第485話『俺が、な?』by海弟
ば、馬鹿な! 進展していないだと!?
冗談です。
「はーい、今日の訓練は各自自習。俺は寝る!」
おやすみ。
「待ってください。昨日のような訓練は……やはり無理があると思います。それで弱音を吐いている兵士も見ました。しかし――」
「いや、俺が眠いから自習なんだ」
「……は?」
「俺が眠いから自習。喜べ」
きょとん、とした顔の将軍。
凛々しい顔が台無しだぞ。その美形の顔をもっと悪い方向へ崩せ。
「っ、訓練を怠るのですか!」
「俺は昨日の夜に一人で素振りしてたんだよね……。だから眠い」
「な、夜中に訓練!? 昼にも……夜にも……常人の二倍の努力をしていたということですか。なるほど、どうりで強いわけです」
昨日だけね。うん。
「では、今日の夜はお供いたしま――」
「ふっふっふ、残念だが今日の夜は忙しいのだ。ベッドが新たに俺の部屋にやってくるからな! 設置とかを手伝うんだ」
「は、はぁ。では明日――」
「寝心地を確かめるのに忙しい」
「では明後日――」
「んー、訓練が嫌な気分?」
「……それでもあなたは騎士ですかーーー!!」
耳をつんざくような声。とてもうるさい。
首を跳ね飛ばしてやろうか。
いや、まあ俺が悪いといえば悪いのだが。
「国のために尽くすという気持ち、それこそが――」
「んなものあるかッ! 騎士とか男とか人間とかいう前に俺は俺だ。目の前に誰がいようと何があろうと関係ないからな!」
「では、何故あなたは騎士になったのですか……?」
この将軍。そうか。
俺達がこっちの世界に来て、落ち着いてから新たに将軍になったのか。
異世界から俺達がやってきて王様や王妃様やら騎士様などやっていることを知らないわけだ。
異世界の住民なのを知っている奴相手なら楽なのにな。
「権利、名声、金。この三つが揃ったら素敵だろう?」
「こ、この人は……。少し尊敬し始めたと思ったら……」
「俺を尊敬などしない方が絶対に良いぞ」
誰が何を言おうと断言してやる。
いいや、断言とかじゃなく当然の結論だ。
「……その強さを生かそうとは思わないのですかッ!」
「思う。思っているからこそ……あ」
頑張ってないな。
……そう、ファンの野郎に神様探しに行かないよう釘をさされてるからな……。
俺って何やってるんだか……。
サボってるな。
「……しょうがないな。眠いが今日も特訓だ! 怪我? 錯覚だ、擦り傷だろう?」
元祖の取れた発光剣を鞘から抜き構える。
「な、何故いきなりやる気を――」
「隙ありィ!」
急所を狙った一撃――それは見事防がれる。
さすがに不意打ちでも……見極められたか。
「いや、俺は昨日不意打ちの攻撃しかしてないからな……見極められるのも当然か」
「……反撃の余裕だってありま――」
「――せんッ!」
突如光りだす俺の剣。
「な、何が起ころうと……」
よろめく将軍。
馬鹿め! 何も起こらないんだYO!
光ったまま横殴りの一撃――気を取られていた将軍は僅かに動きが遅れ……俺の勝ちだ。
「な、何が……」
「この剣の真の能力を教えてやろう。光るんだ!」
「……は?」
つまり。
「光るだけなのだよ! はっはっは」
虚しい。
「聞いています……。二人の天才が作り上げた武器の一つ……とか。それが……そんな、効果しか持たないなんて……」
二人の天才? 一人の変態と一人の鬼才ならわかるんだけどな……。
ちなみに変態はうちの師匠。
「他の武器はすごいぞ? どうすごいのかはわからないが、俺の持つ武器以外のヤツはすごいらしいからな」
俺のだけ手抜きってひどいよな……。
まあ、元が市販されてる武器だからな……しょうがないか。
ここで妥協してしまっていいのかわからないが、いつものことだ。
「んまあ、武器の性能に頼ってるようじゃあまだまだだぞ? 後付けじゃなく元々の性能、自分の実力こそが尊いんだよ」
「……はあ、そうなんですか」
さて、どうかな? 本人がどう思っているか、じゃないか? 本当の答えは。
俺は、俺が目指すものには小さな自分はいらない、大きな自分だっていらない。
いつも見ている、見えているものは一つなのだから。でかい一歩も小さい一歩もそんなに変わらないだろう。
「強くなりたいか?」
「……はあ」
「お前、自分より小さい子供だからって適当に誤魔化してちゃダメなんだぞ?」
将軍、という職についているだけあって、中々年を食っているだろう男に言う。
俺は年下と年上の区別はつける男だぞ! ちなみに年上は殴り年下も殴る!
「強くなりたいのなら無茶をしろ。怪我をしたのなら、その分人は強くなる。恐れるな、突っ込め」
「……無茶、などしたら職を失いますよ。はは」
「安心しろ。ファンなら無茶をしようとした瞬間にクビになる」
優秀なんだよね。うん。
「さあ、さあさあ! 夕日? いや、あそこの壁に向かって走るぞー!」
「お、オス!!」
ダッダカダッダッター
「コォラァァァ!! 海弟様! そ、それに将軍まで!? これは……訓練の範囲を超えていますよ!」
「うははははっ! 直しておくが良い!」
「う、逃げるの……ってもう逃げてる!?」
横目で俺を見てくる将軍だが、残念ながらそこに俺はいない。
早くしないとファンに怒鳴られるぞ!
☆
……うん、逃げ切れるはずがないんだよね。
俺の逃げ場なんて自分の部屋しかないんだし。見つかるよね。
……グァァァッ、説教長いッ!
「将軍をそそのかして、何がしたいんですか! 壁を直す作業の連続で、この城の職人は疲れきって休んでしまっているんですよ!?」
「なら町の――」
「城を直せるような技術を持った職人はいません。はぁ、遠くから呼ばなくてはいけないのです」
「むう、この城の職人は体力ないな」
「あなたに言う権利はありません。毎日のように壁やら扉やら天井やら壊して……」
「ツボも割ったな」
「いつですか!? それ聞いてませんよ!?」
まあ落ち着け。
知らぬなら、知る必要はないのだ。
「それで、ファンさんや。職人とやらの心当たりはあるのか?」
「え、ええ。何だか話を逸らされたような気も……。まあ良いです、明日には来てくれるそうなので……会ったら挨拶しておいてくださいよ!」
「ええー」
「ええー、は私が言いたいです!」
それなら俺が出て行けば解決じゃないか。
神探し! 神探し!
「……今日はもう休んでてください。……はぁ」
そう溜息を吐かないでくれ。
俺が悪いってのはわかったから。
……ファンにはいつも迷惑かけている気がするなぁ。
コイツは一人で抱え込みすぎた。
きっと影流なら――
「一人で抱え込むな。影流はいないが俺がいる、マジメにやれと言われたら結構マジメにやるぜ、俺は。何かあったら言ってくれよ」
「抱え込んでません。あなたに政治は任せることが出来ませんよ」
ムカッ。
はっはっは、そこまで言われたら俺の名が廃れてしまうな。
良いだろう、やってやろうじゃないか。
「ではさようなら。明日は会いたくないものです」
「え、ちょ! 俺に政治をさせろ! チャレーンジ!」
「ダメです。メッ」
俺は犬か!? ひどい、ひどすぎる!
言い方可愛らしくてもこっちを向かずに言ったんだぞ!?
くそう……こうなったら……こうなったら……。
そうだ、明日来る職人とやらの邪魔をしてやろう! それが良い。
さて、職人さん来ますよー。
ネタバレはダメなのであの二人とだけ言っておきます。
にしても海弟が一人いたら一ヶ月も掛からずに一つの城を落としてしまいそうですね。
財政破綻で。
では、次回!