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第450話人探しとダイナミック

影流&青空視点。

(海弟成分多めver)

公園の一角。去っていく二人の後姿を見て溜息を吐くとベンチから立ち上がる。

さっきまで異世界に飛ばされたとかで体が重くなった気がしていたのだが……やはりいつも通りなんだなぁ、と痛感してしまう。


そりゃあそうだろう。


「いつも通りなんだから、な。海弟! 青空、あんまり遠くに――」


その前に。

海弟は下を隠せ。


幼馴染と言えど、公共の場(公園)で下半身トランクスで失踪しようとする惨めな男の姿など見たくはないものだ。

それを追いかけるのも幼馴染となると、本人が気にしていなくてもこちらが気にして恥ずかしい気分になってしまう。まあ俺は慣れた。


二人を追いかける為に足を公園の外に(おもむ)けると肩を揺らして息をする青空の姿があった。

当然、ドレスは衣装とは言え結構重いものだし、衣装だからこその低コスト。材料も作る技術も最低のもので、走る邪魔をするには十分だ。


まあ走る為に作られたドレスなどないだろうが……。


「ああ、海弟辺りだと『ないなら作っちまえばいいのだよ影流クン』とか言い出しそうだな」

「……何の話、かな?」


いまだに肩を揺らす青空に「何でもない」と答えた後、海弟の姿を捉えるために逃げていった方向を向く。


――いなかった。


「……おかしいな。そう遠くへは行けないはずなんだが」

「や、屋根に上ってぴょんぴょん行っちゃうからさ、さすがに追いかけられないよー」


当たり前だろ。

というか屋根の上に逃げるのが当たり前じゃあないのだ。


青空、そこは突っ込んでいいところだと思う。


ようやく息が整ってきた彼女を見てベンチに戻ろう、と提案する。

海弟ならば裏をかきそこへ戻っている可能性も、と期待したのだがさすがに居ないか。


「何処へ行ったのか。俺には想像できないな」

「私も。んー、ケーキ屋さんとか?」

「無いな」


アイツも下半身下着でケーキ屋に入ることはしないだろう。

そう、しない。絶対に……しない、と……思う。


「やっぱりありえるかも……」

「でしょ?」


本気で頭を抱えたくなってきたところでぺたん、と柔らかな感触が俺の背中を掴む。

振り向けば、小さな赤ん坊……とまでは行かないものの、立って歩けるようになり数ヶ月にも満たないであろう子供がいた。


顔立ちは可愛いが、男の子ではないとはっきりとわかる。


「かー!」


叫ぶ子供。後ろから走ってくる母親らしき人物。

結構若い奥様らしい。青空とは違った気品を感じる。


最近青空から気品の『き』の字も感じられなくなってきたのだが、海弟のせいだろう。

もう推測の域などとっくの昔にぶっ飛んでいる。


「あー、はいはい。えと、すみま――」


子供を俺から放し抱きかかえこっちを向いて謝ろうとしていたのだろうが、その動きが止まる。

原因は明らか。俺達の服装だ。


「……あー、えーと。俺達、えと、劇団の役者なんですよ。あの……えーと、それで宣伝になるかなぁ? と思って、ね。今は休憩中」


ベンチを指差し言う。

劇団名を聞かれたら終わりだと思う。海弟なら『海弟大サーカス』と自分の名を使ってまで言ってしまいそうだが俺はしない。

それ以前にサーカスではない。


「へ、へぇ。まるで高校生に見えるのに……。若いんですね」

「奥さんのほうが若く見えますよ! 幸せそうなオーラでてます!」

「そ、そうかしら……」


母親のあるべき姿を見た気がして、とある勇者様を思い出す。

青空の話では俺達はあの勇者に押し込むように強制的異世界転移体験させられたとか。


まあ体感はないのだが、子供を思う気持ちだろうか?


それとも俺の居ない国で好き勝手やるつもりなのだろうか?

勇者という地位さえあれば……ああ、頭が痛い。

血は争えんな。


「可愛い子供ですね」


母親ばかり誉めていてもアレなので話題を変えるためにも子供を誉めてみることにする。


「この子、妹なんですよ。お姉ちゃんは学生さんなんです」


ほうほう。学生と言うと高校生か大学生……ちょっと待て。


高校生が最低でも十五歳。この子の年齢は……何歳かはわからないが三歳は過ぎていないと思う。

年齢差が十二歳。この子の母親の年は……外見から察するに三十を超えていない。


十六歳の時に結婚しお姉ちゃんとやらを産んだとしてもギリギリ十四歳でなければおかしい。

まさか十五歳の時に……はあるまい。


異世界だから、という理由を持ち出されたらおしまいだが……それでも気になるものは気になる。


「あれ、お姉ちゃんって腹違いなんですか?」


青空、俺も気になっていたから言えないが直接言うな。

海弟の影響を受けす――


「はいっ! キリッ! ってしててわたしも見習わなくちゃ、って思うような子なんです! クール、っていうか。わたしが母親でいいんでしょうかねぇ」


この会話の何処がおかしいか答えよ、と聞かれたら登場人物の脳、という答えが正解だ。

例え間違えだとしても正解だ。


コイツらの脳は間違っている。


「そ、そういうのって重い空気になるから普通言わないんだけどな。……まあ良いや。青空、そろそろ探しに行くぞ」

「海弟なら大丈夫だと思うけどなぁ。戻ってきてくれるっ、って思うし!」


その自信は何処から……いや、何処からともなくという奴ですね。

待ち人だって成長してるのか。


「人探しですか?」


さっきの母親が聞いてくる。


「え? あ、まあ」

「ならお姉ちゃんが得意なんで! もうすぐ学校も終わるし――うちに来てお姉ちゃんの帰りを待ちましょう!」


こちらを見て瞳をキラキラさせる母親。

青空がまずこちらを(さげす)むような視線を向け、今度は母親のほうに優しげな視線を向け「そうします!」と言う。


……何で睨まれたんだ?


母親と子供が前を歩き、その後ろを付いていく形で公園を出ると、青空が俺の肩を叩く。

そちらを向くと、ジェスチャーと口パクで何かを俺に伝えようとしていた。


読唇術(どくしんじゅつ)など使えないのだが、一度予想してみよう。


『人妻は、禁断の愛だよ! 異常(アブノーマル)だよ! 健全じゃあないよ! お父さん悲しんじゃうよ! 子供だって――』


……あくまで予想である。

例え無駄に説得力のある予想へと導かれてしまったとしても、それは予想以上予想以下。つまりは予想以外の何物でもないわけである。


つまりは嘘かもしれない。


でもって。


……真実かも知れない。





大きな豪邸……洋と和が混ざりちょうど中間に位置するような外観を持つ屋敷。

ここが子持ち妻(腹違い一名)の住んでいる場所らしい。


屋敷と私が呼ぶのはこの外観を見るまでに大きな扉を二つぐらい(くぐ)り、広い庭の中央にある道を進んだからである。

当然のように庭師の人が挨拶してきて少し戸惑ってしまったけれども、何だかすごそうなのはわかった。


感じたもん。


「ここです♪」

「ホントに良いんですか? えと、人探しの手伝いなんて……何日掛かるかわかりませんよ?」

「わたしが見るに! 白い格好のあなたが主役、そちらのお姫様がヒロインなのでしょう? きっと探しているのは敵役の人。脇役でもいいから、この物語に登場させてくださいな」


長い台詞で押し込まれてしまう影流。

色目使われているのに気づいていないのだろうか。


……海弟以上の鈍感スキルの持ち主だからなぁ。


心の中で苦笑いしつつ、長年(つちか)われてきたそれを裏世界でも完璧に発揮してしまう影流の横腹を肘つつく。


「な、何だよ」

「何でもないよ。何でもないもん」

「……語尾変だぞ」


意図的です。


家の中に案内されてから数分。

私達はずっしりとした威圧感溢れるリビングにある高級ソファに座っている。


子供を昼寝させるとか言って出て行ったきりで戻ってこない子持ち妻さん(名前わかんない)だけれども、このシンとした空気が意図的に作られている気がして少々縮こまってしまう。

こういう雰囲気は苦手……。


だからこそ、海弟に惹かれたのかも。と思考してみるも『待っているだけ』の私じゃあどうしようもならない気がした。

元気を取り戻すことを諦め、影流の方を向く。


なにやら考え込んでいる様子で、私の視線に気づきこちらを向くと爽やかな笑みを浮かべる。


「この部屋、意図的というか……デザイナーの意思というか。それで、威圧感を醸し出すような間取りになっているな」

「わかるの?」

「こういうのに一番敏感なのは海弟だが、一応はな……」


ああ、そういえば海弟は『影流の近くに居すぎて無駄に「影流好きの女の子の雰囲気察知センサー」が発達した」とか何とか。要するに雰囲気を感じ取るのが人一倍敏感になってしまたわけなのだろう。


良い風に言えばこうだけど、悪い風に言えばこれってトラウマだと思うのは私だけなんだろうか。

横で幼馴染が告白されまくってるのを何万回見てたらトラウマになるよ。うん。


……まあ海弟は気にしていない様子だけどさ。


影流も私も考え込んでいると、急に時計の音が鳴り響く。

ゴーンゴーン、と。


ビクリと跳ね上がりそちらを向く。

落ち着いた雰囲気の喫茶店にでもありそうな時計。レトロというかアンティークというか……そんな感じで、この部屋には似合っていない感じの時計だ。

威圧感ではなく、安心感。温もりがある。


すると、バタンという音が背後で響く。

扉が開いた音なのだろうが……ノックぐらいあっても――


「……客、か。母の客人なのだろうな。すまない、来ているとは聞いていなくてな」

「事前に連絡してこなかった俺達も俺達だ。それよりも、あの母親の自慢姉。自慢するだけのことはあるな」


うんうん、と頷く影流。

適応するのが早すぎたと思うの。


黄緑というかライトグリーンというか、そんな色に輝く髪を肩まで切り揃え重力に従わせている少女。

クール。


「誉めないでくれ。きっと、君はわたしと同い年だ。少し照れる」

「俺の正直な気持ちなんだがな。まあ良い、ちょっと手伝ってくれないか?」

「そ、そうなの! 私とね、影流とね、海弟! 最後の人探して!」


……何言ってるんだろう私。


「すまない、情報が少なすぎる。確かにこの街の事なら人一倍知っているが……特徴とかも教えてほしい」

「性格がダイナミック」


影流が呟く。


「……それだけか?」

「ああ」

「……本当に?」

「そうだが?」


私のほうに視線を向けてくる子持ち妻の言っていたお姉ちゃんとやら。

私は頷く。


「……ふう。性格がダイナミック、などという条件一つで人探しを任されたのは初めてだ。ちなみに性別は男なのだろう?」

「ああ、まあ男だろうか女だろうが……あんな性格の奴は一人しかいない」

「でもホンモノ勇者さんは――」

「……あれは例外だ」


こそこそと話している私達に一切突っ込まずに、持っていた荷物(カバン)を置くと開けたままにされていた扉から出て行ってしまうお姉ちゃん。

私のお姉ちゃんじゃあないよ。あの子のお姉ちゃん。


そろそろ名前を聞いておくべきかな……。


汚される? ふっふっふ、悪い意味で神々しいと言うべきだ!


つまりアレだよ。


『堕天使よりも早く堕ちろッ!』


ってな感じなのですよ。



さて、無駄に無駄が重なった文章で後書きの行数も稼げたところでまた次回!

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