第462話『忙しいのに巻き込まれたな』by海弟
……クッ、何だか無理矢理な展開になってしまった。
「ひぃ、ひぃ……」
「ふぅ、ふぅ……」
……クッ、何だコレ。
何で爺さんと間近で息を掛け合わなきゃいけないんだ。
気持ち悪いぞコラ。
マンションの一部屋。虎子の家のリビングで言い争いをする俺と爺さん。
それも続き昼ごろだろうか。
この家の電話が鳴り響く。
「……電話だ、爺さん」
「お前が出ろ」
……しょうがない。
爺さんに背を向けて受話器を取る。
「もしもし?」
『……海弟?』
「おう」
『……お爺ちゃんじゃないのか。よかった』
何がよかったのかは知らないが……お前の爺さんを名乗る者なら俺の後ろにいるぞ。
って、俺のお菓子を食うなッ!!
受話器を爺さんに向かい投げる。
それが見事に頭部へと直撃。のけぞる爺さん。
「グッ、何をする!」
「テメェの孫から電話だ、馬鹿野郎ッ!」
一瞬驚いたような表情をし、後ろに飛んだ受話器を拾う爺さん。
「あー、もしもし?」
しかめっ面へと表情が変わり、俺に向かい受話器を差し出す。
「アイツ何の反応もせんぞ」
「知るかッ!」
受話器を掠め取り俺の耳に当てる。
「というわけだ。よくわからなんが家庭の事情で帰ってこい」
俺一人じゃ相手していられないぞ。
『……うん、帰る。それまで相手頼んだからね?』
「はっはっは、任せ――ゴホッゲホッ!? そ、そういや風邪だったんだ俺。早く帰ってこいよー」
通話を終え受話器を元あった場所に戻す。
あれ、何か無かったはずの傷があるんだけど……。何でだろう。
……まあいいや。
喉痛いし水でも飲もう。
「爺さん、孫が来るまで大人しくしてろよ? 俺に面倒を――」
「年寄り扱いするなッ!」
「ああー、そうかい。んじゃ外でも走り回ってろ」
静かに出来ないならこの場にいるな。
面白いのは好きだが風邪を治すのが先決だ。
無理も無茶もしてやるがテメェの望みはテメェでやれよ。
水道水を口へ含みうがいをしていると、遠くで扉の開く音が聞こえてくる。
「んくっ!? はやすぎだろ!?」
水飲んじゃったし!
ま、まあいい。
喉が爽快になれば良いのさ。
……っていうか、アレだなぁ。
忙しいなぁ。そのくせ面白くないなぁ。
ダルさと眠さに挟まれつつ玄関まで移動する。
やはりというか制服姿の虎子さん。
「お前、どうやって帰ってきたんだ」
「車」
「車ァ!?」
いつつ。頭が痛い。
あまり大きな声を出させるな。
蹲りつつ虎子を睨む。
「お爺ちゃんはリビングかな? って、この音は……。テレビつけっぱなし?」
「何でもいいが、急いでそうだな、お前」
「……海弟も来るんだよ。ちょっと長い用事になりそうだから、さ」
その用事って何だよ、と聞く前に虎子はリビングへと行ってしまう。
取り残された俺は……まあ、外にいれば良いのだろう。
靴を履き部屋の外へ出ると壁に寄りかかる。
「……風邪、最悪」
用事って何だよ。いきなり学校早退していきなり電話してきていきなり出掛けるって――
「――ちょっと面白いな。なァ!!」
「行くよー」
「行くぞー」
……そこの少女と老人。待ってろと言われて待ってた人を置いていくのか!?
「……ふっ、良いだろう。俺の本気を見せてやろう! 秘儀! エレ――」
―-ベーター?
あれ、おかしいな。
まだ俺乗り込んでないよ?
何で二人(虎子と爺さん)しか乗ってないのに扉閉まっちゃってるの?
……とんでもないなお前等ッ!!
しょうがない、階段を使うか。
何ていうか最近誰かが俺を陥れようとしている気がしてならない。
熱のある体で一階まで走ると、虎子の姿を確認する。
ゾンビも驚いて走り抜いちゃうスピードで虎子に近づく俺をもどかしそうな表情で待つ虎子。
お前等が原因だ。特に虎子。お前が。
「こんのイジメられっ子が! ふざけんなよ!」
何とかたどり着き叫ぶ。
顔を真っ赤にする虎子だったが、それどころじゃないと言った風で俺を車の中に押し込む。
そして自分も俺の隣に座ると運転席の女性に合図を送る。
……何だ、コレ。
☆
車の中での記憶がないと言えばそうなのだが、降りた場所は覚えている。
和風の旅館をイメージさせるような概観。中へ入ると砂利の敷き詰められた大きな庭。
別館と本館に分かれているのか、大きな家と小さな家がある。
そして俺たちは大きな家のほうへ……って待て!
何がどうなっている!
どうして俺はここに来た!?
「俺の知らないところで話が進んでいるッ! ええい、風邪で休んでいる場合じゃなかったということか!」
一気に喋りすぎたせいか咳が出る。
俺の心配そうに見る虎子だが俺はお前への復讐心でいっぱいだ。
そんな目で見るんじゃない。
「まあ良い。俺のことは気にするな。お前忙しそうだし」
「ごめん……」
本当に申し訳なさそうな顔をするから許してしまいたくなるな。
よし、許す。
「虎子、難しい問題ってのは二種類ある。一つは自分の強さが足りていないから解決できない問題。もう一つは簡単な問題の集まりで複雑化している問題だ」
「……何それ?」
「知らないことは解決できないし、知っていることでもそれを連続してやるのは面倒だ、ってことだよ」
だから一度きりで良い。
一度の挑戦でたくさんの経験を得られたのなら、それは勝利だ。
「俺らしくもないアドバイスだが、乗り越えられる壁はきっと薄いぜ」
「……変な海弟」
「いつものことだ」
さて、今後の展開は読めないぜ。
海弟の語り。
ふっ、海弟がおかしい時は作者が無理矢理何かしようとしている時。
変化は一度で良い。それが海弟のクオリティ。
さて、書きたいこと書いたので次話投稿だ、ドーン。