第452話おしること限界
久々の更新ですよー!
さて、役割分担完了ですかね。この話で。
雨が降り出してきたので捜索は一時中断となった。
他称『クールなお姉ちゃん』の奢りで隠れ家的な喫茶店に入り、窓際の席へと座る。
俺の対面に少女は座り、こちらをジロジロと睨みつけるように見る少女の視線に耐えつつメニューを手に取る。
少し雨にも濡れたので暖かいものを――何故か大きく書かれた『おしるこ \360』という文字しか見えなかった。
ちょっと待ってくれ、としか言いようがない。
「おしるこ? 何でコレだけなんだ」
逆さに呼んでもおしることメニューという文字が逆さまになるだけで他の文字は浮かんでこない。
この店は喫茶店もとい『おしるこ専門店』なのではないか? という憶測が頭の中で飛び交い始める。
「すまない、おしるこ三つ」
近くに居たウェイターに言う少女。
どうやら認めなくてはいけないらしい。
認めたくはない。この店の存在を。
「それよりも! 自己紹介しとこうよ。誰も話題にださないし……」
隣で長い髪を雨に濡らした青空が言う。
着ているものも演劇の衣装のためか、多少透けて――見てはいけない。
俺の衣装も白いことだけあって若干透けているが、まだ何とかなっている範囲だ。
……青空のは、俺は見ていないからわからない。
「それもそうか。自己紹介……長い付き合いになりそうな予感もするし、しておこう」
「俺的にはあたってほしくない予感だな」
手っ取り早く海弟を見つけ、三人で元の世界に帰る手立てを見つけなければいけない。
そうなると、最初に出会ったあの凶悪そうな奴ともう一度会わなければいけない。アイツ以外に情報を持つ奴を、俺達は知らないのだから。
「じゃあ私から! 夏凪青空です。呼び捨てでいいからね。えと……」
「次はわたしか。宇津木竜子、わたしも呼び捨てでいい」
二人に見られ俺も短く名前だけ告げて自己紹介は簡潔に終わる。
そしてタイミング良く現れるおしるこ。自己紹介も終わったところで体を温めようとスプーン片手におしるこへ挑もうとする直前、窓の外……何か俺の視界に不自然なものが写った。
ネコ……いや、トラミミ?
傘を差していたが確かに見えた。それらは……たぶん、コスプレをする人がつけるようなアレだ。
そして俺の身の回りにコスプレをするような人など……現時点ではいない、と思う。
知らぬ間に趣味がコスプレの奴が増えている、なんて事態になっている可能性が海弟という不穏分子によりあるっちゃあるのだ。
信用できるのか信用できないのかわかりにくい奴である。
まあ、ともかく。この世界の常識には突っ込みを入れないことにしておしることを一口――
トラミミを追う海弟の姿が見えた。
――膝の上に落としてしまった。
「あつっ! かいっ! ああっ!?」
膝の上に落ちたおしるこの熱さ、そしてトラミミの後を追う海弟を見つけた驚愕、混乱し出てしまった奇声。
幸いにして、他の客はいなく――当然と思ってしまった俺はどうすればいいんだろう――店員さんに変な目で見られた程度で済んだ。
そんなことしてないでおしぼり持ってこい。
「膝の上にこぼしちゃったの?」
「そうだが違うッ! 急いで外へ出るぞ!」
「まだ食べ終わっていないぞ。それに、雨が――」
「雨!? そうだ、雨の中歩いていたんだ。海弟が居たッ!」
何ッ!?
といった表情になる二人。
お会計を簡潔に済ませ店の外に出る。
雨に濡れてしまったが今はそれどころではない。
海弟の向かった方向へと走る。
まさかアイツにこんな性癖があったとは長く付き合ってきて始めて知ったのだが、驚いて立ち止まっている場合ではない。
走って追いかけ背を視界に捕らえる。
青空との距離が放れてしまい、一度俺は立ち止まる。
「竜子ッ! ずっと先にいる黒髪の少年、そいつを捕まえてくれ!」
「わかった」
俺を置いて走っていく竜子。
人間のものとは思えない速さだ。俺よりも速い。
息を荒げながら走ってくる青空の両肩を掴み動きを止めると、簡単に竜子が海弟を追って行ったことを説明する。
「じ、じゃあ……歩いていけばいいのかな?」
「ああ。お前のペースで歩けばいい」
知り合いも少ないこの世界で青空まで迷子になるのはゴメンだ。
もしもの事態、があったら俺はまず誰に謝ればいいのか……。
おっと、後ろ向きすぎるか。
「青空、行くぞ。すまないが歩きながら息は整えてくれ」
☆
息も整ってきた頃、竜子さんの姿が見えた。
隣には誰もいない……?
「……海弟は?」
影流が竜子さんに聞く。
首を振る竜子さん。水に濡れても凛々しい姿は、人間とは本質的に違うカッコ良さを秘めているようだった。
「……今のわたしに、この件に関わる資格はないのかも知れない」
たぶん、影流も意味がわからなかったと思う。
あまりにも説明が少なすぎた。
「わたしはアイツにどういう顔をし、どういう態度を取っていいのかわからない。だから会えない、海弟のことも諦めてくれ」
「諦めれないよ! 影流、いこ!」
諦める。それこそ、わからない。
ここまで来て諦めるだなんて、一つや二つの理由で逃げ出してしまうなんて……それよりも大きな希望があるのに!
些細なことだけど、世界にはおっきなことなんて少ししかない。だから私達は些細なことに一生懸命になればいい。
おっきなことは海弟や影流が何とかしてくれて、私は待ってて……二人が何とかしてくれるって。
「そういうわけだ。退いてくれ」
「……ダメだ。頼む、頭を下げよう……。この先へは行かないでほしい」
深くお辞儀をする竜子さん。
仕草ひとつひとつが凛々しい彼女も、こればかりは惨めで……。
この少女にそれほどのことをさせる何かがこの先へあって……。
……深く考えれば考えるほど、こんがらがっていく。
影流のほうを向けば、既に拳を握り構えていた。
「顔をあげろ。力ずくで通らせてもらう」
「……そうか」
同じように構える竜子さん。
勝負は一瞬――それも簡潔に……。
バシュンッ、という風を切る音とともに吹っ飛ばされる影流。横のコンクリートの壁に体を打ち付ける。
「動きはいいが、限界だ。人間の、才能の、想いの……。すべて限界だ」
「……影流! そんな……」
私には何もできないし、何をすればいいかもわからない。
目の前で起こること、起こすことはすべて正しいことだったから、全部が全部……こんな時は間違って見えてしまう。
こんな型に嵌った生き方をしているから、私は待つしかないし、待つ以外に思いつかない。
誰かの足手まといになりたくないから。
……どうすれば良いんだろう。
一度決めたことを曲げる、それは正しい?
もう一度立ち上がり、誰かの役に立つために頑張る、それは正しい?
何が正しいか、どれが正しいかなんて関係ないのだろうけど……。
私から海弟も影流も遠ざかっちゃったみたいで、全部を否定されたみたいで。
それこそ、限界。
「……家へ戻ろうか。泊まっていくと良い」
コクリ、そう無気力に頷くしかなかった。
とりあえず、おしるこは一口も食べませんでした。
一番気になるところでしょう? そうでしょう。
と、まあ久々の更新で浮かれておりますよ。
かといって後書きに書くことないのですけどね!