第480話『この杖は不幸の杖です』by海弟
剣があるなら振るえば良い。
杖があるなら振るえば良い。
敵がいるなら逃げれば良い。
面影さえない。それが俺の技術。
……いや、そんな呆れた視線を向けないで。
馬車の中、セリーの向けてくる視線を両手でガードしつつ俺の隣に置かれた武器を見る。
ああ、武器だ。けど剣じゃない。杖でもない。斧でもなけりゃ槍でも弓でもない。
何だかわからないが、武器だ!
「……どうやれぇば出来るんですかねー、それ」
「剣と杖が合体してだな、宇宙から来た電波をキャッチしそれを元に――」
「この世界で宇宙開発さぁれてるんですかー?」
「されてないな、うん」
いや、もしかして異世界だし宇宙人いるかもよ?
いつしかファンタジーじゃなくSFに……って、待て。俺には宇宙から来た友達が一人いることを忘れちゃいかんな。
最近会ってないから忘れてたよ。HAHAHA!
さて、話を戻そう。
「この武器、俺もどう使うかわからないがデザインは良いだろう」
薙刀が形状としては一番近いが……柄の部分が長い。兎に角長い。
更に柄の部分と刃の部分との境目で折りたたみ式になっており、普段は柄の部分に刃を隠すことが出来る。これで携帯も出来るよ!
で、問題は攻撃力と耐久力のなさですかね。ああ、あとよくわからない形。
うん、自分から攻撃しておいて真ん中で折れるって何だよ。
おかげで製作二日目にしていきなり直す工程に入ってしまったぞ。
まあ、それも一瞬で終わったがな!
「柄のぶぅぶんが杖、ってのがダメなんですよー」
「馬鹿野郎ッ!」
セリーの頬を殴る。
お前は何もわかっていない!
ハテナを浮かべつつ、非難の眼差しを向けてくるセリーに一言放つ。
「全部ダメなんだよ!」
「……なぁっとく」
と、言うわけで二つを分解。元の形に戻す。
発光剣が俺の元へ帰ってくるとともにいらない杖まで付いてきた。
「うーむ、どこかに巨人でもいないだろうか。コレあげるよー」
出てくる巨人はいないか。うん。
「そうだ。杖を半分に斬ってみるってのはどうだろう」
「いやぁ、何で名案思いついたぁー、って顔してるの? ダメだって」
何故だ!
「その武器は、それでかぁんせいしてるわけだから、そこからぶっ壊すのは不味いってー」
「うん、そうだな」
さて、斬るか。
馬車の内部には椅子がある。高級そうなその椅子は両側に設置してあり狭い馬車の中を更に狭くしているわけだ。
ちなみに横幅は人が一人寝れるかどうかぐらいしかない。
その両側の椅子に平行になるように杖を置く。そして剣を鞘から抜くと杖へ向かって――
馬車が揺れ体勢が崩れる。
「ッ、何だァ!?」
「外ぉだよー」
馬車の扉を開き外へ出る。
従者の人がナイフを突きつけられていた。
『ケッ、ガキが二人ィ? 高級そーな馬車に乗ってるからさァ、もっとすげェヤツがいると思ったんだけど――』
さて、それ以上は言わせません。
吹っ飛んでください。
火球を何だかわからない奴に投げつける。
『ぐォ!? テンメェ!』
ギリギリのところで避け、アクロバットな技で後ろへと飛び距離を取る男。
よくわからないが盗賊か何かか。それにしても俊敏な奴である。
その男は口笛を吹き何かへ合図を送る。
その何か、に嫌な予感がして振り返るとお仲間さんが現れた。
俺の? いいや、盗賊の。
「……面白くない」
「反撃ぃ、って言葉は面白いよー」
うーん、それより迎撃の方が俺は好きかも知れないなぁ。
反撃って一回攻撃受けた後だろう? 迎撃なら受けずに相手を殴れるじゃない。
まあ、そんな些細なことはどうでも良いか。俺なら反撃だろうと迎撃だろうとどんな奴でも一発で沈める!
ちなみに例外あり!
「さて、数は数えれるか? 点呼するぞー」
『わざわざ敵に数教えるかよォ!』
俺へ飛び掛ってくる盗賊の男。その数はやっぱりわからない。
それに加えセリーにも何人かの男が襲いかかっていた。よくわからないが汚いなコイツ等。
「俺が真っ黒な汚さならお前等は茶色だ。ウ○コ色の汚さだ」
杖を持ちくるりと一回転する。それと同時に衝撃波が放たれ男達は吹っ飛び"木々をなぎ倒すような音"を立てて沈む。
衝撃波強いな。
セリーのほうを向けば、明らかに劣勢。セリーは死にそう、誘拐されそうである。
ただ、俺に助ける義理は……あるかな。一応、下僕だが娘でもある。
「マジカル衝撃波ー」
『グァァァァッ!!』
『なんっ、何がマジカルだァァァァッ!!』
吹っ飛んでいく男達。
悪を滅ぼす技すべてがマジカルなんだよ。納得しろ。
息を乱しているセリーを馬車の中へ投げ込む――あれ?
「馬車がなーい。ってセリーさーん」
あるのは馬車の残骸だけ。
そこへ落ちるセリーは木屑や埃などを巻き上げ粉塵が舞う。
「ゴホッ、馬鹿セリー」
「なげぇたのはそっちー。げほげほ」
何で馬車が壊されているんだろう。
まさか盗賊の仕業だろうか。
風が気持ち良い草原のど真ん中で考えてみる。
うーん、答えはやはり見つからない。
これは記憶を頼りに捜査するしかありませんな。
まず馬車の中に俺たちはいて、そこから飛び出したら盗賊がいた。
従者の人は馬の手綱を握っていて、その状態の従者の人に盗賊がナイフを突きつけていた。
次に起こったのは盗賊の長い台詞――を遮る俺の攻撃。
衝撃波は避けられてしまったがな。
で、次だ。
盗賊は仲間を呼んだ、セリーと俺と従者の人(現在気絶中)は襲われた。
俺は衝撃波で盗賊を森の中へと……森?
辺りを見渡す。
森など何処にもない。
「……あるぇ。"木々をなぎ倒すような音が聞こえた"はずなん――」
あ。
「そうか。謎は解けたぞホイップクリーム」
「ほいっぷくりーむ?」
気にするな。
「さて、問題はここだ」
馬車の残骸を指差す。
「ここを破壊したのは俺の攻撃なんだよ!」
「馬はふたぁーつ。乗るのはセリーとー、従者の人ー」
俺は歩きですか!?
「走るぅんだよー」
うそーん。
と、まあそこまでの横暴は俺が許すはずがなく。
壊れた馬車になかば強引に繋がれた馬を逃がしてやる。
あばよ!
草原をただただ走っていく馬。そう、自然とは偉大なのである。
その自然に抱かれて生きろ!
よし、俺たちは自然に抱かれて死ぬかも知れないがな。
「ああー」
「逃走は許しません」
さて、まずは従者の人を起こすところから始めよう。
頚動脈から切っていけば時期に起きるだろうか。
「はい、起きてます! みなさん、行きましょうですはい!」
よくわからないが俺たちがアクションを起こす前に従者の人は起きた。
俺の剣が汚れずに済んだことに感謝しよう。
……俺の思考を感じ取ったわけではないよな?
それは怖すぎる。
従者の人が言うには、この近くに村があるらしいのでそこに一度寄ろうということ。
ちなみに馬は勝手に逃げたことにしておいた。知ってるか? 馬って結構高いんだぞ?
背が。
村へ向かって歩くこと一時間、小さくもなく……かといって大きくもない普通の村が見えてきた。
見えてきた、のだがこれ以上近づけそうにない。
「川か」
「結構深そうですね……」
「よぉし、誰かがイカダになれば完璧」
「それはお前だ」
セリーの背中を蹴って川へ落とす。
顔から川へ突っ込むセリー。川の水は冷たいぞー。
数秒後、盛大に水しぶきをあげて立ち上がるセリー。
小さなセリーだが、その下半身ほどのとこまで水位があるらしい。よかった。俺の身長ならばパンツがグッショリ……なんてことにはならないだろう。
まあ、なったとしてもセリーよりかはマシだ。
「従者の人、深いがこの程度なら大丈夫だろう。行くぞ」
「そうですね」
「えっ、スルーなのぉー!? 透けてるよ! ね!」
え? いや、自分から透けてるとか言われてもちょっと……。
そんな恥ずかしい格好見られるわけないじゃないですか、はははは。
「よし、リアクションはこんなもんで良いだろう。行くぞセリー、家族の裸など見ても嬉しくないぞ」
「……家族」
川の中へ脚をいれる。うーん、冷たい。
ああ、靴を脱いでから入ればよかったな。
変えの服など鏡の中に入っているから良いが、遭難中の身である現在、消費を抑えたいというところもある。
何で遭難してるんだろうね、うん。
と、考えている間に川は渡り終わったようだ。
「さてと、もうすぐ村だな」
活気のある村だと良いなー。
さて、次の話で500話目となります。
サブタイトルでは後20話ですけどね。
ちなみに遭難は予定にないです。っていうか海弟は自分の予定を狂わせに狂わせている……。
アレですよ、500話までに影流達を救出できる予定なんですよ!
その予定がここでぶっ壊されました。