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第488話ファンと海弟

この二人が揃うと王道っぽくなる。


っぽくね。

「はぁ、で……探しに行きたいと」

「そうなんだよ。じゃ!」

「いえ、逃がしませんよ」


扉は外から押さえつけられられているのか両手を使っても開くことはない。


現在いる場所は執務室。

外にいる門番達が押さえつけているのだろう。余計なことを……。


逃げられない現状を理解した俺は近くのソファに座る。


「場所がわかったんだ。行かなきゃダメだろ」

「それが正しいのかもわかりませんし、第一に海弟様がここからいなくなったら国防にまわせる兵士がいなくなってしまいます」

「そんなの誰でも良いだろ」

「馬鹿ですか。海弟様がいるから、この城の兵士の半分以上を捜索に割くことが出来ているんですよ!? 少しは自分の実力というものを理解してください」

「……でも俺より強い奴なんていっぱい――」

「あなた基準で、ですよね? 常識があるのなら普通わかります。あなたの実力は一つの軍隊に匹敵する」


な、そんなはずはあるまい。

そこまで俺は力を持っていない。白の剣と黒の剣があれば話は別なわけだが……。

あるな。だが、俺の魔力も有限だ。


「軍隊に匹敵する? 軍隊って強いだろ」

「ただ強いって言葉だけで片付けてしまうあなたもあなたなのですがね……」


溜息を吐くファン。

どういうことだ。


「私と海弟様が戦い、勝つのはどちらだと思いますか?」

「俺だ」


即答する。

しかしファンは、でしょう? と、言って手元の書類に集中し始める。


……意味がわからないのだが。


「どういう意味だよ!」

「まだわかりませんか! 私は人間の中でも強い部類に入ります。その人間に圧勝できるであろう人物がこの城を守っているのなら安心でしょう!」


大声を出すな。

俺も出したけど。


けど、ようやく理解できた。


なるほど、俺がいるとこの城は安心。

だからこそ兵士を捜索の方へ割くことが……って、コレ何度もファンは言ってないか?


……俺の理解力のなさに泣けてくる。


「……まあ良いや。俺は俺で行く」

「良いんですか?」


書類に目を向けたまま言うファン。

俺へ向けた言葉なのに……何て無愛想な奴だ。


「良いも何も。やるしかないのにデメリットなど気にしてられないだろ」

「……あなた以外の人が行ってくれる、そうは思わないのですか?」

「俺に不可能はないからな。問題ない」


答えになっていませんよ、とだけ呟くとファンは立ち上がる。


「普通の人間が我慢するところを出来ないなんて、まだまだあなたも子供ですね」

「大人に反発するのが唯一の楽しみだ」


ニヤリと笑い言ってやる。


「馬車の手配をします。あまり言いたくないのですが、あなたは信頼されている。よかったですね」

「信用はしてないみたいなんだが……」


答えず部屋から出て行ってしまうファン。


……うむ、移動をどうしようかと思っていたところなのだ。

馬車はありがたい。


「……だが、気が変わるのが早い奴だ」


国防がー、とか言っていたが……俺の鍛えた兵士のことも少しは信用してほしいものだな。

くっくっく。


さて、ファンの手配してくれた馬車とやらに乗り込みに行くか。





見送りはいなかった。

うん、寂しい。


「で、セリーさん? 何で隣にいるのかな?」

「パパの努力は報われぇてるよー」


……はいはい、そうですか。

うん、見送りはいないが寂しくはないな。


そして前方、といっても馬車の外ではない。

馬車の内側、俺の目の前にいる女。


この女、さっき会った奴だ。


「……パパ? 何、子供?」


好奇心旺盛なこの子をどうにかしてください隊長!

俺です。


「うるさいぞお前。相乗りしてるんだから静かにしろ、遠慮だ!」

「旅の会話ってあれよ? 意外と思い出になるんだから」

「旅のしすぎで俺はほとんど忘れてるから思い出になるという補償(ほしょう)はない!」


うげっ、という表情の女。

コイツ……殴ってやろうか。


「そりゃあ寂しいわね。ウサギさんだもんね!」


俺はウサギじゃないぞ。

それに寂しくたって死にはしない。


まあ寂しいって感情を抱くことすら稀だな。

いつも隣に誰かいるんだから。


今はセリーか。


「っとと、旅の仲間ですから名前ぐらい教えあいましょうか。そっちのしつこいお兄さん、名前は?」

「コイツに名前を教えていいのか戸惑いまくりなのだが……。とりあえず名乗っておこう。俺の名前は海弟だ」

「カイデ」

(なま)るなコラ。海弟だ」

「海弟。うん、了解」


とん、とセリーの肩を叩いてやる。


「セリーだよ!」

「ちっちゃくて可愛いー!」


この女からふわふわとハートが放出され始めているように見えるのだが……見間違えだろう。

何だコイツは。


「私の名前は? って顔をしてるわね。良いわ、教えてさしあげんましょう!」


さしあげんな。お前の名前などいらん。

しかも語尾が不自然になってるし。


「アーネよ! わかる?」

「お前ナメるなよ。日本語は完璧だ」

「日本……ん?」


……コイツといるとペースが狂う。いや、崩れる。


「まあ、何でも良いんだ。お前もベルファだっけか、そこに行くのか?」

「家出が見つかっちゃったしねー」


家出、って何だよ。


「そこの町長の娘なんだけどさ。王都って一度は見てみたいじゃない? だから黙って……さ」

「……城に知り合いがいたわけだな」

「まあ、そうなんだよね。はっはっは」


……もう黙るか。うん、喋ると同時に生気も吸い取られてる気がする。


そういや紹介が遅れた。

従者の人だ。


……名前不詳、年齢不詳、性別不詳――


『男ですけど!?』


性別は男というらしい。

たぶん普通の男とは違う男という性別だと思う。


従者の人は従者の人なのだから。


さて、女の正体と名前が明かされたわけですが今後の展開にあまり関わってきません。


どちらかと言うと、もう一方……。

いえ、何でもないです。はい。

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