第463話座布団と殴られるだけ
ちょっとネタ切れ気味。
目の前で柔道着を着て構えている虎子。
ここは別館……だと思われていた武道場。
環境がいいのか、かなり小さな音でも響いてしまう。
ただ、今の俺たちには関係ないのだろう。
「虎子、まだ甘い。手加減なしで来いッ!」
「……うん」
虎子が動く……それは俺に見えない動き。
鈍い音が響き俺の体が壁近くまで吹っ飛ばされる。
腹の底から喉の辺りまで逆流してきた何かを飲み込みうめき声とともに立ち上がる。
下腹の辺りが痛むがまだ立てる。
「三発目ェ! 爺さんの言ってた力とやらはまだ誘発されないぜ。来い!」
「今ので骨折れてるよ! これ以上は……」
「知るかッ! いや、俺が一番知っている! 俺の体はまだ壊れんッ!」
ったく、『俺を殴る』なんて普通じゃ出来ないんだぞ?
手っ取り早くやれよ。
まあ、何でこんな状況になったのかは俺でも説明できないんだが……。
☆
俺が通されたのは虎子達が向かった場所とは別の部屋。
座布団一枚が敷かれた和室だ。
そこに座らせるとここまで連れてきた女性は「少しの間待っていてくださいね」と言うと何処かへ消えてしまった。
しょうがないので座布団の正しい使い方その一である枕として使い、畳の床に寝転がる。
「……うう、頭痛い」
動きすぎた。
頭からだけじゃなく、体中から熱出している気分だ。
肌寒いんだが何だかぽかぽかしている。
こうなったら座布団の正しい使い方その二である自分の足の下に敷いて座る。
一と二が逆なような気もするが俺の心の中を突っ込むような奴はいないので安心。
「……にしても、俺を放置して何をしているんだろうな」
連れてきたわりに何もやらされない、って何かあるよな。
面倒だが、探ってみるか。
立ち上がると廊下へと顔を出す。
うん、誰もいない。
そそくさと外に出ると来た道を戻る。
十字路まで戻ると立ち止まる。
「うーん、俺の後ろにある道は俺がいた部屋がある道だ」
そして左側の道は玄関に繋がる道。
真っ直ぐか右の道のどちらかだ。
木の棒でも倒して道を決めてやりたいところだが……ふっ、ここは俺の勘に任せろ。
「真っ直ぐだ」
右に体を向けるのも面倒だ、とかじゃない。
そこまで俺はめんどくさがりやじゃない。
……もう歩くのも面倒なのは認める。
真っ直ぐ歩いていると前方から誰かが歩いてくるのが見える。
何処かに隠れようにもわき道はなく、しょうがないので人の気配がない部屋の扉を開き中へ入る。
足音が過ぎるのを待ち――
いや、待つ必要はなさそうだ。
「虎子はっけーん」
……あれ、何? 何この雰囲気。
俺なんかヤバイことしちゃった?
虎子の横に座る男性と女性。虎子と対峙するように座る爺さん。
何やら重要な話をしていたように思える。
「……お邪魔しましたー」
「待て」
「したー」
さーて、廊下へかえーろ、部屋にかえろー。
グッ、足が……。
「待て、と言っている」
「ああ、ごめんごめん。本当は聞こえてたけど、聞こえなかった」
「本音を先に言うとは関心するが、そこまでするなら素直に従え。ほら、そこへ座れ」
「ゴホゴホ、風邪なんだよね。実は」
「寝ててもいいから」
……ふっ、いいだろう。
男性の隣へ寝転がる。
「それで何の話だ、爺さん。寝るぞ」
「寝るな。聞いたぞ、この子の蹴りを耐えたそうじゃないか」
「甘く見るなよ。俺は腹を剣で刺されても生きていられるレベルへ達しているんだ」
「お前に言っておきたいことがある!」
いきなりだなオイ!
「大きな力はまた相反する力を生み出す。不用意に大きな、強い力を使ってしまえば強者を自らの近くへ集めてしまうのじゃ」
「じゃ!」
「うるさいっ!」
……ごめんなさい。
「虎子は強い。我々の一族の中でも突飛した強さじゃろう」
「そうじゃろう?」
「……」
はい、以後気をつけます。
「というか爺さん。突飛した強さって何だよ。誰よりも強い……って意味じゃあ使わないよな」
「……唯一獣の血の混じった子なのじゃ」
……うん、意味わかんない。
「獣の血? あれかい、それは――」
……ん?
あれ、おかしいな。
虎子のほうに視線を向けたのだが当然ながら男性に遮られてしまう。
その男性。虎耳と虎の尻尾が生えている。
「……なるほど、なるほどな。ふっふっふ、遺伝か」
「そう、遺伝」
「変態は遺伝するのか」
「お前はどこを見ておる」
「耳と尻尾だ!」
「馬鹿者ッ!」
すみません!
「まあ、話せば長くなる。獣人と人間の子なのじゃ。虎子は」
「……ほうほう」
「だからこそ持った突飛した強さ」
……ぬぅ、なるほどなぁ。
心は弱いみたいだがな! これはもう座布団一枚もらって良いレベルの洒落だ。
爺さん、座布団を出せ。
「お前さんは強さとは見せびらかすためにある、そう思うか?」
「いいや、暴力を振るうために――いや、見せびらかすためにあるとは思わないな」
「本音が半分ほど聞こえたのじゃが」
「気のせいだ」
危ない危ない。
「そう、見せびらかすために力はない。ワシらはこの子に暴力を振るうことを禁じた」
そりゃあ、あの蹴りを食らったら普通の奴なら死ぬかもなぁ。
「けれど、お前は虎子の攻撃を見事防いだそうじゃないか」
「ふっふっふ、聞いてしまったか! 俺の強さを!」
「その後気絶したそうだが」
そこまで聞いてしまったのか!
この馬鹿野郎め!
「お前も強いのだろう? ならば――」
「何の依頼をしようとしているのかは知らないが、俺は雑魚だぜ! 雑魚!」
あれ、自分で言ってて悲しくなってきた。
ごろりと後ろを向き涙していると気の抜けるような声が背後から聞こえてくる。
「……何じゃそれは」
……仕方が無い。説明してやろう。
「良いか? 俺は今力を失っている。つまり俺は中途半端な耐久度の……?」
ん? 待てよ。
爺さんは言っていた。大きな力を使う者の近くに強者は、強さは集まると!
「爺さん! 良いこと思いついたぜ!」
「説明の途中で言葉を止めるな!」
「それもそうか。俺は異世界から来たッ! そして、俺はこの世界に来た! だが! 俺は強さをこの世界に来たことで失った。魔法を、剣を……だが、爺さん! 俺は閃いた!」
「説明かそれは? 話についていけんぞ」
ええい、まどろっこしい。
ついに立ち上がり叫ぶ。
「虎子! 強い力を前に生存本能は活性化されるのだよ……。つまり、爺さんの言った通だ!」
頭にハテナを浮かべている虎子に単純なミッションをやろう。
「俺にお前の全力をぶつけろ! 俺の力を呼び戻すためにな!」
強さは強さを引き付ける!
お前の強さで俺の強さを釣り上げろッ!!
「爺さん、話はまた後だ!」
「お、おおう……」
☆
……うーん、我ながら無茶苦茶だな。
だが、虎子なら……何とかなる!
変化は一度で良い。お前の本気の一撃で良いんだ!
純粋なファンタジーに戻りたいぜベイビー、って声が脳内に響いております。
そして前の後書きで使った言葉使っちゃいました。
まあ海弟のクオリティなのでオーケーです。
あー、新しい魔法出したいなぁ。早く取り戻してくれないかなぁ。