第467話『攻守を捨てた良い戦法』by海弟
感想である方(伏せる意味はあまり無い)から元気をもらっている、と言われました。
もちろん海弟の無茶や無謀にです。
……何が言いたいかと言うと『"意外にも"という部分は霞んでて見えないぜ』というお話です。
俺が叫ぶのと同時に後ろの扉が閉まる。
気配はなかった、この近距離だ……何者かがいたのならば気配を感じたはず。
ならば優先的に考えられるのは魔法。
「クックック、こんなところで魔力を消費していて良いのかな?」
「この神殿のそぉとで、いきなり全力で回復し始める人に言われる筋合いはありませーん」
……確かに。
何という精神攻撃。だがしかし。
わかっていないな神様よ。
「テメェを倒すのにはちょうど良いハンデだ」
「出来るんでぇすかねー。無理だぁと思いますよ」
「不可能という文字の不を取ってみろ。可能じゃないか」
「無理から何処を取ったら可能になりますかぁ?」
……アレだよ。
それは付け加えるんだ!
例えば"超"をつけたりしてみよう。
『超無理』
うわっ、何コレ。
無理な感じが十倍増しになったぞ。
「海弟ッ!」
俺が論破されて身じろいていると青空と影流が近寄ってくる。
オイオイ、何か気品に溢れる服装じゃないか。優遇されすぎだぞ! 俺は柔道着なのに。
「お久しぶり」
「そこに『お』が付くかな、普通!」
親愛なる友人様に『お』をつけないなんて常識的に考えたら面白くないじゃないか。
もちろん突っ込み待ちだぜ。
「影流も久しぶりだな」
「ああ、だが……ここで再会するとはな」
何か不味い状況なのだろうか?
良いだろう。雰囲気とは漂うものであり漂うといえば雰囲気である。
つまり雰囲気に雰囲気をぶつければ良いのさ!
「よし、今から青春ストーリーだ。シリアスをぶっ飛ばせ!」
「意味がわから――」
「俺は死体役な!」
「私は……家政婦?」
「ドロドロすぎるぞそれは!」
何だ。愛と正義とあと九十九パーセントぐらいの昼ドラが混ざり生まれた悲劇を演じようぜ影流。
ちなみに俺は死体役な。魔王役は辞任します。
「……もうちょっと目の前のことに集中したほうが良いとあたしは――」
「お前はペット役で。ちょうど良い、猫だ」
「虎だから!」
わいわい騒いでいると雰囲気が良くなっていくような気がする。
ああ、素晴らしい作戦だよ、俺の――
瞬間、俺達の隣に一筋の雷が流れるように発射される。
発射元は……当然神。
「すみまぁせん。部外者とじゃなく、セリーと話してくれませぇんかねー」
雰囲気は変わろうと力の差は変わらない。
ふっ、一つ勉強になったぜ。ありがとう。
「それじゃあ課外授業も終わったところで帰ろうか。今日は虎子の家ですき焼きだー」
「材料買わないといけないよ。その格好で行くの? あたしは隣歩きたくないけど」
あれ、何で俺からみんな離れるんだ。
確かに俺は柔道着を着ている! だが柔術家じゃないんだ!
それだけは信じてほしい。
「かぁえる? どうやってー?」
「そりゃあ穴を掘って」
「えっ?」
きょとんとする神様。
「間違えた。隙を衝いて」
「海弟、全然違う」
青空、わかってるから言い直したんだ。
「まあ、そういうことで帰る。すき焼きだし」
「かぁえしませんよー」
少女の姿は消え、同時に俺達の後ろから火球が連続して飛んでくる。
クッ、転移魔法か!?
咄嗟に身を伏せてすべて避けると視線を神へと向ける。
「反抗期か?」
「すべぇて、わかっていそうですねー。その様子だと」
ああ、当然だ。
「お前はこの世界に似合った神だ」
「褒めらぁれたー」
「けど、"お前"が世界を拒絶し反発した」
「……あーら」
するとどうなるか?
当然、反発が起きたのなら――神は内側と外側に分かれる。
コイツは意図的にそれを起こしたのだ。
「お前は外側に俺達を襲わせている。外で会ったアイツだ」
「わぁかってますねー。神と世界の関係は何処で覚えましたかー?」
「目の前で起こったことしか俺は基本覚えない」
「こぉの世界に呼ぶ前に違う世界に行ってましたかー。誤算、ですかね」
ふっ、ヒカリと、その愛した者に感謝だな。
アイツ等が、俺の行く道の光になってくれた。
ここで問題を解決するための鍵を用意してくれた。
一つの異世界での体験という大きな鍵を。
アイツらもここまで見透かしていたわけではないだろう。
だが、確かに役に立っているぜ。
「……神? ……違う世界? 海弟、あたしに隠してること、やっぱり――」
「虎子」
まだ倒れたままの虎子の言葉を止めるように手振る。
「少し……うるさい」
あれ、何で俺睨まれてるの?
「たぁだ、見極められればいいんでーす。どうでしょう、一度ムスメの成長を確認するーってのは?」
「イヤです☆」
「でぇは、こっちからー」
無視かい!
いや、俺も悪かったけれども。
飛んできた火球を風で打ち落とし散った炎の隙間から見える神の動きを観察する。
……火球はダミーだろうから狙いはもっと的確な場所。そして鋭い攻撃。
ならばやることは簡単だ。
股間を強――
「グァァァァッ!!」
胸を強打するように放たれた岩石を避けられずに吹っ飛ばされる。
クッ、股間じゃなく心臓だと!?
「海弟ッ!」
「影流、お前は青空を頼むッ! 虎子行くぞ!」
体を強化し、立ち上がる。
後方にある俺を攻撃した岩はもう攻撃手段にはならないというのに残っている。
つまり何かある!
「だが知ったことかッ! 罠が複数あろうと敵は一人ッ!」
虎子が若干俺よりも速く神へと突っ込んでいく。
それを――片手ではじき飛ばす。
「なっ」
表現は間違っていない。
片手で頬を叩いた。それだけで虎子は神殿の壁、端の方まで吹っ飛ばされたのだ。
スピードも乗ってしまっているし俺はもう止まれない。
中途半端な速さで突っ込むよりも良いだろうと思い切り重心を前にやり突っ込む。
「剣がなぁいと話になりませーん」
視界が二転三転、そして衝撃ッ!
頬がズキズキと痛む中、意識はある。
感じられる。
さっきの攻撃。
なるほどなァ!!
「基本的な肉体強化。出来た上での――」
「魔道でぇすねー。武と魔を組み合わせるのではなく、攻と防を一体化させる。こぉれが基本ー」
厄介な。
魔道を独自に発展させた形。
攻撃に重点を置いた魔道ではなく、バランスを取った戦法。
……本当に、そのバランスは均衡になっているかな。
「クハハハハハッ! 攻撃も防御も捨てた戦法を見せてやる」
「……かい、で……。無茶したら、ダメ……」
かすかに聞こえてくる虎子の声。
オイオイ、何を言うんだお前は。
何を考えているのか知らないが――
――攻撃も防御も捨てるといったらやるのはアレだろう。
「逃走ッ!!」
一直線に扉を目指す。
スピードを乗せたタックルでなら魔法で扉が強化されていようと突破できるッ!
それでこそ海弟、と思われた方が数人いたのならば笑って斬り捨ててやろう!
何十人かいたのならそれで良いのです。
とりあえず今回は何故かスムーズに書けましたねぇ。
ネタ切れ中だったんですがアレに影響されたのかな。まあ良い。