第454話闇夜の庭と父親と
コメディー最高!!
気づけば夜明け……。
いや、目の前に月が輝いていれば……気づかずを得ないだろう。
微風が俺の体を打つが、それが心地よい。
「……外、か」
立ち上がるが、先ほど気絶した場所ではないようだ。
下は芝生なので真っ先に気づいたが……風景が完全に違う。
「あの屋敷……なるほど。運ばれたか……しかし」
……何で家の中まで運んでくれなかったんだ……。
いや、図々しいか。
ため息を吐き、屋敷へ目指し一歩目を踏み出す。
ゴリッ、と地面が動いた感触……?
ゴゴゴゴゴゴ……
「な、なん……!?」
低周波のような音……その場から飛びのくと背後で爆発が起こる。
何が起こってるんだッ!?
カチッ、という音。
再びその場から飛びのくと、そこに大きな穴が空いた。
息を呑み、中を見ると底が見えず、光が届いていなかった。
「……な、何だこの――」
罠だらけの庭は!?
こんなところに放り出されて俺はどうすれば良いんだ。
一度落ち着き、息を整えると屋敷を見据える。
起きたばかりで頭が少しぼやけるが、深呼吸し一気に頭のもやを取ると屋敷へ向かい走る。
チュドーンチュドーン、と背後で爆発が起きているがその爆風をもスピードに変え走る。
「俺はここで死にたくないッ! うわァァァァァッ!!」
化学兵器てんこ盛りのこの庭を抜けるには一苦労しそうだ……。
☆
……ああ、賑やかな家族だなぁ。
そういえば私、最近家に帰ってないや。
このまま進学できるんだろうか。
……何とかなるかなぁ。
ぽけ~、と窓の外を見て考えていると爆発が外で起きる。
「な、何!?」
何が起こっているの!?
次々に起こる爆発を目の当たりにして戸惑っていると、背後で背の高いジェントルマンが立ち止まる。
その姿が黒っぽい外を背後にした窓に写る。
「……え、あの……」
そちらを向くと、ニイッ、と笑うジェントルマン。
「この庭は突破できない。安心しなさい」
「突破って……あ」
姿が見えてきた。
あれって……影流、だよね……?
どうなってるの? ベッドで寝てたはず……何だけどなぁ。
「この庭を突破した男しかワタシは認めんッ! 竜子が選んだ男だ、そのくらい当然できるはず……」
……話がこじれてない?
竜子ちゃんのほうを向く。
虚ろな瞳で天井を見上げていた。
この人は、たぶん竜子ちゃんのお父さんなのだろう。
それで……ああ、そうか。
ジェントルマンの横顔を見ながら思う。
……この人、勝手に一人で勘違いしてるよー!!
影流は竜子ちゃんとそういう関係じゃない、と言ってあげようか……。
いや、もう遅い気がする。
……まあ、影流なら何とかなるよね。
今にも死にそうな感じだけど。
「わ、私……玄関行ってきます!」
竜子ちゃん連れて!
☆
……死ぬかと思った。
何処かで『これがイケメン補正だ』とかいう声が脳内に響いて、そこから必死に走ったわけだが……玄関まで無事にたどり着くことができた。
戦車の陰を見た気がするが、見間違いだと助かる。
スナイパーに狙われていないか確認してから、玄関の扉に手をかけようとするが、その前に玄関が開かれる。
「影流!? 大丈夫?」
駆け寄ってくる青空。
衣服がボロボロになっているものの、俺に外傷は一つもない。
後ろからとぼとぼと歩いてきた竜子。
キリッ、とした雰囲気がなく、普通の少女に今は見える。
「……な、突破しただと!? この、庭を!!」
しかし、その印象は後ろから現れたジェントルマンに上書きされてしまう。
見た感じで愉快な人だとわかるその人は俺の前まで来ると怒りの形相で言う。
「何をした!」
何をした……、と言われても。
俺はただ必死に走ってここまで来ただけだ。
「……こ、小細工なしでここまで来るとは……ただの人間に見えるが……キサマ何奴ッ!?」
「ふ、普通の人間、です……けど、えーと?」
青空の方を向く。
すると口パクで――
『この人、竜子ちゃんの、お父さん!』
……なるほど、把握した。
「えと、何で怒って……?」
「君、竜子の彼氏だそ――」
「違います」
「竜子の――」
「違います」
「……何だ、違うのか」
家の奥に歩いていってしまう竜子父。
違うとわかってもらえたようだ。
……娘を守る父親の気持ち……俺たちの中でわかるのは海弟ぐらいか。
アイツ年齢に対して人生経験豊富すぎるだろ。
「……何とか助かったなぁ」
「というか、あの爆発何が起こったの!?」
「何でもない、なんでもな。竜子、青空、戻ろうか」
「庭に?」
「家の中に」
外は危ないぞ!
青空と影流のは珍しいなぁー、とか思いつつ書きました。
やはり時代は美男美女が爆破されないと始まりませんね!!