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第464話『戻るのならば戻れば良いさッ!!』by海弟

あっさり地味に全力投球。

一撃一撃が重くなってきている。

だが、コレが虎子の本気だとは思えない。もっと、もっと……あの時の一撃はすごかった。


「華やかな舞台も、煌びやかな衣装も、絶賛の嵐も、戦うヤツにはいらないッ! 求めるのは己の強さだけだ! 気の迷いだって必要ない!」


何度も、何度でも言おう。

お前はもっとすごい奴だ。


「……これ以上は……死んじゃう、から……」

「迷うなッ! 今、決意するのなら、それはお前の自信になる! 燃やせる根性燃やしきれッ!」


血で濡れた木製の床に足をつき、虎子に向かい急所を差し出す。

戸惑いの表情から揺るがない虎子。


「強さが強さを呼ぶのなら、俺に魅せろよその力!」

「で、でも……」

「来ないならこっちから行くッ!」


構えを取ると片方の足を後ろに引き右の拳を虎子の頬へと向かい突き出す。

瞬間、俺の視界が揺れる。


俺の頬へのカウンターパンチ……虎子の肩から伸びる腕を確認しステップで後ろに下がる。


舌を噛んでしまったせいか血が口の中に溜まっている。

それを飲み込むと限界を超えている体で前へと前進する。そのスピードは今出せる限界のもの……。


「見切れてるはずだろうッ!」

「……ッ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


虎子の瞳が光る――


なんッ!?


天井が見える。

転ばされたのだろうか……。


思考がスローのなか、冷静に考えているとその思考を中断させる痛みが背中から体中に響く。


虎子の蹴り、意識が飛びそうになる中、俺の意識を繋ぎとめているのは一つ。


強さを取り戻したい、その思いだけ。


「うおぉぉぉぉぉぉッ!!」


空中にある自分の体を無理矢理反転させると地面へ衝突する寸前に両腕を前へと突き出す。


体を支えるにはやや不十分だが……それは常識に従った時の話だ。

常識外、予想外さえ一つあれば――


「どんな状況だって(くつがえ)せるッ!!」


自らの魔力を両腕へと注ぎ強化――出来ているかはわからない、が!


両腕で床を掴むとその腕の力だけで自らの体を遠くへ飛ばす。

うまく着地できず滑り壁へぶつかったが、感覚など既に麻痺している。


「ふっ、さすが俺だ。地味ながらもきたぜ」


治癒魔法を自身にかけると同時に立ち上がる。


「ひ、ひか……っ、て?」

「クハハハハハハハッ!! 虎子! 俺はお前に誘発された! これからも、絶対強いままでいろよ!」


久々の感覚だ。

魔力を消費するという感覚、魔法を使うという感覚。


似ているようで違う二つの感覚。

そして、頭の中に流れ込んでくる力。


魔法を使うために必要な記憶。


「今のお前は本気だった、忘れちゃいけないぞ」

「……あたしは、本気で……。た、ただ反射的に!」

「知るかッ! 反射的? 意識があっても使えるようになれば問題ないッ!」

「そんなことしたって……無駄だよ。普通に暮らしてて使う強さじゃ、力じゃないし」

「そうか? なら心ぐらい強くしとけよ。自分のことぐらい自分で決めれる強さは持ってたほうが良い」


強さが強さを呼ぶのは、その強さが人を引き付ける強さだからだ。

ただの暴力じゃあ……考えなしに使う力じゃあ俺の力は戻らなかった。いや、戻ってきたところで俺は自分の力を拒否するだろうな。


ただ普通に、殴られただけで戻ってくるような力が俺の強さじゃないことは良く知っている。


「さーて、行くぞ」

「……だね、お爺ちゃんのところに――」

「あのいきなり襲い掛かってきた馬鹿のところに」

「あたしは、行かないよ」


うん? 雑音のせいで虎子が何言ってるか聞こえないな。

ったく、何だこの音は。


武道場の外に出る。

太陽の光が俺を照らし、治癒の光と合わさりいっそう眩しいのだが俺は気にしない。


もっと気になるものが目の前にあるのだから。


「手間が省けたな。よかったよかった」

「……あたしは、行かなくて。でも来ちゃって……うぅ」


行くぞ、虎子!





洋風の簡素な部屋。

その部屋にあるベッドで俺は横たわっている。


「……竜子との組み手はキツいな。一発が重いし何よりも速い。極められた一撃だ」


その一撃が何度も襲って来るのだから手足が痺れてしまっている。

一度座ったりしたら数時間立てないだろう、というレベルだ。もう横たわってしまったし回復を待つしかない。


俺は目蓋を閉じると海弟ともしも戦ったらどうなるか、を想像してみる。


二人の強さはまったく別次元のものだ。

(きょう)(じゃく)で示せるものではなく、(わざ)(ちから)でもない。


海弟の動きは戦いの中で育っていったもの。竜子の動きは何千、何万もの修練の中で体に染み付いたもの。

どちらが強いかと言えば後者だ。


まず武術というのは完成させられた型が存在する。

それを回避し打ち込むのが実践なのだとしたら海弟はそこ止まり。竜子は反撃されるのを予想し次の技を組み合わせることだって出来るのだ。


脳への負担を考えたのなら集中力が長く持つのは竜子。

しかし、魔力と魔法を備えた海弟ならばどうだろう。


まず竜子が近づくことが出来るか、だ。


炎に水、雷が竜子を阻む……が、海弟のことだ。(ひる)んだところに剣での一撃を浴びせに掛かるだろう。

ならば竜子……いや、海弟はそれ以上の動きをするだろう。避けるのが難しい横へ凪ぐ攻撃を軸に、そして打ち込みの限界が近づくとともに魔法との連携が取れていき……。


海弟を高く評価しすぎな気持ちもあるが、奴なら相手の動きに合わせた戦術などということは考えない。

竜子が勝つには初っ端から突っ込んでいかなければならないだろう。


まあ、海弟なら何とか……何とか、か。


「うーん、期待してるのか。そうなんだろうなぁ」


俺にとっても、青空にとっても、海弟は失ってはいけない存在になっている。

一度失ったのならば代わりとなる人物は現れない。


そう思わせてしまう。いや、実際にそうだ。

まず、自ら狂ってしまったことを認め、屈してしまう人間など少ないだろう。


そこから発展させるのは難しくないのだとか言っていたのだが、その狂いに足元を取られずにいられる海弟は『おかしい』と呼ぶのに相応しい。

強さを失った今、アイツにとっての準備期間となるだろう時間。


……何で俺は一緒にいないんだろう。


「……そうだ。竜子。アイツが、止めたから?」


俺が一度外に出たのなら彼女の父親が全力で家に入るのを阻止する事になるだろう。

次はもっと豪華な防犯トラップが仕掛けられているに違いない。


俺は竜子の彼氏じゃないというのに。


少し考え込んでいると部屋の扉がノックされる。

動けないので返事だけすると扉が開かれる。


「あ、影流起きてたんだ」


青空が入ってくる。


ふむ、なるほど。

その手があったか。


「青空、頼みたいことがある」

「私も」


……俺に頼みたいこと?


「せーの、で言おう!」

「まあ、良いが……」


その必要があるのか?


「じゃあ、せーの」

「「海弟を探してきて欲しい」」


……俺の口調まで真似された。


「竜子ちゃんが止めるけど、やっぱり海弟には会いたいかな……って」

「俺は……」

「私からも言うから! きっと大丈夫だよ、帰ってくる時は海弟も一緒だしね!」


……ああ、それを思うと何だか大丈夫なような気がしてきた。

ターゲットが海弟へ変わる、という意味で。


「影流、行こう!」

「ま、待て。手足が痺れて――」


いる、んだが……?


待ってくれ青空!


やっぱり殴り合いでしょう!


はい、海弟が黙ってませんでしたね。

風邪も吹っ飛んでおります。


さて、影流と青空も動き始めたのでそろそろ散らかったのを片付けれたらなぁ、と思ってます。

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