第449話『俺のターンッ!!』by海弟
アレだね、海弟視点だと書きたい情報が書きにくいね!
最初からわかっていたことだけれども。
ボロボロだ……。
心身ともにボッロボロ。まさか、剣と魔法がないとここまで俺が弱くなるとは思わなかった。
こりゃあ影流に武術の一つでも教えてもらったほうがいいかもしれない。
まあ、手遅れと言っちゃあ手遅れなのだが……。
去っていく男子三人の後姿を眺めつつ振り返る。
いったい何処が悪かったのか……。
☆
俺の隠れ家となる体育館裏に侵入者四人を発見した。
『俺はここで違和感に気づく。男子三人に対し女子一人。構図からしても如何わしいのだが、その女子を囲むように男子が立っていたからだ』
ふっ、男だろうと女だろうと関係ないッ! ここで俺がぶっ潰してやんよ!
草むらから飛び出し男子一人の後頭部を殴る。
そこで四人とも気づいたのかこちらを向く。
『そう、俺はここで穏便に済ませるべきだったのだ。思い出すだけで過去の俺を殴り飛ばしたい気分だ。いや、これ以上傷は嫌だな』
「アァ? 誰だ――」
言葉を失う生意気な男子。
さっき殴られた男子も既に復活している。頑丈なものだ。
「プッハッ! 何だよその格好ッ!」
「お前は俺を怒らせた」
笑った男子に殴りかかる……も、避けられ逆に蹴りを入れられる。
何て脚力だ!?
そのまま吹っ飛ばされる俺。ギネス認定の吹っ飛ばされた距離を保持した俺は立ち上がる。
負けてられるか!
『そう、俺はここで間違った! なんと先に右足を使って立ち上がってしまったのだ! 左足を先に使えばよかった!』
次の瞬間、吹っ飛ばされる俺の体。
クッ、手加減なしか!
「イジメの現場見られちゃったしさ、一応脅しときますか」
「そうだなァ。やるぞ」
「はぁい」
イジメ?
考える前に来る衝撃。
ふっ、俺の思考を遮るたぁ良い度胸だ。
「負け――」
顔面に蹴りが入る。
何て野郎だ。
連続した攻撃に耐えていると、ゼェゼェと肩を揺らす男子の一人が言う。
「他の奴等に言うんじゃねェぞ! わかったかッ!」
わかったか、と言われてわかったと言う奴はいない。
いや、いても俺は言わない。
「……チッ、行くぞ」
男子二人を連れて去っていくイジメっ子達。
ふっ、俺の勝利か。
☆
と、まあこんな感じなのだ。
こうなったら俺は地の果てまで追いかけてアイツ等に復讐してやらねばならない。
とりあえず治癒魔法――
「使えないな」
こっちの世界はまるで俺達を捕まえる為だけにあるような感じがするな。
俺達にとってここまで不利になるような構造をしているなんて。
……まあ、詳しくは『俺』一人なのだがな。
そもそも魔法ってのが非常識なのだ。
ならば魔法を奪われ、常識の中に放り出された俺は……。
「超一般人! いや、超危険思考の一般人だ!!」
「……あの、大丈夫? 保健室行く?」
「くっ、何故俺の目的地を知っているキサマァ!!」
しゃがみ込んで考えていたので急いでその場から飛びのき相手を睨む。
たぶん四人のうちの残っていた一人だろう。たぶんイジメられている方……。
……って、待てまて。
これはイジメられるだろう。格好がおかしすぎる。
いや、俺が言えないがおかしい。
「目的地、ってそりゃあ……それだけの傷があったら……保健室に連れていくよ。それに、格好も――」
「お前が言うな。いや、俺も言えないがお前も言うな」
この女子、もとい少女の格好。
そして俺の格好。どちらもおかしいし、どちらも変質的だ。
「よし、じゃあお前がその耳と尻尾を取ったら俺がズボンを穿いてやろう」
「……取ろうとして取れるものじゃないよ」
そこまでコスプレに情熱を込めているのか……。
俺もズボンを穿かないことに情熱をかけるべきが否か……。否だな。
「ええい、取るがいい! そのネコミミ!」
「虎だよ! トラ!」
「……トライオン」
「トラとライオンを合体させないで! って、イタイイタイッ!」
耳と尻尾を同時に引っ張るが取れる気配がない。
……どういうことだ!
「ええい、殴らせろ!」
「関係ないよね!?」
確かにそうだ。短絡的になるな俺。
きっとこの子は接着剤か何かで尻尾と耳をつけてしまった哀れな子羊に違いない。
「……もう行くよ。授業に間に合わないから」
「待て待て。俺を保健室に連れて行く約束だろう!?」
うげっ、という表情をする少女。
何と失礼な奴だろう。
「……じゃあ、こっち」
「俺に親切しておくと何処からともなく現れた美形男子に会えるからな!」
ちなみに影流の事です。
しかし少女は釣られない。
無表情で保健室を案内――って校内は危ない! 下穿いてないから! 穿いてないからヤバいのさ!
「……他にどうやって保健室に行くの」
「そうだな。窓から侵入とか」
「絶対に、イヤ」
そうか。仕方がない。
「窓ガラスは割っておくべきだったな」
「窓から侵入ってガラスをすり抜けるって意味だったの!?」
おいおい、すり抜けの術は使えないぜベイビー。
「ちょっとした人畜無害の冗談だ。笑顔でスルーが吉」
「……じゃあ、行くよ。靴脱いで」
「これ以上俺の下半身から物を取らないで! あ、すみません、脱ぎますから無言で行かないでッ!!」
これはスルーしちゃいけないよね!? 全てスルーすればオッケー何てことじゃないからね!?
ここまで俺を追いつめるとは、この世界の人間は強い奴等ばかりだな。
靴を脱ぎ、ズンズン進んでいくと保健室の三文字が見えてくる。
「じゃあ、ここだから」
「ちょっと待て。お前も傷だらけだろ」
アレほどの蹴りや拳を毎日受けているのならば、よほどの傷があるに違いないという予想をしつつ言う。
「……見える傷は、ないから」
「から?」
黙って背を向けて何処かへ行ってしまう少女。
くそう、あのネコミミ、もといトラミミめ。
俺に対する秘密を一つでも作ることが不敬罪に当たることを知らないのか!
「まあ俺は秘密ある男の子ですが。ふっふっふ」
保健室の扉を開ける。
むんっ、とした薬品のニオイ。懐かしいような懐かしくないような。
学校に入るのも何日、何ヶ月ぶりかはわからないのだが……このニオイは何年ぶりなのだろう。
「あら、いらっしゃ――」
固まる保険医。
一目惚れだろうか。
「……警察、警察」
ポケットから携帯を取り出し不気味な単語を呟きつつそれをいじくる女保険医。
「させんっ!」
手に持っていた魔王靴を投げ携帯を女保険医の手から弾き飛ばす。
……やった、当たった。
ネコ……もといトラミミ少女なのですが、少女の基準ってなんでしょうね。
歳? それとも、外見?
はたまた精神年齢とか。
まさかッ!! すべて無いといけないのか!