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第453話『俺は雑魚だァァァァッ!!』by海弟

魚、という字で『こ』と読むことがあるんです。


『こ』を変換しても魚という字は出てきませんがね!

結局、救急車は呼ばれず……虎子(俺命名)はトボトボと歩いていってしまったわけである。

俺もそれについていったわけだが、俺の話を聞いてくれている気配はない。


気配といえば背後に気配が一つ……、さすがにそういうのに鈍い俺でもわかる。

かなりの強さ。凄まじいスピードで近づいてくる。それほどの……。


普段の俺ならば強気でいられるのだろうが、ふとフラッシュバックするように脳裏に浮かぶ神々しさすら感じる服を着た少年。

アイツは俺たちを、俺を狙っていた。


身構え後ろを向く。

気にせず進んでいってしまう虎子だが、正直言ってそれで正解だ。


俺の目の前に現れる、虎子と同年代ぐらいに見える少女。

ただ、表現するならクールビューティー。兎に角、美しく冷たそうな少女だ。


ブレザーの制服を着ており、傘も差さずに俺を睨んでいる。


「……アイツの手先か!」

「手先? 少し、違うかな。わたしは手伝っているだけ……」

「騙されんぞッ!」


この威圧感……影流以上のものを感じる。

影流も、あの少年と戦うのもギリギリのようだったし……この手下も結構強いのだろう。


俺など魔法と剣がないのだ。立ち向かう気力すら芽生えない。


なので選択肢は一つだ。


逃げた虎子の影へと走り隠れる。


「ふっはははははっ! どうだ、俺を攻撃できるかな!」

「……一撃で終わらせようか」


虎子が怒ってるぞ。困った。


さすがに異常事態には気づいたようで、振り返る虎子。

しかし、そこには誰もいない。


気配も消えている。


「……いない、けど……。竜子ちゃん……?」

「竜子? 誰だそれ」

「……ううん、何でも……何で普通に会話しているんだろ」


ぷいっ、とそっぽを向いて歩いていってしまう虎子。

気配ももう消えたようだし、逃げたのだろう。


一般人に見つかるのはまずいとか……ならば今は虎子と一緒に行動するのが正解のようだ。


悪魔の手下(仮)から逃れるために虎子の横を歩く。

傘に入れてほしいものだが、残念ながら虎子さんはそれほど優しくないようで、たまに傘を回しては俺に水滴を飛ばしてきます。

あっ、目に入ったよこれ。


「テメェ! 絶対に許さんッ! 表へ出ろ!」

「表です」

「そうだな、じゃあ裏へ行け!」


人通りのないところで決着つけようじゃねぇか。


「……表とか、裏とか。簡単に言うね」


ぽつりと呟く虎子。

この虎子悩んでいる様子だ。


「ふむ、悩んでいるようなら話を聞くぞ、虎耳虎子」

「……誰それ?」

「お前の名前だ」


少し黙り込む虎子。

やはり名前は違ったか……俺の三十分ほどの思入(おもい)れは(はかな)く散ったのだ。

壊した張本人はそのまま黙って早歩き俺から逃げるように先へ行ってしまう。


「良いぜ。お前がその気なら、俺はお前の名前を聞き出してやる!」


俺の、俺たちの戦いはここからだッ!





マンション前。

結構高いそのマンションは白塗りで高級感が漂っている。ただし、俺はその中でなく、外にいるわけだが。


そして隣にいる虎子(仮)は無表情のまま動かない。


「……虎耳」

「ぽつりと呟くな」


ひょこひょこと耳が動く。


……う、うご……?


えーと、うーんと、はぁ?


「耳が生えてる!?」

「……昏倒してろ、馬鹿」


俺の鳩尾に高速の蹴りを放つ虎子。

速いッ! 速すぎるッ! 避けれない!


あっ、痛いッ!


そのまま数メートル吹っ飛ばされコンクリートの地面を転がる。

今にも意識が吹っ飛びそうだ。


「……あ、う……。ごめんなさい」


(うつ)ろな俺の瞳に写る虎子(?)の姿。


「……ただの人、ただの人間。ごめんなさい」


ただの人? ただの人間?

……馬鹿も休み休み言え。俺がただの人間だというのなら、世の中の人間は全員ありんこクラスである。


「く、クハハハハハハッ!!」


思いっきり笑ってやり、しっかりと意識の手綱を握ると立ち上がる。

相変わらずぼんやりとした視界だが十分。


「人を舐めんなよ。一発の蹴りぐらいで謝って……全然痛くねーんだよッ!!」

「立、った……?」

「おう」


言った途端。視界が揺れる。

ああ……倒れる。





目覚めると、玄関のようなところに横たわっていた。

見上げると小さめの電灯が一つ。室内だということがわかった。


周囲を見回すと一本道になっており、廊下なのだろう……その奥にリビングがあるのか、そこからドタドタという音が聞こえてきた。


頭がぼやける中、立ち上がり靴を適当に脱ぎ捨てリビングへ向かう。

誰の家だろうか。


最後に見た白塗りのマンションを思い出し、誰かに助けられたのかと思考を巡らせていると、ピンク色の下着が干されているのが目に付いた。

そうか、ここは女性の家なのか。


しかしピンクと言えど子供っぽいというか何というか……。


まあ手に取ってみようじゃないか。


そういうわけで下着に近づいた瞬間、後頭部を打つような衝撃。

まるで金属バットで殴られたような感覚だ。


よろめき、ついでに後ろを向くとセーラー服姿の虎子(濡)がいた。


「ここまで運ぶの大変だったんだから……。それに、あたしまで濡れちゃうし、この下着泥棒」

「下着鑑定士と言い換えろ!」

「そんなのいるか!」


……案外、繊維のことを研究している人の中にいるかも知れないぞ。

俺は知らないが。


とりあえず虎子(怒)を(なだ)め、干してあった下着を仕舞わせるとカーペットの上に座ろうとしたところで気づく。


「……濡れてるな」


これじゃあびしょ濡れ。

いや、ここまで歩いてきた時点でビショビショなのだ。もう関係ないぜ!


「お風呂沸いてるから先に入ってねー! 座ったりしないでよ!」


止まらないぜ!

オケツがカーペットに着地を成功させ、その部分を濡らすと同時に暖房を動かすためにリモコンを探す。


見つからないッ!!


仕舞い終わったのか、こちらへ顔を見せる虎子(激怒)。


「ああ、風呂だったな! うん、行ってくる!」

「濡らしたんだね。あたしの……」

「ええ、濡らしましたよ! 俺がお前の濡らしたんだ!」

「責任取ってよ!」

「もう遅いぜ。俺は行く!」


……何だか勘違いされそうな会話だな。


あがり込み大作戦成功……と、脳内で海弟の声が響いております。

コイツ……図ったな!?


でも、まあ……竜子が虎子を避けている……というのは今回の話でわかったはずですね。ええ。

それと虎子の蹴りは強力、ってことも。

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