第491話死に際とドッキリ
さて、今日もお日柄がよく……ただし死人が出てしまったことを残念に思います。
ええ、うん……救われない人もいるわけです。
料理の本……料理の本……。何処に落ちているのだろう。
っていうか、俺たちが追っていた時にしっかり持っていたのか? それ以前になくしていたんじゃないだろうな?
訝しげな視線で見つめていると、こちらを振り向くケイヤ。
そういえば、ケイヤという名を何処かで聞いたことがあるような……ないような。
思い出せないということは重要ではない事柄ということなのだろう。思い出すことを諦める。
「い、いやぁ、見つからないなー」
「行ったり来たりで五週ぐらいしているからな。誰かに持ち去られた、とかあるんじゃないか?」
「その人を恨むべきか……」
ああ、お前に向けられた銃の引き金を引いた人物だ。
恨むが良い。存分に恨め。
「さて、恨むということは人生を諦めたってことだよな。うん、死んで来い」
「……」
顔が真っ青になる。コイツ面白いな。
「今日中に返さないとダメなのか?」
「い、いや、今日じゃなくても大丈夫なんだけど――」
「諦めよう」
何だその目は。
「考えてもみろ。その拾った人物がアルンさんとやらだとする」
「……アルンさんだったら?」
「アルン『まぁ、ケイヤにあげた本とまったく同じ本が落ちてるわ!!』」
「……で?」
「アルン『この本は私がもらうことにしてケイヤにあの本はあげちゃいましょ! うふふ』」
「オレには絞め殺される未来しか見えない……」
俺の考えた可能性を全力で無視したなおい。
「ま、明日にまた探すことだな」
「まだお日様が見えるんだけど見間違えかな、これは?」
はっは、人はそれを夕日と呼ぶんじゃないか。
現在時刻は午後三時!
「じゃ、俺たちは森の方へ行くから!」
しっかり探していたセリーを呼び、近くに来るとその手を握って全力で走る。
彼は良い奴だった……それ故に……我、友を見捨てる。
☆
「……な、何が起きているというんだッ!」
目の前に現れた……俺! もう一人の俺だ。
「ぱ、パパがふぅたり……どっちが本も――」
「お前の隣にいるほうに決まってるだろ」
森に入り数十分したところ、セリーの案内もありだいぶスムーズに進めていたわけだが、その進路を妨害してきたのは、もう一人の俺。
木の陰から現れたそいつはニヤリと笑って一言も喋らない。
「お前、何者だッ!」
「……何者って、何者でもない、あんたさ!」
俺? 俺だと!?
ふっ、甘い。甘いぜ。まるで角砂糖のように甘い。
「あ、角砂糖のジャリジャリ感は俺は好きじゃないな。第一溶かすためにあるわけだし」
「パパ……」
すみません。
「俺の目の前に現れるということは、殺されも文句は言えないぜ?」
「へぇ、自分が誰の目の前にいるかすらわからないの?」
……ッ!? 俺の前!
つまり、俺も殺されるッ!!
グッ、盲点だった。
同士討ちになるわけだ……犬死ちゃんがいない今、死を間近に逃れることは出来ないわけだ。
……ここは、逃げるか。
回り道をするしかない、のだろうな。
「セリー、回り道……セリー?」
「すこぉし、おかしくないですかー? 口調、とか?」
口調?
木々の生い茂る森が風で揺れる中、先ほどまでの会話を思い出す。
……俺、俺……俺は。
「口調がおかしいのか?」
「殺人ビーム(仮)」
ひらり
……ひらり、と避けられるわけないだろ。
『俺に30のダメージ』
俺じゃなかったら死んでいたな。いや、俺の周囲にいる奴等なら持ち前の生命力で何とかなりそうなものだが。
何にしても、セリー……短気はいかんぞ。
「アイツの口調のことを言っているのはわかるが、アイツも俺なんだぞ?」
「……すこぉし、女ぇめしくない?」
……女々しく。
ふっ、そうか。
「パパが二人に、とか間抜けなことを言ってしまったことを恥じて――」
「殺」
殺すことしか考えてないのはわかった。
やめてッ!!
何とかセリーの殺人ナックル(仮)を避けるとセリーの頭に手を乗せる。
何かしそうな仕草をしたら頭を……ふっふっふ。
「……相手ぇは敵、だよー」
「お前が言うからには、そうなんだろうな。例え、俺だろうと!」
セリーは力をほぼ失っている状況。
ならば俺が戦うしかないだろう。
俺vs俺の戦い開始まで一秒……ゼロ!
ダッシュで俺へと……ええい、面倒だ。偽者へと近づいていく。
良いスタートダッシュが出来た……と思ったのだが目の前から俺が消える。
「なッ!?」
立ち止まり周囲を見回す。
「後ろ」
素早く後ろを振り返ると偽者がいた。
俺よりも速い動き……キツい戦いになりそうだ。
「おっと、こっちはドッキリのつもりでやってるんだけどねぇ」
俺の攻撃がぶつかる、というところで偽者が言う。
ドッキリ?
「セリー!」
「し、しらなぁいよー」
セリーも知らないのか。
あれこれ考えていると。目の前の俺が消える。
また、何処へ行ったんだ!
「ここさね」
「いない……ぞッ!」
「思い切り見えてるよね。蹴りしてるもんね、悪かったから」
軽やかな動きで避ける茶色の髪の少女。
コイツが真犯人かッ!!
「許さんぞ。幸い、ここは人目が少ない」
「人間としてサイテーなことはしない?」
「お前、俺を何だと思っているんだ。そんなHENTAIに見えるかい?」
「……見えなくもないさね」
……よし、自己紹介をしよう。
「俺はダイナミックな男、海弟だ!」
「海弟、へぇ」
「ダイナミッカー海弟と呼ぶが良いッ!」
「ダイナミッ――」
「ダイナミッ海弟じゃないぞ! 『カ』を重ねるな!」
「……ダイナミッカー海弟? 海弟じゃダメなのかい?」
「海弟で良い」
……面倒な挨拶を終え……ちゃダメだろ。
おい、俺はお前の名前を知らないぞ。
「あたしのことは山ちゃんとでも呼ぶがいいさ」
「山ちゃん? 略して――」
「山ちゃんで十分略されてるから、何か嫌な予感がするから。これ以上略さなくていいよ」
……その嫌な予感は正解だ、やーまん(『やま』ちゃ『ん』)。
「それじゃあな、山ちゃん。俺はこの先に用がある」
「ケイヤの家に? 案内するよ?」
「ケイヤの家じゃない。神の住む――」
「いきぃーます」
……セリー?
海弟があまりにも気楽すぎる……。
神に会う……普通は少しは緊張するんでしょう。
……でも、まあ自分の娘という位置にいますしね。
母親不在ですが……。
青空さんは海弟とくっついたらいきなり母親です。よかったね☆




