第459話待ち時間とゲームの始まり
久々に、眠いぜ。
いや、眠いと書いたのが久しぶりだぜ。たぶん。
生きている中で、人間が気を張っているのは何時間ぐらいだろうか。
単位はわからないがそうとうな時間だと思う。俺を除いて。
「俺が緊張したのなんていつ以来なんだ?」
これを緊張と呼べるかは別として、妙にそわそわする。
あるいは誰かに見られているような――
チラリ
こちらに突き刺さるような視線を向けるおばさんと目があった。
「……っ!?」
ふっ、叫び声をあげるような俺じゃあない。
当然、ここでの選択肢は一つ。
無視。
扉の前で正座し、もう一度前を向く。
下がコンクリートのせいか足が痛いが今は我慢ってことで。
横から聞こえる電子機器(携帯電話)に触れるような……三桁?
「……もしもし、警察――」
「何度目だこのくだりはァァァァッ!!」
警察? はっは、知ったこっちゃねぇぜ。
善良なる一般市民こと海弟さんは天国《警視庁》からやってくる天使《警官》たちを応援しています!
嘘じゃない! でもホントでもない!
溜息を吐き座りなおす。正座は面倒なので胡坐を掻いて座ることにする。
もう痛いし。
さっきのおばさんも何処かへ行ったのか姿は見えない。
もう一度溜息が出る。
この世界に来てから、明らかに俺は強さを失った。
弱くなったのではなく失った。
俺自身は強いままでいるが、その強さが発揮できないでいる。
たぶん、こんな状況なんだと思う。
俺の中から魔法が消え、俺の中から強さが消えた。
認め合う中の特殊魔法でさえ発動しない。
この世界はまるでゴキを捕まえるために開発されたようなホイホイ型なのだ!
つまり海弟ホイホイ!
……いや、餌のにおいを嗅いでここまで来たわけじゃあないな。
この世界特有のお菓子とかあったりするんだろうか。
まあ良い。
もう疲れたし、気力のある時にお菓子の話題はしたいものだ。
後ろの扉にもたれ掛かり、手すりとなっている部分から上、空の風景を眺める。
雨雲が空を占拠しており、今なお雨は降り続いている。
俺の気持ちは快晴だ。砂漠だ。
「少しだけ雨雲分けてくれませんかねぇ」
ピシャァァァッ、と雷が落ち俺を拒絶する。
これからは自然に害のある行動ばかりすることにしよう。
まずは山を消し飛ばしてやろう、とまで考えたところで近くに設置されているエレベーターの音が聞こえてくる。
ふっ、やっと帰ってきたか。
この階で止まり、中から人影が……二つ? 現れる。
一つはさっきのおばさん。このマンションに住んでいるのだろう。こちらは問題ない。
いや、何で戻ってきたと突っ込みたいが問題ない。
その隣。
雨に濡れた警察官って何ですか? 新しいバージョンがでたんですか?
雨宿り警部ですか?
ええい、疑問だけじゃあ何の解決にもならない。
ここは武力行使でいこう。
「お前の命はここで尽きるッ!!」
「何この子!? あぶなっ!」
寸前で回避する警官。
チッ、俺の首絞めアッパーを避けるとは……なかなかやるな。
顔を確認しようと後ろを向く……って。
「何だ、朝の警官か。ボッコボコで入院中なんじゃなかったのか?」
「何でタメ口使われてんだオレ? ……ゴホンッ!」
「あの時はよくも土下座させてくれたな!」
「自分からやったんだろ!? ペースが乱れるなぁ、もう!」
おばさんにわき腹を突かれバランスを崩す警官。
もう一度咳をし、俺のほうを向く。
何だかマジメそうだ。
「……君、家出中だったよね? 住所は? 連れて行って――」
「ここだッ!!」
「え、そうなの?」
おばさんの方を向く警官。
しかし、何の確信もなく首を振るおばさん。
「この部屋の子、男の子連れ込むような女の子じゃないから絶対違う」
「だ、そうだが?」
「ふっ、弟だッ!」
「同じ学校の制服着ていただろう。色も同じ、同じ学年――」
「転入生ッ!」
「この時期か?」
「実は今まで病で病院に――」
「もう良い! わかったから、話は署で聞こう」
何でだよ!
いや、理由は俺にありまくりなんだが、初警察署体験なんてしたくない。
兎に角、この状況を脱するにはまず警官とおばさんの記憶を飛ばすことが先決だ。
それが解決の糸口になる。
やれやれ、といった風に近づいてくる警官を避け、勢いをつけるために少し距離を開けると振り返り警官へ向かい再度首絞めアッパー。
「またかッ!?」
ギリギリのところで回避され、再び――って今度は勢いがァ!?
おばさん! どけ! って、ホントにどいたら壁が――
瞬間、その壁が開く。
……え?
「……あ」
効果音をつけるとしたならば『ドンガラガッシャーン』の王道だろう。
いや、実際俺の脳内にそんな感じの音が響いていた。
周囲を見ると、エレベーターの中のように思える。
そして俺の下にいる生物。
俺の顔をくすぐるように動く尻尾を捕まえ、それの頭を掴む。
「ナイスタイミング、虎子」
「……何でここにいるの?」
☆
ということが今までマンションの廊下で行われていたわけである。
当然、風通しバツグン! 屋根はあるけど少し雨は入ってくるよ! な部分でずっと虎子を俺は待っていたわけでありまして、現在警官とおばさん共々虎子さんの家にお世話になっているわけであります。
……おばさんは帰れよ、おばさんは。
妙なところで『男二人と女の子残して帰れない!』とか言い出すから仕方がないっちゃしかたがないのだが。
ああ、どうしようか。
あの二人がいたら俺はこの家に住めないかもしれない。
……現実は過酷だ。いや、いろいろと既に非日常だが。
摩訶不思議にもう少しで手が届きそうなんだがなぁ。
風呂に入れということで水をたっぷり吸った制服を脱ぎつつそこまで考えると腹が鳴る。
当然といえば当然か。今日は朝ごはん以外何も食べていない。
「……何だろう。涙が出てくるよ、これ」
主人公影流さんはきっと俺探索って理由でとんでもない美少女と豪邸で優雅な暮らしをしているはずだ!
何だよ、俺はモブキャラだからってこんな扱い!
良いぜ、風呂のお湯飲み干してやるぜ!
ちょうど腹も減ってたしな!
風呂の大きさは大の大人が一人入れるほど。その限界まで張られたお湯。
更に温泉のもとらしき袋が隅に置いてある。
「……の、飲めるのか……俺」
息を呑む。
いや、まさか。これは無効だよな。
うん、きっと無効――男としてどうなのだろう。
一瞬響いた声に惑わせれてはいけない!
死ぬぞ! 間違えなく死ぬ! これは死ぬからやめといたほうが良い!
「……ま、まずは体を洗おう! は、話はそれからだよな!!」
……ふっ、お湯を全部使って隅々まで綺麗にするからな!
☆
「虎子ー、バトン的なものタッチー」
「的なものって何ー」
着替えが柔道着ってアレだね。風通しいいね!
良すぎて本当に風邪になっちゃいそうだね!
リビングに集まる俺と虎子と警官とおばさん。
何て面子だよ、オイ。
耐えられなかったのか虎子が何かを持ち出してくる。
……っ、それは!
「人生大暴落ゲームだと!? あの入手困難な……」
借金取りに追われながら悪の道をどこまで進めたかがポイントとなるこのゲーム。
生産された数も限れていて入手困難、それゆえ希少価値も高く……という嘘の情報はいいか。
友達同士でやると喧嘩になるから、という理由で数が少ないだけのブラックな面を持つオモチャだぜ。
HAHAHA!
……ここでそれを出してくるか。
人生大暴落ゲーム
価格 3500円(税込み)
プレイ推奨人数 1~1人
喧嘩になるので友達とやらないでね!
さて、価格に一番迷っちゃったりしてますが(ゲーム内容は考えてすらないので迷っていません)どうしましょう。
まず何で警官とおばさんが普通に入ってきているかです。
この小説ゆえでしょうが、おかしい。明らかにおかしい。百歩、千歩、一万歩譲ったっておかしい。
そんな歪みを残して進もうか、同士。