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第486話女と職人

頑張れ社会人、いや海弟は違うけどさ。

朝っぱらから俺が起きているのも珍しい……と、俺が思ったりしてみる。

何だろうな、気合いのなせるわざ……俺は日々の生活の習慣に打ち勝ったんだ。


そして俺のいる場所、城門である。つまるところお城の入り口。

門番と他愛(たわい)もない一方的な会話をしていると、なにやら怪しげな格好をした奴が門の前でうろちょろしているのを見つける。


「何だアレは」

「何だ……と、言われても……」


困り顔の門番。

特に害があるわけでもないので話しかけにくいのだろう。着ているものも怪しくはない、不自然なほど完全に一般人の格好だ。

だからこそ、怪しいと思うわけだが……うむ、ここは俺が声をかけてきてやろう。


待っておれ、と門番に命令する必要もない命令をした後に、その一般人へ向かって走る――逃げられる。


「何ッ!? 何故逃げる!」

「追ってくるから!」

「追っているわけではない。尾行だ」

「こんなあからさまな尾行ある!?」

「じゃあ追跡だ!」


ウォリャアァァァッ!! 止まれ!


ズザァァァ、と通路の角を横滑りしつつ曲がるとスピードを保ったままダッシュ。

それを何度か繰り返すと、口調から察するに相手は女だからかスピードが落ちてくる……この一瞬を待っていたッ!!


女の横を並走……肩をちょんちょんとつつきこちらを向かせてから一言――


「追跡完了……」

「このッ!」


俺の足を蹴ってくる女。

ふざけん――ああ、転んだッ!!


顔面から舗装された通路へダイブする俺。


ここで殺されてたまるかァァァァッ!!


ぶつかるであろう場所へ火球を瞬時に打ち込む、爆発。

もちろん、俺の目の前である。


煙が晴れるのを待ち格好を決めると、風が吹く。


ふっ、俺の登場がそれほど待ち遠しいか……。


煙が晴れて俺が現れると同時にキメ台詞!


「俺は死なんッ!」


キッ、と睨んだ先に女はいない。

俺が死んだと勘違いしてか恐怖に支配されて逃げたんだろう……ふ、柔な心を持った奴――背後!?


急いで距離を取って後ろを向く。


「……んん?」


人影すら見当たらない。

俺は気配を感知するのが苦手だから……たぶん、勘違いでもしたんだろう。


おっと、さっきの女を逃してはダメだな。

俺の見栄に傷がつく。


まあ、見栄だから良いか。


「さて、帰ろうかな」


また背後!?


更に気配を感じて後ろを向けば……二人組みの男が立っていた。

何ていうか、熱い心を持っていそうな人達。


これはもうやることは一つである。


「あの夕日に……いいや、朝日に叫ぼうッ!!」

「ありえねぇから。んじゃ」


片手をひらひらと、何処かへ去っていく男二人。何か片方はガッハッハ、と笑っていた。

……うん、何だったんだろう。


にしても、ありえねぇの一言で俺の言葉を片付けるとは……許せん。


が、しかし。まずはあの女のケツでも頬でも良いから叩いてやりたい気分なのだ。

土下座ならハゲ散らかすまでやって欲しいものだ。


そういうわけで、探すぞー!





「で、遅れたわけですか」

「はい。うん、見つけて殴ってきたから大丈夫」

「いや、大丈夫じゃないですよ。何か後ろに付いてきてますよね? まったく解決してませんよね?」


何だと、城内にまで侵入してきたのかコイツ。

いや、俺のつれだと思われたんだろうか……?


だとしたら仕方ない。


「まあそんなに怒るなファン。笑え、ガッハッハ」

「……ガッハッハ?」


(まゆ)を歪ませるファン。


何にしても、だ。

この女、何で俺の後ろを付けてくるんだ! それに俺に罵倒をマシンガンの如く発砲に次ぐ発砲、The発砲で背中に撃ちまくっている。

気にしないから問題ないが、この女、城の中まで付いてこられたらさすがに迷惑である。


「馬鹿、おい、馬鹿。お前ここまで入ってくるな」

「追ってきて、殴って! あんたサイテーの男よ!」


……はぁ、話を聞いてもらえそうに……ファン?


「それには同意します」


ペコリ、とお辞儀したと思ったら、顔を上げて何処かへ去っていってしまう。

たぶん、この時間ならば……職人とやらのところだろう。


クッ、早くこの女を城の外へ出さなければ。


「サイテーの底辺のチリね!」

「馬鹿野郎! チリ人に謝れ! チリだって良いところだぞ、たぶん」

「そういう意味じゃあ……って"チリ"に国なんてないわよ!」


ああ、そうか、こっちの世界にはないな。うん。

異世界にはあるんですよー、お馬鹿さーん。


そんな幼稚な言いあいもそろそろ終わりにしたいなぁ、というところで後ろから聞いたことのある笑い声が聞こえてくる。


「ガッハッハ、元気のある騎士様もいたことですなぁ~」

「元気がありすぎて困り……いえ、何でもありませんわ」


おほほほ。


……クッ、何だあの態度の違い! しかもこっち見て話題を逸らしやがった!

この、邪魔をしに行ってやらなきゃ気がすまないぞおい!


「女、手を貸せ」

「汚い、バッチイ」

「死ね」


俺一人でやるから良い。


「この城内見学して良いから俺から離れろ!」

「ホント? ねぇ、ホントね?」

「ああ」

「あっはー、気前が良いわね。キスしちゃ――」

「汚い」

「……」

「バッチイ」

「……う、わかったから。じゃねー」


……何だったんだ、あの女は。

名前を聞いておいけばよかった、悪い意味で。


だが、これで俺は解放された。

訓練の時間までまだ数時間余裕がある。


行くぜー、行っちゃうぜー。

……何処に?





はぁはぁ、でかいぞこの城ッ!!


一時間走り見つけられない職人とファン。

何処へいるのやら。


……まさか、俺は見張られている!?

つまり、俺が移動すると同時にファン達も俺から逃げるように移動しているということ……。


クッ、気づかなかった。


一時間俺は踊らされていたわけ――あ、見っけ。


「そこかァァァァッ!!」

「ぬぁっ!?」

「な、なんだぁ!?」


似た動作で俺の攻撃を避ける男二人。

……こ、コイツ等は朝会った……いや、運命的な出会いじゃない。これは運命的な出会いじゃない。


例えば――


食パンをくわえて走っている女の子にぶつかる、とする。

その子が転校生だった時のような、そんな運命の出会いではない! 断じて!


「違うッ! むさいおっさんと、その……息子!?」

「よくわかったな」

「わからんくても良かった! でもわかってしまったんだ! まあ、そんなことはどうでも良い。俺は作業の邪魔をしに来たのだよ!」

「うわ、ありえねぇ。城が直らなくて困るのはあんたらだろ?」

「ふっ、頭を痛くするのはファンだけだ」


何だ、その顔は。


しかも視線には『城壊してる犯人コイツだろ』ってな感じの視線が混じっている。

失礼な。失礼な。失礼……俺です。


「ご、ごほんッ! 天地をひっくり返すような登場に驚いたかッ!」

「ひっくり返ってるのはあんたの頭だろ? こんなのでも騎士になれんのか、参考になるなぁ」


プリンだってプッチンしちゃうよコレは。


剣を引き抜き片方、息子らしき方へ剣を向ける。


「ぬ、さすがに笑ってはいられないよう――」

「まともに相手しなくていいって。俺等は作業に戻ってれば――」

「問答無用ッ! 更に破壊衝動ッ!」


上から下へ、一撃……重いものだが……避けられたか。


「身軽じゃなきゃやってられねぇ仕事なんだがな」

「知るかッ!」


一撃、一撃、一撃――


連打へと変わるそれらを見事に避けていく息子。

さすがに息が続かず攻撃を止める。


「……ホントに邪魔しかしねぇなぁ。ありえねぇ」

「うむ、作業が(はかど)らん」


後ろで普通に壁を直す作業してるオヤジさん!?

その手を止めようか! 必死で俺が邪魔してるのに失礼じゃない!?


「ったくよ。馬鹿な騎士もいるもんだ。お、馬鹿な神もいるんだし、いても良いか」


一人で笑う息子。俺の息子じゃないぞ。だってコイツは神じゃない……ん?

神、コイツ神と言ったか!


「お前ッ! 馬鹿な神って何だ! この世界の神のことかッ!」

「は、はぁ? 顔近づけるなって、男とキスはありえねぇ」


ありえねぇ、同意だ。


「詳しく神について話を聞かせてもらおう」

「作業の邪魔すんな」

「オーケー」


いやぁ、さすが職人。情報通だねぇ。うん。

何故だか背後から冷たい視線、たぶんフから始まりンで終わる人からの殺気を感じる。


「○ァ○さんやめて!」

「妙なとこを伏せないでくださいッ! 私は汚くないですから! R指定ないですから!」


……チラリ。


職人親子の方を向く。

黙々と作業をしている後ろ姿は『助けない』という意思表示をしているようにも見えた。


「……土下座はハゲ散らかすまでか?」

「死ぬまでです」


酷いぞオイ!


そういやファンって何でファンって名前になったんだろう。

影流相手のヒロインではなく、あくまでファンとして存在しているか――


可愛そうな現実もあったものですね。一生手の届かないところに影流はいるみたいです。


さて、二人が出てきました。

あまり更新もされていない小説で準レギュラーを獲得しております二人。

職人様ですからね! はっはっは。

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