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第494話『夢と恥は大きいが隠せ!』by海弟

……やっぱ、色々と無理があったようです。

シリアスとか……うん、色々。

「……いない、みたいだな」


セキュリティも低い、何処か懐かしさのあるマンション。

その一室に侵入することなど容易い。簡単、チョー簡単。ドア壊せばいいし。


そして、室内をくまなく探したわけだが、俺が出て行った後に戻ってきた形跡すらない。

荒らされたまま、何となく申し訳ない気分になる。それを爺さんへ押し付ける。


あの時俺は風邪だったんだぞ!? 何か知らないうちに治っていたが。


「……セリー。探知能力とかないのか!」

「あったぁら使ってるってー。神のちぃからに繋がるものを持っている人がいたら別だけどー」

「生死の門は神の力に似た力で動いているところがあるから、位置は簡単にわかるんだよ!」

「お前がいたらわかっててもわからなくても一緒だろ」


管理しているのはお前なんだし、お前はきっと俺の元を離れないだろうし。

ほら、完璧だ。


「にしても、神並みの才能を持つ者はいるんだがなぁ。残念ながら、あのメンバーに……いないなー」


さて、振り出しへ戻ったわけだ。

あと()てがある場所と言えば……神殿ぐらいだろうか。


セリーは完全体なわけだし(言い方は悪いが)行っても良い思い出なんかないのだが。

まあ、いたのなら儲けもの、ぐらいの気持ちで行こうじゃないか。


「……にしても、この世界はファンタジーから遠いな」

「夢物語を(えが)く人がいるなら、それでいいとセリーは思うよ」


……珍しくマジメな。

夢物語ねぇ。掴むことのできないものなんて追いかけたってダメだろう。


投擲してでも打ち落とす気でいかないとな、やっぱり。

自分の夢だろう、壊れるなんて思うなボケ。


「っていうわけで、隕石でも降ってこないかな」

「……さっきまでの会話のながぁれからして、おかしいよねー?」

「お父さんはこんな人なんだよ!」


何のフォローにもなっていないぞ。

いいや、事実だからフォローなどいらないと言いたいのか。


男の威厳と書いてプライドと読んでもいい加減いい頃合だと思うわけですよ。


「……何でもいいから、次行くぞ!」





……隣でセリーが硬直している。

いや、俺も正直数秒ぐらい硬直していた。犬死ちゃんはいつもは無気力に開かれた瞳を見開いている。


この状況を表すのならば驚き。


神様不在で守りのパワーみたいなものが消えてしまったのだろうか。

それと、世界が白だろうが黒だろうが色が付いていようが、日々というのは変わらないらしい。


今も作業員の人が色が付いたばかりだというのに"その"作業に集中している。


「お、おい。セリー、これって……」


肩を叩いて呼び戻してやる。

今にも泣きそうな表情でこっちを見るセリー。


「せ、セリーの……神殿が……」


そこまで言ってついに泣き出すセリー。

ああ、わかるぞ。


目の前で崩れていく神殿。

俺も前々から思っていたのだが、この神殿邪魔である。物凄く邪魔。

墓地のど真ん中とかふざけんじゃねーぞボケ、ってくらい邪魔である。しっかり管理されているようにも思えない。


それで、この墓地を管理している奴が決めたのだろうか、たぶんそいつだ。

取り壊し作業が始まっているのである。


つまり、セリーのいるべき場所というのが失われてしまったわけである。


「……む、むう。お前がその姿でいるのなら……神殿はいらないのだろうが……。他の神殿とかで代用できないのか?」


声が出ないのか首を振るだけのセリー。

犬死ちゃんを見てみれば、何処か儚げな表情。


……俺にどうにかできる問題じゃないんだよなぁ。


「作り直せないのか?」

「……場所が……」


なるほどな。

取り壊しした後に、もう一度同じ建物を作るわけにはいくまい。


……はぁ、こりゃあアレだよ。


神の鉄槌は死者へさえ無慈悲に落ちる、だな。


「この墓地を使っている人間すべてに了承を取るんだ。神殿があってもいいんじゃないか? って」

「……で、でもぉ!」

「無理だろうから偽造しよう。アレだよ、神様パワーってヤツだったか」


ニヤリと笑ってやる。

ひくっ、と体を一度揺らし涙を止めるセリー。俺から少し放れて手をグー、パーと変えていく。


「……パパ、直るのに……やっぱり時間は掛かるよね」

「もう一度、取り壊しが決まるかも知れないしな。俺達がいくら無効にしようと、この墓を使っている奴が邪魔だと思う意思は変わらない」


……親ってのも大変なものだな。

子供の居場所、それを一番に考えてやらなきゃならない。


ったく、面倒だ。


「時間は掛かるだろうが、説得だ。殴って喚く連中は話で黙らせろ。それしかない」


いざこざに金を持ち出すのもどうかと思うしな。


「さて、偽造スタートといこうじゃないか」

「お父さん」


犬死ちゃんが真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。

……やっぱ、ダメなことはダメなのか?


「身分証明が出来るものを一緒に作っておくといいかも!」

「……ふっ、我が娘ながら天晴(あっぱ)れだ。これ終わったら影流達を探しに行くぞ」


その後は影流に何かおごってもらおう。

俺も悪いが影流も悪い。


青空だって悪いし、虎子も竜子も。


巻き添え上等ッ!


「お父さん、終わったよー」


さすが神様。


声がした方を向けばありえない量の書類の山。

さらに保険証やら何やらのタワー。


……これを何処へ持っていくって? え? 管理人のところ?

はっはっは、馬鹿を言うな。


……よーし、お父さん頑張っちゃうぞー。





あの管理人一人では決められないそうで、何か集まって取り壊し計画中止などを決めるそうだ。

ただ、俺達の勝利は確定している。


無から有、偽りなどない正しさを生み出せる神がいるのだから。

こっちからしたら、雑魚が集まろうと雑魚なんだよ! ってな気分なわけである。


この世界ではセリー絶好調だし。

犬死ちゃんもまだ疲れている様子を見せていない。


取り壊して欲しいという意見が本物なのだろう。

けど偽物だろうと質の良い方が勝つんだよ。


「セリー。この後必要になってくるのは金だ。取り壊しは署名やらなんやらで中止されるだろうが、もう壊されかけている。作り直すにはやはり金が掛かる」


呆然と聞いているセリー。

待て待て。これは神様の手で解決しちゃあいけないことだ。


こんな光景見たら俺は娘に頼りっきりの生活を送ることになるぞ。

金が無限大とかいかん。それはいかん。


「そこで、だ! 手っ取り早く金を集めるには? そう! 銀行ご――」

「ああっ! 海弟ッ!」

「……ごほんッ! 誰かね?」


いきなり声を掛けられ後ろを向けば、虎子と竜子を連れて歩いている青空さんじゃあありませんか。

俺達も三人で歩いていたわけだが、子供連れとはわけが違う、わけが。


いやー、綺麗どころ(一部普通)が集まると空気が変わるね。


瞬間的、更に青空達が消滅しない限り永続的にこの地に美少女オーラが根付くことだろう。

よかったな!


「こ、こっちの世界にい、いつ! え、えと、海弟!」

「焦るな。ふっ、俺はついさっき大きな仕事を終えたばかりなのだ。神殿が酷いありさまだったからな」

「……私、は含まれないんだろうけど。海弟達との戦闘があって、その傷跡が残ってたでしょ? それで不良グループがイタズラしたんじゃないかー、って。前々から邪魔だったらしいから、そんな理由もあって取り壊されることになったんだよ」


……長い。


まあ、つまり悪いガキどもが神殿ボコボコにしたと思われて、ついでだから神殿取り壊しちゃおう、ということか。

防いできたから安心しろ。


「まあ、竜子ちゃんのお父さんがやめて作り直せー、って言って今は作り直している最中らしいよ」

「……ふっ、セリー」

「だ、だいぶ……はずぅかしいことしてきちゃったー」

「あれだけ大変だったのにー!!」


目をまん丸にしている青空に説明をしてやりたいところだが、俺の、俺達の恥なのでやめておく。

情報を共有? 恥は共有できないだろ。


「ま、まあ何にしても。あれは壊されていたんじゃなくて直されていたんだな!」

「うん、そうなんだよ。それより海弟、大きな仕事って? それに……」


セリーのほうを向く青空。

ふっ、あの時の俺は本気だったからな。


セリーの名も、目的も聞かずに殺そうとしていた時のことを思い出す。

疲れていると人間どうでもよくなるものである。


……冗談。


「仕事については秘密だ。コイツの名前はセリーだ。覚えておいてやってくれ、俺の娘の一人だからな」

「む、娘!? 海弟の子供!」

「お、お前! その歳で……い、いや、ううん……やっぱり待て! この子、十歳ぐらいには見えるぞ!」


逆算すると俺は十七歳だから……えーと。

俺は七歳の時に結婚したんですか? うん、これギャグになるな。


「とある事情があってな。はっは、気にするな。娘だろうが殴る」

「後ろの二人が固まったよ海弟!」


いや、元々セリーは敵だったけど、差別はしないって意味なのだが。

ギャグにならないな、コレは。


「まあいい、影流のとこに……というより何処かへ行く途中だったのか?」

「私たち服を買いに行くところだったの。海弟もくる?」

「せっかくだから選んだり、その……してほしい、かなー」


青空が興奮気味に、虎子が耳をぴくぴくさせて俺に詰め寄ってくる。

左右、隣にいる犬死ちゃんとセリーの服を掴んで摘み上げると青空と虎子に渡す。


「コイツらに普通の服を着させてやってくれ。それより、俺は影流のところに行きたい」

「では、私が案内しよう」

「ん? 竜子も買い物――」

「服ならたくさんある。金は渡しておこう」


青空に、意外に小さめな……中はカードばかりだったりしてな。

まあ、高そうじゃなさそうで高いんだろう財布を青空に手渡す竜子。


「こっちだ」

「あいよ。セリー、犬死ちゃん。大人しくしてるんだぞー」


はーい、という元気のいい挨拶が二つ返ってくる。


青空と虎子も短い挨拶を残し行ってしまう。

さて、俺も竜子の後に……って俺を無視して勝手に進むなッ!


「置いていかないでッ! カムバック!」


っていうか、墓地を管理しているのって管理人でいいのでしょうか?

わかりません。そういう知識ないです。住職さんというのなら知っていますが。


な~む~。


さて、海弟と影流が出会い……やっと動き出せそうです。

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