第468話『その笑顔があるから死ねる』by海弟
何だか最近海弟の外道成分が少なめ。
ちなみに昨日は寝てました。報告すらそういう時は出来ません。
今日更新できたら昼ごろにもう一話……。
ぽかーん、としている背後を尻目に強烈なタックルで扉をふっ飛ばしながら外へ出る。
魔法で閉められただけの扉は鍵すらも掛かっていなかったせいか簡単に壊すことが出来た。
「ふっ、アディオス」
「ま、待て待て待て待て。いや、これでも待てが足りないぐらいだ。海弟、戻って来い!」
「影流。男にゃ背中を向けちゃいけない場面ってのがあるのさ」
影流の方を向かずに俺は言う。
「そうだな。こっちを向け」
「いや、そうなると背中を――」
「こっちを――」
「わかった。お前とだとループが永遠に続きそうだ」
俺は男を曲げ、神殿の方を向く。
敵さんが目の前にいました。
「ッ、何だと!?」
「後ろぉを向くのは大切でーす」
間に合わないッ。
瞬間、ふわりと吹き飛ぶ体。
何事か判断できない中、数秒の滞空も終わり地面へと激突する。
硬い地面に背中を打ちぐるんぐるんと転がっていると何者かの足へと激突する。
「うぎゃー」
「うわっ」
横に倒れる何者か。
ちょ、倒れてくるぞ!
何とか回避しようにもぶつかった部分が頭なので冷静に考えることが出来ない。
えーと、どっちの回避すりゃあ良いんだ? えーと、何だろう……?
首根っこから上をもぎ取られそうな勢いで俺の頭に倒れこむ何者か。
ふざけんなよコンチクショウ! 死ぬぞ! 間違えなく死んだ!
何なら道端の草を賭けたって良い!
「……あれ、生きてる!?」
見える。見えるぞ。
道端の草だって見える。良いだろう。この道端の草をキサマにくれてやろう。
倒れこんできた何者か、に視線を送る。
虎子だった。
「……ふむ、今日も可愛らしいパンツゥ!?」
「三度目」
「あれとこれとは別だろう? 別物だろう!? 下着まで着替えているんだろう!?」
「四――」
脅しもいい加減にしてほしい。
視界に地面の土や砂しか映らない中思う。
土下座って本当に素敵な動きだよね!
何というか、誠心誠意って感じ?
はっは、クソったれ。
「……あたし海弟に甘いかも」
「調教でもするつもりか? 残念ながら飴と鞭なら飴しか受け取らないからな、俺」
「選択肢が鞭だけなら?」
「逃げる」
「カッコ悪い」
逃げるのがカッコ悪い?
違うぜ。俺は生命の危機を感じ取りやすい体質なんだ。今なった。
砂を払いつつ立ち上がる。
土下座しながらの会話はキツい。
「海弟ッ!」
「よし、外だ。敵も神殿の外ならば弱体化するからここで勝つぞ」
「俺は――」
「言わなくて良い。影流なら良い判断が出来る」
そう信じている。
きっと神殿の入り口を塞ぐように影流は立つことだろう。
神殿の外ならばコイツは自ら世界を拒絶したことにより弱体化する。
つまり、勝機が見えるのはここで戦っている間のみ!
「わぁかってませんねー。弱体化? 補い余るものがこっちにはあぁーるんですねー」
「ハッ、あったとしたらそいつごと倒してやるぜ」
「真っ向から戦うんだね……」
ゴクリと喉を鳴らす虎子。
そうだな。お前が戦うんだ。
「頑張れ、虎子」
視線を向けて力強く言ってやる。
コクリと頷く虎子。俺が出来るのはここまでだ。
数歩後ろに下がり虎子の影に隠れ――
「って待てーい! おかしい、何であたしの後ろなの!? 一緒に、戦ってくれるんだよね?」
「ああ、心の中にいつでも俺はいる。心置きなく戦え」
「っ、相手には秘密兵器があるみたいだし、あたし一人じゃ……」
「星ってのはな、輝くためにあるんだよ。その輝いた星は誰が見るんだ? 俺だよ」
「何納得させようとしてるの!?」
その後、連続して五パターンぐらい説得をしたが残念ながら虎子はわかってくれなかった。
残念。
「トドメだけもらおうと思ったのに」
「自分は逃げといて……って酷い」
そんなことはない。
説得というか説教シーンがあればそれなりに戦闘っぽくなるものだ。
前提はあくまで前提でしかない。
ぶつかってみりゃあわかることだ。
「行くぜ、娘」
「……ながぁい。もう来たし」
何のこと――
視線を娘の向けている方向へと向ける。
すると影流が何やら戦っていた。俺達と同い年ぐらいであろう相貌を持った少年。
衣装はこれまた神を象ったような……まあアイツも神の一種なのであろう。
「いつでもこぉれで、戻れるんだけどー。……遊んであげる」
「クハハハハハッ。良いだろう、俺も必殺技やるぜ」
特殊魔法『鏡』を発動。
目の前に三枚を展開。振り分けられた魔力、それらを炎へ変換。
「バーナァァァアアー!!」
「ま、魔法……。海弟、やっぱり――」
「虎子黙れ!」
今は目の前の戦いに集中することが大切だ。
これで倒せるとは思っていない、だから次の一手。
鏡に蓄えられた魔力が無くなると同時に鏡は消える。
炎も消え、そこに映される影を探す……見つけた。
「雷よッ!!」
有限の魔力を最大限に使い雷を放つ。
これで俺の魔力も尽きてきたが、それだけ高威力の魔法を連続で出しているのだ。
大半を治癒に使ったことは秘密だ!
「めぇんどーな」
ッ、避けた!?
しゃがむことで避けたらしい娘。
しかしそんな場所に安全地帯は作らな――
「特殊魔法『甲』」
一瞬にして距離を詰めてきた娘。
その娘の手に装甲が貼り付けられるように展開される。
硬そうだ。
……あ、硬い。
「ブハァッ!!」
「海弟ッ!」
テメェ虎子! お前助ける素振りすらなかったじゃ――って虎子! こっちを向いている場合じゃないッ!!
俺が虎子に恨みの視線を送っているとその視野の中で娘が虎子に向かい攻撃モーションを始めていた。
クッ、避けるのは間に合いそうも――
「他人は無理だけど、自分ならッ!」
装甲が貼り付けられた手の甲から手首、関節により生み出された強力な一撃を片手で受け止める虎子。
お前ふざけんなよ。
「へー、はぁー」
手の装甲が剥がれ、次の瞬間脚が虎子の頬を穿つかのように動く。
残像を残した一撃を今度は関節から手首の間で受け止める虎子。悲痛に顔が歪むがそれ以上はない。
……こりゃあ、単純な武術での戦いになりそうだ。
相手に魔法を撃とうとすべて装甲で防がれてしまう。となると近距離でも遠距離でも良いが確実に当てられる一撃を探さなくてはいけない。
それか装甲を破りダメージを与えられるような攻撃。
残念ながら今の俺にはどちらともない。
目で追うのが限界のこの戦いの中で俺が魔法を乱射したところで味方に当たる可能性だってあるのだ。
「……クッ、そうすれ……影流の方なら手伝えるな」
アレなら簡単だ。
俺でも手伝える。やっぱり発想が大事なんだよ。発想が。
影流の方を向く。
「あるぇ!? 終わってる!?」
「……もう今日は体を動かしたくないな。一年分の体力を消費した気分だ。寿命だって縮まってるぞ、たぶん」
へたり込む影流に心配そうな表情の青空。
クッ、これはもう俺もやるだけやってボロボロのところで青空のあの表情をもらうしかないだろう!
「虎子。へい、こっちに攻撃よろしく!」
「馬鹿ッ! 変態ッ!」
……言葉じゃない。
攻撃だ。物理的な。
チッ、しょうがない。巻き込まれてくるぜ。ひゃっはー。
合計三千文字以下なのに内容ギッシリですね。
内側の神様を影流は楽々倒しちゃってますし。アイツに成長という言葉は無い。
ちなみに不可能という言葉すらない。
海弟の辞書ならば数千パターンぐらいで実用例多数あるんだろうけども。
にしても逃げまくりだなぁ、今回海弟は。
うーん、作者としても意識していないところだから海弟は何かやらかしてくれるのだろうか。
何もせずただ逃げるのならば作者がトドメを刺そう。