

「おう。あ、そうそう。とある少年少女が城へ来たら手厚く出迎えてやってくれ。名前は……あえて言わん」

「……何か愉快なことを企んでいるな? まあいい、お前の客ならば出迎えねばな」


軽く挨拶も済み、影流を向こうの世界へと転移させる。

場所は女子トイレの鏡へ向かって。


……ああ、でもアイツならば主人公補正で何とかなるんだろうな。


「……では、海弟。お前の腕も見てやろう」

「俺はメイドさんに会いに――」

「私に付き合わないというのなら、出て行ってもらおう」

「HAHAHA、姉御! よろこんでお手合わせしますよ!」

「いろんなのが混じっているな。統一されているのはそのテンションか」


男は勢いに生き、流れに死滅する生き物なんスよ姉御ッ!


女々しいことは言いっこなしでやんす!


……はあ、何で戦うことになったんだろうな。





「木刀を使って――おい、木刀を使え! それ真剣だろう!」

「俺のレベルになると真剣でも人を殺さずに扱えるんだよ!」

「嘘を言うな。お前からは強さという強さが感じられない。影流のようにな」

「俺は強いぜ? 天上天下を唯我独尊してる神様より強い」

「……木刀を使え。お前の世話はしてやらないぞ」

「木刀か。ふむ、久しぶりに持つなー」


メイドさんに世話してもらいたい!


木刀を一本手に取り感触を確かめる。

重量、長さ。


複数あった、その中から一本を選び手にとって握る。


「……ふむ、平凡なタイプのものだな」

「そんな飛びぬけた才能がないのが俺の自慢です」


他は人よりゲスな部分か変態的な部分しか持ち合わせておりません。

……それを人は普通と呼ばない。


素振りを二、三回して動きを確認する。

若干重たいから少し動きが遅い。剣に重心を持っていかれないように注意しないとな。


「魔法は?」

「なし」

「ふっ、ここに負けを宣言するぜ」

「……飛び道具は、なしだ」

「この試合に勝つのは俺だ!」

「お前も言っていることはコロコロと変わるな……」


状況が変われば人の言うことだって変わる。

だからこと人は言うんだ。


信じられるのは自分だけ、他人の言うことなど信じるな、と。

その場限りの付き合いは一番楽しいんだよ。


美少女とは一生のお付き合いをしたいのが男ですけど!


まあ、美少女にも色々な――おわっと!


「……気を抜くな。剣を持ったところから我々の戦いは始まっている」

「お前は素手じゃないか。それよりも俺の美少女の話をだな……している場合じゃなさそうだ」


連打される拳を避け、時に剣の腹で拳を防ぐ。

こっちから攻撃に回れない……コイツのスタミナは無尽蔵にあったりするんだろうか。


さっきから隙がない。攻撃を受けてまでこちらも攻撃はしたくないのである。


手足が痺れてきて思考も麻痺し始めたころ、息継ぎの合間を見つける。

その瞬間こそがチャンス。スタミナが無尽蔵とかありえなーい。


剣を構えなおし打突(だとつ)をかます。それを相手はしっかりと避け……しっかりと避けたからこそ、竜子の防戦が始まる。

これが武道の良し悪しだな。型にはまっていると、一度展開を握られたら簡単に逆転できない。


実践経験と僅かな自習練習だけで強くなってきた俺との強さはまったく別物。

そして対人戦においてどちらが有利かといえば俺。


横殴りの一撃を放ち、同時に大きく間合いを横に取る。

かなり無茶な動きなのだが……キュッ、と地面に足を固定させ……反転。


力の向きを避けから突撃に変える。

横殴りの一撃を後ろに飛んで避けた後の竜子の硬直時間はあまりに長い。


これで俺の勝――


真上からの一撃を放とうとし、手からすっぽ抜ける木刀。


「ば、馬鹿なッ!」


真上に飛んでいく木刀。

立ち止まる俺、落ちてくる木刀、反撃してくる竜子。


人間、同時に出来ることに限界があるものである。

飛び道具禁止はキツかった。


「ウギャアアアアアアアア!!」


効果音で現るならば――


ドカッドキュドドドドンキュイッダァァァン!!


である。死ぬよこれ。


海弟は弱いんじゃないんです。

雑魚いんです!! ドドーン。


……にしても、ボス戦でしか活躍しませんね、海弟。

ご都合主義ではなく気持ちの問題ってことにしておきましょう。海弟の強さはその日その日に違っていく……メモ。


さて、影流が向こうの世界へ帰ってしまい海弟に残された調査指令!

次回が次回で楽しみだ!

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