第457話『俺の脳内など覗いても俺の考えはわからないぜ』by海弟
――何故なら俺自身ですらわかってないんだからな! 思い付きだぜ。
恥ずかしくないのかって? 何を言う。
普通に生きてたほうが俺にとっては恥ずかしいぜ。個性を生かそうぜヒャッハー!
「え、あ……君、そこ虎子さんの席、だよね?」
「はっは、先生何言ってるんですか、そうに決まってるじゃないですか。俺が座ってるけど」
男子用の制服を着、教室の隅にある虎子の席に座る。
その光景が歴史大好きなんたらかんたら先生は不思議なようで、目を白黒させながら俺のほうに近づいてくる。
「……君、誰なの?」
「うーん」
何と答えればいいのだろう。
もしくは答えなくてもいいのだろうか。
保健室で虎子は寝ているので、俺が代わりに授業でますッ!
って感じでいいだろうか。答えになってない気がするがいいのだろう。いいに決まっている。
「俺は虎子の代わりに授業にでます!」
「……あれ、事情すら飛ばさなかった?」
コイツ、俺の心の中が見えるのか!?
いや、まあ良いや。別に見られた困るような純情ハートはないのだから。
あ、そういえば。
虎子、虎子と周りも呼ぶから忘れていたが、やはり虎子の名前は虎子だったのだ。
つまり虎耳虎子の虎耳の部分が間違っていた、ということがわかる。
クッ、盲点だったぜ。
すべて見えていなかった気もするのだが一応驚いておこう。
呆れたのか、先生は教卓のある場所へと戻っていく。
「それじゃあ、出欠を――」
「先生! 質問が五百個ほどあるところ一つだけ質問したいのですがいいですか!」
「最初から一つでいいよね、それ。じゃあしなさい」
まだ若い先生は突っ込み上手なのか俺を扱うのが少しうまい気がする。
何だか気に食わないので風呂のお湯が砂糖水になる呪いをかけてやろう。水にするだけでなく、砂糖水。
これは悲しくもおいしい惨劇だ。
まあ成功確立ゼロパーセントなわけだが。
「何で耳とか尻尾とか生やしている人がいるんですか!?」
「いや、常識を持とうか君」
常識!? ふっ、俺に一番求めちゃいけないものだぜ。
まあ、耳やら尻尾やらを持つ人間が暮らす世界が好きな人なら常識として認められそうなのだけれども、俺はアレだよ。
尻尾を見ると引っ張りたくなるんだよ。
遠慮して耳だけにしているけれども。
「まあ、嘘なんですけど」
「何が?」
「全体的に」
「そう、じゃあ出席を――」
「質問に答えましょう!」
「えっ、あ!? え、嘘じゃないの!?」
「質問に答えましょう!」
「あ、ああ、うん。答えようかな、じゃあ」
何だか周囲から奇怪な視線を送られているように感じるのだが、気のせいだろう。
気のせいじゃあないとしても、俺が目立ってしまうのは仕方のないことなのだろう。異世界から来たわけだし。
少なからずそういうのを感じ取っているのであろうこの世界の人々に微笑みを送ってやると目を逸らしやがるぜコイツ等。
何でもいいが覚えていろよ。
「この世界には普通の人間と、動物の耳や尻尾の生えた獣人がいる。えーと、その他にもいるけど、聞かれていることだけに答えるとするよ。植物とかだしたらきりがないし」
それもそうだ。
「どちらが先に生まれたのかはわからない、当然……祖先が一緒とは言われているけど言語から文化まで一緒のものを辿ってきているのであまりにも不自然だ。我々人類にとっての一番の謎とも言われている」
それに、と続ける先生。
「どちらかが宇宙から来たとかも言われているね。当然、そんな科学力どちらにもないことは証明されているけど」
「脳ある鷹は空をも飛ばず、だっけか」
「ただ怠けてるだけだねそれ」
そんなもんだろう。人間って。
コホンッ、と咳をし、俺一人のために説明を続ける先生が一人。
かなり惨めだ。俺も付き合うの飽きてきた。
というか耳と尻尾が生えているのが一緒に住んでいて、一般認知されている。これだけわかれば十分だ。
祖先のことなど教えてもらわなくてもいいのだ。
「それじゃあ話をもっと深いところへ――」
「お断りします!」
安眠妨害甚だしい。
昨日の夜、虎子の尻尾と耳は本物かどうかの実験というかドキドキ実体験をしたので疲れているのだ。
『可愛らしいパジャマの下の純白の下着。その下の尻尾。やはり本物だったらしい』
とここまでは覚えているのだが、その後が思い出せないのだ。
当然、パジャマも下着もずらした。
「いやぁ、昨日の夜寝れなかったんですよね。ってなわけで枕はどこかな」
「学校に常備されてないからね」
「膝枕ならあるだろう! そこの女子生徒ッ!!」
あれ、いない。
視線を周囲に巡らせるが、そこには俺の視界に入るまいと必死になっている生徒達が多数存在するだけだった。
いや、違うな。
例外として『虎子いじめっ子戦隊』の一人『イジメブルー』がいた。
次に現れるのはイエローだろうか、それともレッド? まさかの司令官?
まあ何にせよ、特撮はすごいのだ。
席はすでに立ち上がっていたのでイジメブルーの元へと歩み寄る。
周囲からは忌避されている人物なのか、妙な空気が周囲に漂い始める。
先生すら生徒に混じってこちらを見ている。
働け。
あ、俺が言えない。
……高校生だから、騎士は荷が重いんです!
よし、言い訳成功。
「オイ、イジメブルー!」
「イジメブルー!? 何それ!」
「青単色だからって俺は手加減しないぞ! 今はレッドもイエローもいない! 一対一なら俺が勝つッ!!」
「意味がわからないんだけど。何か用なの? ただの邪魔にしかなってないんだけど」
「ふっ、これから強敵へと変化することになるだろうさ!」
動揺しつつもまだ椅子へ座っているイジメブルーへと拳を突き出す。
しかしイジメブルーの高速の蹴りが俺の鳩尾へと入り逆に吹っ飛ばされる俺。
机や椅子を巻き込みながら後ろへと飛んでく。
「邪魔にしかなってないんだけど」
クッ、勝てないと言うのか!?
青色は負けフラグじゃないのか!? 赤と一緒にならないと勝てないんじゃないのか!?
それは緑なのか!?
……ここで、俺は……負けるのか。
「ふっ、良い人生だったぜ。グッバイ、俺。グッバイ、イジメブルー」
「……何なのこの人は」
「いいから。みんな席着いて、ほ、ほら君も。保健委員はこの人保健室に連れてって」
各自のはーい、という声が聞こえてくる。
やっと教師が動いたのか。
薄目でイジメブルーを見ると、普通の生徒に紛れて自分の席に座っていた。
少し荒れている生徒、とだけ周囲には認知されている様子。
「あ、うん。一人で立てるから」
保健委員の少年に言い一人で立ち上がると「さらばッ!!」と言い教室から出ていく。
イジメ戦隊、略して『偉人隊』……一人ひとりの戦力も途轍もないということか。
「ふっ、だがな! 俺は負けないッ! 何故ならと言える理由はないがな!」
廊下に木霊する俺の笑い声。
教室内から俺を見てくる生徒達。
見るな。
さて、前書きに意味不明なことを書いてしまってすみませんね。
今回はコメディーだらけになってしまいました。
まあ説明話にしたかったんですよ。
何で人間と耳や尻尾の生えている人が生きているのか、ということについて。
見事に海弟がぶっちぎってくれました。
……まあ、けれども。海弟みたいな奴がクラスに一人いたら楽しいのでしょうねぇ。
こうなったら読者様自身がならない手はない。
きっと君の未来は明るい! 暗いのならば懐中電灯持って突き進めッ!
もう春は近いぜ!