第477話『色々間違ってると思うんだ』by海弟
レティナかレティアかわかんない。
レティネだった気もするし……うーん、謎です。っていうかだいぶ前のみたら統一されてないんだぜ。
スタートの合図とともに狙われたのは――やはり俺。
何故かわからないが全員俺へ向かって走りだしたのだ。例外なのは予選一位と二位の二人。
全員が俺を狙うのでしょうがなく、一位と二位はお互いに頷くと戦いを始めた……なんてことはどうでも良い。
兎に角、俺の命が危ない。
魔法使いの人たちが危ない時は止めてくれる、としてもだ。この人数、この強者どもである。
そんな拘束魔法の一つ跳ね除けて俺の首を刈るに違いない。
もちろん、俺は命のない状態で墓石でも作られてその下に眠ることだろう。まず、死んでいない人は墓石の下にいかないからな。
ッ、考え事をしている場合じゃないか。
剣戟などと呼べるものではない。乱撃、もうコレで良い。この表現が適切。
不規則な動きではないのだが、相手はチームを組んでいるわけではない。つまり、だ。チームワークもへったくれもないのだ。
時に俺へ襲い掛かる者同士で傷つけあうこともある。
……この表現であってる。変な意味ではない。
と、まあそんな感じで届く攻撃と寸前で止まってしまう攻撃があるのだ。
それを見極めるのは難しい。
今まで避けられたのが奇跡なぐらいである。
「クッ、この一方的な展開で終わらせてたまるかッ!!」
俺は『発光剣』を剣戟の一つにあわせて受け止めるとその衝撃を使い後ろへ飛ぶ。
かなりの距離を稼ぎ、相手が迫ってくる一瞬――その数は複数だが全方向に攻撃すれば問題ない――雷撃を放つ。
相手の足を止めるに十分の攻撃の後、そこからが俺の流れだ。
「炎よッ!」
一番近くにいたゼッカスの王女へ向かい火球を放つ。
その攻撃を不可視な何かで守るエイラ……だが、コイツだけ続けて足を止めることが出来た。
その間に近づいてくる他の王と赤モジャ。
数がやっぱり多すぎる。
何で俺が狙われているんだ。
さっぱり理由がわからない中、一直線に水のレーザーを放つ。
それを横へ一閃――防いだり飛んだりして避ける王達をよそに何故か俺の魔法に当たっても無傷な赤モジャが走ってくる。
「ッ、すり抜けた……わけじゃなさそうだが。っと」
赤モジャの拳を避けて再び距離を取る。
気を抜いたら死ぬな、コレ。
「そろそろ俺を狙うのもやめにしてくれないか!」
「挑発したのはお前だろうがァ!!」
いや、お前はわかる。
その他だ。何で王達が一気に俺を狙うんだ。イジメだぞコレ!
格好悪いからな!
大の大人が何をやってるんだか。
溜息を吐いてから気づく……あれ、動けないんですが。
「気を抜いたら死んじゃうかもね」
エイラさん、いえ、エイラ様。その手に持った剣をどうか収めてくださいませ。
いえ、気を抜いたら死ぬのは承知しております。おりますがー!?
クッ、避けれない。
振り上げられた剣をどうやって避けようか考えて不可能だと俺の脳みその片割れが伝えてくる。ちなみに右だ。
その右に従い次は防ぐ方法を考える。
速すぎる、無理だと俺の脳みその片割れが伝えてくる。ちなみに左だ。
どうやら俺はここで死ぬらしいな。
はっはっは、避けるのも防ぐのも出来ないのなら不発にさせるのみッ!!
「光」
白の剣は鏡の中、つまり所持している状態ではないわけだ。
つまり起こるであろうことは――爆発。
チュドーンッッッ!!
耳を劈く音が辺りへ響く、瞬間俺は背中側へ風圧で押しやられる。
動かなかった体が動き、着地を見事に決めるエイラ様、もといエイラを探す。
土煙のせいでよく見えない……が、チラリと影が見えた。
「そこかッ!」
黒の剣を鏡の中から引き抜く。
ええい、王は伝説に敵わん。やるしかねぇー!
「闇よ!」
闇の特徴は侵食、消滅とは逆の性質と言っても良い。
その闇が地面、土煙を、空気を侵食していく。
連想魔法なしなので消費が半端ない。
だが、何よりもスピードが優先された――普段連想魔法を使っているだけに発動までのスピードは速かった。
「ぐっ、うう……。嘘でしょ……」
土煙が重力ではない別のもの、俺の意思によって地面へと落ちる。
そして姿を現すエイラ。
「闇の魔法を侮るなッ! 魔王様直伝(仮)なんだぞ!」
「……勇者の息子とは思えないわ」
「ん? 何だボソリと」
「知んない」
と、そこで俺の体が拘束される。
それとともに闇の魔法は消えエイラが開放される。
……ふむ、一人撃破――って拘束されている間に次の敵が襲い掛かって来たんですけど!?
見ればレティア王、マエティーの登場だ。
何か劇薬のような物を持っているような……さすが、何でも揃う国にいる王だけのことは――って俺に飲ませようと……飲んでたまるかー!
「飲め! 飲めば楽になるッ!」
「飲んでたまる――あががっ!?」
しまった、口をあけてしまった!
何だコレ、辛いぞッ!
エイラがいつの間にか退場しており、体が動くようになる……と同時に視界が揺らぐ。
グッ、何だコレは。
「少し、気絶してもら――」
「ウォォォォッ!!」
「何じゃ!?」
後ろから勢いよく迫ってくるベレテナ王と赤モジャ。
レティナの王ごと俺を吹っ飛ばし円形となった場内の壁へと俺の体はぶつかる。
そしてレティナ王。見事に気絶している。
もちろん、回収されていた。
そして相変わらず俺の視界はグラグラと……そろそろ吐き気が。
お、ちょうど良いところに壁が。
吐くなら今だ。
☆省略☆
さて、スッキリした。
視界スッキリお腹ポッカリ。
腹減った。
「まあ勝てば良いんだ。勝てば全て終わる。負けても終わるだろうが、せっかくだ勝ちたいぜ」
ベレテナ王に赤モジャのほうを向けばお互いに牽制、もとい睨みあっていた。
俺のことなど無視の二乗である。
二倍か? まあどちらでも良い。
今のうちに治癒魔法である。
……にしても、華のない武道大会だなぁ。
闇の魔法を俺が出したところで盛り上がっていたみたいだが……一位と二位の対決の方なんて午前午後含めて三回目だぜ?
しかもベレテナ王と赤モジャはにらみ合っているだけ。俺は隅っこで一人回復。
何だよコレ。大会じゃないぞオイ。
……まあ、俺は自分から動かないがな!
安全地帯って大切じゃない?
盛り上がらないッ!
何故かッ!
海弟が海弟であるからだッ! もっとピンチを楽しもうぜ!
と、さて。
この調子で海弟は優勝してくれるでしょうかね。うん、とりあえず二人撃破です。