第456話『体中が痛いです、先生ッ!!』by海弟
無茶無理無謀の三つの無が揃う時……きっと海弟は体を壊すでしょう。
うん。
不幸……バイ。
後ろに吹っ飛ばされ意識を手放しそうになる俺。
これ何度目だろうか。
今度こそ立ち上がることが出来ず呻いていると、俺の突撃が合図となったのか警官と少年による戦いが始まる。
まず少年が動いた。まあ、初っ端から警官が銃を撃つことはない、そう思っての行動なのだろうが少年は、この場にいる警官の半分を一度に蹴散らした。
動きがまるで見えない。いや、あるいは動いてすらない。
……魔法。一瞬だが感じた。
この距離だ。鈍い俺でも感じる。
これは、俺が勝てる相手じゃない。
それに虎子も……。
クッ、声も出せないし立ち上がることも出来ない。
痛みは我慢できるのだが、それは精神的なものだけ。肉体的には無理だったようで、完全に麻痺してしまっている。
「……ダサい」
言い返せないのが悔しいですッ!!
虎子が警官達の後ろに隠れつつ、俺の体を近くの電柱の影へと隠す。
あまり意味のないことなのだろうが、戦いに巻き込まれる確立が減ることは確かだ。
だが、アイツの狙いは俺なのだ。俺が表へ出なくてどうする!
立ち上がろうとしても立ち上がることが出来ない。
声を出そうとしても出すことができない。
ならばどうする!
無理して無茶するに決まってるだろうッ!!
後ろを向き、圧倒的に劣勢な警察に加勢しようとしている虎子。
それを引き止めるように片腕を伸ばす。
骨が砕けたような痛み。それは筋肉が無理やり動いている証。
腕が動いたのなら足も動く。立ち上がり叫ぶ。
「クハハハハハハハッ!! テメェ、さては弱いなッ!!」
虎子が振り向き、同時に残った警官が吹っ飛び。
一度に起こったことは様々だが、この場に立っているのは、俺と、虎子と、神を象ったような服を着た少年だけ。
今、頭に入れておくべきはそれだけだ。
「……立ッタ? マダ一分モ経ッテナイヨ?」
「俺の中では一億年経ったような感じだ」
虎子を掴んだ片腕を後ろへ振り、虎子を俺の後ろに隠す。
短い声をあげ、俺の後ろへと倒れる虎子。
「バッキバキのボッキボキだが、この『やる気と実力の反比例』こと風詠海弟がお相手いたそうッ!!」
「雑魚ナノニネェ」
瞬間、体の中の痛覚すべてを刺激されたような……とんでもない痛み。
今度こそ気合いでどうにかなるものじゃあない。感情そのものがぶっ飛びそうだ。
何をされているかわからないまま、一歩……また一歩と俺に近づいてくる少年を睨む。
「コノ世界ハ裏世界。表ニ隠レル素晴ラシキ世界」
自分で自分を肯定するような言い草だな。
まるで自分が馬鹿なのだということを理解していない。
脳筋野郎はすっこんでろッ!!
ニヤリと笑い少年を見据える。
ただでさえ筋肉が疲れてるのに睨んでる意味などないだろう。
「ソレジャア、死ヌンダヨ」
何もない空間から、細いレイピアのような剣が現れる。
形状は似ているが……違う。装飾の多さ、華麗さ、どちらも少年の持つものが勝っている。
そして、魔力を秘めている分……強さも。
俺に狙いを定められたそれの剣先を見る。
かなり鋭い。心臓でも刺されたら死ぬこと確定だ。
どうしよっかなぁ、と解決策が見出せない俺は半分諦めモードに入る。
死ぬ気で生きたいなど、今の俺は思っていない。
いいや、思っていたとしても、どうせいつか死ぬのだから、とか考えてしまっているに違いない。
それは否定しない、というか出来ない。
大切な一つの考え方だ。俺のものだ。
某ガキ大将も言っている。
『お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの』
つまりだ。
たくさんあったほうが便利なのだよ、世の中。
さて、悟りも開き終わったことだし……。
剣先、徐々に加速され俺の心臓目掛け突き出される。
それと同時に、俺の右足に何者かが足払いをかける。
思わず声が漏れ、反射的に後ろを向く。
しかし、屈んでいるのか、誰がやったのかはわからない。
一瞬でそれを理解した後、動けることに気づき避けようとしたが間に合わない。
左肩へと突き刺さるレイピアのような剣。
「アララ、腕ハイラナイノニネ」
「ハッ、やる気はねぇぜ!」
剣が抜けるように後ろに慎重に、それでいて素早く下がると傷口を押さえながらその場から飛びのく。
かなりのダメージだ。朝っぱらからキツいお仕事だぜ。
周囲を見ると、さすがに警察沙汰如きではないと気づいた、虎子と同じ学校の学生服(俺も男子の制服を着ている)がどこかしらへ電話をかけている姿が見えた。
その野次馬根性、試させてもらうッ!!
そのまま後ろに飛び、電話をかけている馬の耳の生えた男の後ろへと隠れる。
しゃがみ、足を掴み逃げられなくすると頭の中で考える。
まずは整理しよう。
一つ目。
あの少年は敵。完全に敵。
俺たちを試しているということはない。完全に命を狙ってきている。
二つ目。
俺には仲間がいない。
影流も青空もいない。ただ、知り合いと呼べる少女が一人しかいない。
戦力になりそうもないが……度胸はある奴だ。
三つ目。
この状況。非常にまずい。
逃げ切れる可能性も低い。相手を倒せる可能性はもっと低い。
大穴狙いする奴も思わず躊躇うほど微妙。賭けたいけど賭けられないって位置だ。
さて、この三つ。
一つひとつ解決しようにあいにくと、俺は頭が良くないんです。
全部一気に解決する方法ならわかるが(敵を殲滅)、それに至るまでの工程を考えてくれる人物が必要だ。
もっと適当にやっても良い展開はないのだろうか……、ちょっと嘆きつつ、生命を危険に晒してくれた馬少年に感謝し掴んでいた手を放すと、神の衣服を着た少年へと目を向ける。
「……一般人は攻撃しないんだな」
「必要ナイカラネ」
「あるかも知れないぞ。ふっふっふ」
「ナイネ」
思わせぶりな発言をもスルーするとはこやつ、なかなかやりおる。
何がやりおるかはわからないが、とりあえず心の中で呟き、先ほど俺を転ばせた人物を探す。
しかし、さっきので逃げたのか生徒の姿は一つも見当たらない。
虎子の姿も……それで正解だ。
溜息を吐き、少年を見据えるとちょうど少年が口を開く。
「コノ子ダケデ十分、十二分ダカラネ」
足元にある、何かを細剣状のもので指す。
思わず息を呑み、そちらを向けば……虎子がいた。
「ええー、捕まるなよ」
どうやら声が出ないらしい。
何だかやる気なさげな表情をしているが、俺に任せておくと良い。
「天下無敵とまでは言わないが、俺は『やる気と実力の反比例』と呼ばれる男だからなッ!! 任せろッ!」
「メンドーダケドサ。人質、ワカル?」
つんつん、と剣で虎子の首筋を刺す少年。少しだけ、鮮血が虎子の首筋が流れる。
……本来ならば怒るべきなのだろう、なのだろうが!
「人質? はっはっは、そういうのはもっと選べよな。っというわけで、攻撃しちゃうぜベイビー」
あるぇ。おかしいな。
背後、いや、前後、いや前後左右から殺気が……って何ですか!?
俺の周囲を囲むように、複数の同じ顔をした少女。
少し霞んでいて……よくわからないが、触れたら指の先から削り取られそうな感じだった。
「ふっ、この技見切ったりッ! 俺の周囲を高速で回転するあまり、認識できるパラパラ漫画のように残像が俺の――長いから省略ッ!!」
「……つまり、この技は君の周囲を――」
「省略ッ! 省略!」
「……省略」
「オーケー、省略」
突然俺の目の前に現れた少女。
気配をまったく感じなかったのはいつものことだして、この近距離にいる今……何処かで感じたことのあるような気配をコイツは発している。
「償いを、そして清算を……」
グンッ、と一気に少年との距離をつめる少女。
「クッ、この世界は武術中心で回っているとでもいうのか!? なぁ!」
答えは当然返ってこない……が、目の前ではそれを裏付けるような光景、魔法を凌駕する武術。
高速ではない、神速。
圧倒的で、魅せられる光景。
「クッ、引コウカナァ」
「……虎子に手を出すなら、いつでも相手になる」
少年が空間の中に溶け込むように消えていく。戦闘時間、約五秒。
決着はたぶん、少女の圧勝。
完全に少年が消えた後、少女は俺のほうをチラリと向き、いつの間にか気絶している虎子を指差す。
「運べと?」
うなづく少女。
いや待て。俺は今、肩から血がドバッのブシュッ状態ですよ? 無理ですよ?
まあ、何とかならないこともないから無理じゃないってことに今回だけしておいてやろう。
「それよりも! コイツの名前、お前虎子って――」
トントン、と両方の靴で地面を二度ずつつま先で蹴ると、俺を一瞥もせず何処かへ走っていく少女。
そういえば、ブレザータイプの制服を着ていた。
つまりは違う学校といえど何かしら、虎子に繋がりのある人物で助けてくれた、と。
ふむ、しかも激ツヨだからな。
しばらくは虎子の周りにいるとしよう。あの人サイコーだぜ。
名前はわからないが速いので『速達少女』略して『速女』と呼ぼう。
俺のネーミングセンスが相変わらずで安心したぜ。
と、まあ虎子を運ばないとなぁ。
しかし、ゲームに嵌ったとは言え更新が遅くなるのは良いことじゃあありませんね。
ああ、でもまあ、問題ないでしょう。
なぜなら更新時刻は決めていないのだからッ!
自由作業の自由更新です。
そんでもって自由感想なので感想ほしいです。強欲さアピールで評価もほしいです。