第469話虎子と竜子
竜子から某球を七つ集めると何でも願いが叶う漫画に登場するヤ○チャのにおいが……。
俺の攻撃は避けられ、虎子の攻撃は防がれ、俺には攻撃されず、虎子に猛威を振るう拳。
とりあえず、俺は狙われる優先順位が低いんだな。うん。
「この野郎ッ! テメェ、女なら掛かってこいやッ!」
雑魚がッ! 的な視線で俺を睨んでくる娘。
虎子との戦いが本当に一進一退なので集中力を使っているのだろう。に、しても父親に『雑魚がッ!』は酷すぎる。
そんな視線で俺は幸せを感じない。
くそう、何をしても邪魔になってしまう。
娘の周囲に長くいると虎子の邪魔になり、遠くにいたら俺がこの戦場にいる意味がなくなってしまう。
正直、虎子が俺を頼るのは間違っていることなのだと思う。
だって俺弱いもん。
弱いからこそ、どうするべきだ。
「考えるよりまず動けと言うが、動いた瞬間に怪我以上、魂が放出されちまいそうだぜ」
クッ、俺は一人で戦うことが多かったからこっちの人数が多いときの戦い方がまったくわからない。
それも不利な要因の一つだし、圧倒的な力不足。
俺の育てた力の方向と、今いる力の方向が違う。真逆だ。
そう、俺がいるべき立ち位置は今虎子と戦っている娘の……その位置だ。
敵側が俺がいるべき場所とは皮肉なものだが、俺が今までどんな風に戦ってきたかを思い出せば納得がいく。
ヒシヒシと戦場の空気を俺の体が感じている。
だからこそ動きたい。けれども、動けない。何という矛盾。何という圧制。
無理矢理動けば良いのだろう。それが、その行動が間違えて万一にも仲間を失うことになったのなら。
ならば、俺は後悔するだろう。
「……守る力が欲しい。その力は虎子の中だけに……」
俺の中にはなく、虎子の中に――
「それは、違うな。俺はもう一人、知っているぞ? 青空」
「え、あ……」
影流と青空。
その二人がこういう風に言っているということは影流と青空のどちらでもないということだ。
そしてこの世界にいる人物。
この世界で知り合った人物。俺と別行動をしていたはずの二人が知っている、こちら側の秘密兵器といったところだろうか。
「俺は……動けてもお前を案内は出来ないだろう。ソイツの家に案内してやれ、青空」
「うん。海弟、こっちだよ」
「いや、出口の場所はわかるぞ」
青空に連れられ墓地の出口を目指す――が、何者かに転ばされ転倒する俺。
何だ、恥ずかしいぞオイ。
「っ、いつつ……。誰だ?」
青空に目配せしつつ、俺を転ばせた人物へ手を伸ばす。
「わたしだ」
「誰だッ!」
「竜子ちゃん!?」
「誰だッ!」
意味がわからん!
「竜子かッ!」
「影流ぅー! テメェもかオイ!」
ふざけんなよ!
知らないのは俺だけか! あと虎子。
「り、竜……」
「っ、言いよどむかそこッ! クソッ、知らないのは俺だけなの――」
……ん? よく見たら、どこかで会ったことがあるような……。
そうだ、神の内側、少年と戦った時に出会った少女だ。
キリッ、とした風貌に似合った服装の少女。
クールと表現すれば良いのか、青空や虎子とは違った可憐さがあるように思える。
ただ俺は今、コイツを一発殴ってやりたい。
「何でも良いが、何で転ばせたッ!」
「……どうせわたしの家に行くつもりなのだろう。だから、迎えに行かなくてもいい……そういった意味だ。虎子ッ!」
「竜子、ちゃん……あのっ」
「目の前の戦いに集中しろッ! お前の本気は、わたしの登場で揺らぐのかッ!」
虎子の目の前まで迫っていた装甲付きの拳をギリギリのところで虎子は避ける。
そう、今はアイツに神の相手を頼むしかないのだ。
そして……。
「お前が、虎子と強力すりゃあ神に匹敵する強さが生まれる……ってことで良いんだよな?」
「影流とも海弟とも、私とも違う力を……きっと竜子ちゃんは持ってるし、短い間だけど……虎子ちゃんだって。きっと、神様だって勝てると思うし……」
「何だかこんがらがる説明だな。きっぱり言え!」
断言できない野郎が近くに居るとこっちまで不安になってくるぞ。
「竜子ちゃんと虎子ちゃんは、強いよ! 海弟より、ある意味影流よりも。もちろん私より強い! だから、きっと勝ってくれる!」
「希望と現実は違う。だが妄想と想像は自己満足だッ!!」
「意味がわからないけど、妄想と想像に例えられた竜子ちゃんと虎子ちゃんが可愛そうだよ!!」
良い例えだと思ったんだがな。
竜子と呼ばれた少女の肉体。
虎子よりも鍛えられたもので、強者の放つオーラというべきか。そんなものさえ感じてしまう。
「……だが、お前。戦えるのか?」
「何を――」
「前回、覚えているだろう? お前はアイツ――」
倒れて気絶している神の内側を指差す。
「――が現れたときに虎子を守ろうとしなかった。わざわざ、虎子の意識がなくなってから現れた」
「……何が言いたい」
「いいや、俺が言いたいんじゃない。お前が言ってほしいんだろう? お前は虎子が苦手なんだ。償いと清算ってヤツか?」
「……わたしは、虎子を……」
「だから直接言ってるだろうッ! 虎子の意識が無いときに、虎子の助けをしていたって、ただの自己満足だッ!」
青空の方を向く。
自己満足で済ませるヤツもいれば、済ませないヤツもいる。
青空は、今の青空の瞳は。
試すように、笑みを青空へ向けてやる。
すると睨むような視線が返ってきた。
コイツはわかっているな。影流は試すまでもない。
「変わるとか、変えるなんて事はいつでも出来る。だが! 自己満足を自己満足じゃない、他のものには出来ないんだ!」
いきなりの登場だがすまないな。
言わせてもらうぞ。
「だから、決意しろ。そんな些細な気持ちを捨てろ。過去を捨てろ! 今どうするかだけを考えろッ!」
「……わたしは、虎子を……傷つけて――」
「知るかッ! もっと簡単に言わなきゃわかんないのか! お前は虎子の知り合い、友達なんだろう!? だったら過去のことなんて忘れて友達としてやるべきことをやれよ、って話だぞ、この野郎ッ!」
ハッ、とした表情になる竜子。
物分りの悪い奴だな。
きっと頭は良いんだろう。影流と知り合った奴等は全員美少女で頭が良いというオプション付きなのだ。
頭が良くたって、緊張してたら頭ってのは回らないよな。やっぱり。
「傷なんてものは気にしなきゃないのと同じだ。直らずとも、治らずともな」
「……出来ない人間もいるんだ。その、出来ない人間へ……やってはいけないことをわたしはしてしまった」
「そうか。うん、お前も言いたいことがあるんだろうがまず虎子を助けてこようか。俺や青空、影流には出来ないことがお前達には出来るッ!」
吐露したい気持ちがあるのなら、虎子へぶつけて来い。
きっと、イジメ関係なんだろう。あの三人と竜子に虎子。どんな関係かはわからない。
だが、面白いことになるのなら俺の目の前でにしろよ。
竜子の後姿。そういえば、神殿から出た直後。
神の外側に攻撃されそうになった時にふわりと体が浮いた。
それは、アイツがやったくれたのだろうか?
「海弟。私も、変わってみたい」
「パンチラの回数を増やせば結構変わってくると思う」
「海弟、五回目」
引き継がれてるのかコレ?
「まあ、私はそんな腕力ないし。何も出来ないけどさ……」
「本当に何も出来ていないか?」
「うん」
「じゃあそうなんだろ」
「……優しい一言がほしい」
俺もお前の笑みが欲しい。
「よし、交換だ。俺が優しい一言を言う。で、青空が笑う」
「……何それ?」
「いくぞ? と、影流。出来れば耳を塞いでいてくれ」
「……」
あ、もう塞いでるのか。
さすが秀才、天才、大喝采。
「お前は行動よりも先に考えるタイプだ。影流が行動しながら考え、その上天才なのならば俺は突っ込んでいき後から考えるタイプ。その場その場でしか能力を発揮できない奴ってことだ」
「……じゃあ、私は海弟に付いていけないのかな。私は海弟を"待つ"んじゃなくて。やっぱり、海弟の"傍"に居たい!」
純粋な願いなのだろう。瞳がキラキラしてやがるぜ。
はっは、叶えてやりたいが方法がわからないからな、残念ながら答えられない質問だ。
だが、きっと――
「――青空、お前はもうわかっていはずだろう? 今、お前は何処にいる?」
「私は、海弟の……傍、に居れてる?」
自分がいる位置、俺の隣にいることをやっと意識したのか数歩離れてしまう。
まあ良い。
「お前は俺の傍にいたいと思って行動したから俺の傍にいるんだろう? なら、それで何とかなるだろ」
「……もう、変わってたんだ」
えへへ、と可愛らしく笑う青空。
これは貴重だ。
「海弟、これって恋人同士みたいだよね!」
「はい」
「物凄く棒読みなんだけど!? しかも『はい』って強制させてるみたい……」
いや、青空に聞かれたらそう答えるしかないだろう。
例え強制だとしても。
「ま、目の前のことに集中しようぜ。影流や俺と違い、勇気を振り絞り健気に頑張る青空さん」
「六回目」
えっ?
あ、ちょ、腕力ないからって頬を抓る攻撃!?
痛い! 痛いからッ!
って、虎子! 竜子!
「チッ、青空ッ! イチャついてる場合じゃねぇッ!」
青空のつねつね攻撃から脱出し虎子と竜子の近くに駆け寄る。
安心しきっていた。
この二人が揃えば最強だと。
横たわる二人。
……ああ、そうだったんだよな。
「……内側と、一緒になったんだな」
「そ」
……これで神は完全体。
戦いは進展していたのだ。完全に見逃していた。
「さぁー。倒れた二人に戦力にならなぁい友人二人。パパはどうやぁって戦うのかなー?」
決意したと思ったら手っ取り早い退場ですね!
いやぁ、作者もビックリです。
竜が名前に入ってるからじゃあない、と前書きの突っ込みに反応してみたりします
が、この戦いが何とかなったら竜子さんもまた登場できますね!
はっは、死亡説とかもう流れてたりしませんよね……?