第445話『緊急事態発生、緊急事態発生』by海弟
……さて、と。
正直に言いましょう。
今日は昨日の分とあわせ二話更新です。
「配役は揃った……」
ボロボロの体。
誘わなきゃよかった奴が何人かいたせいでこうなってしまったのだ。
一応俺は要である魔王役だというのに。
こんな魔王なら子供の膝カックンで一撃死亡確実だ。
「ふ、まあ良いさ」
どうせ劇は劇。うそ臭い芝居で終わりだ。
俺の記憶には友情と努力と感動が植えつけられるのだ。
そう、完璧な作戦! 俺の手抜き以外を見れば完璧! よし、台本の確認だ。
衣装はすべて向こうの世界にある学校の演劇部からパクって来たから良いとして、台本を頭の中に入れておかなければいけない。
こればかりは時間をかけなければ無理だ。
全体の配役を知っているのは俺だけなので、簡単にイメージしつつ俺の台詞だけを口に出して――
って最後の方にちょびっとしかないのだけれども!?
「まあ、や~ら~れ~た~。を何とかできればいいんだろう。うん」
それ以外はどうでも良い。
さて、明日が楽しみだなぁ。
☆
良い朝だ。そして良い舞台だ!
目の前に広がるのは大きな舞台。
そこには最初の場面に配置されるはずの小道具が散らばっている。
まだ位置が決まっていないらしい、まあ昨日決定したのだから仕方がない。ギリギリまで考えてもらうとしよう。
「兄さんをここに連れてこられたらいいんだけどな」
きっと最高の劇になるぜ!
まあ……こっちの世界での配役は、兄さんの言うとおりに動くような奴等じゃあないから……そこらへん難があるな。
チラリと観客席の中央へ目を向ける。
俺もそこまで無謀ではない。事前の顔合わせぐらいはさせてやる。
そちらでは俺以外の、演劇をする為に集まってくれた全員だ。
勿論、俺が全員スカウトしたのだ。既に複数で練習をしている者もいるが……公演一時間前、無謀というものだ。
俺も昨日の夜だけで台詞を覚えたのであやふやな部分が多い……けれども非常識を楽しめないと演劇だって楽しくはないのだ。
台詞を噛んだり、台本にない動きをしたり……、それが物語を生むのだ!
と、兄さんに才能をすべて吸い取られたような弟が言ってみる。
きっと兄さんは真逆のことを言うのだろう。台本通りの完璧な演技。求められるのはそこなのだ、と。
イレギュラーも、それを補い余るだけの才能を持つ者が集まらないと高評価へか変わらない。
青空や影流はどうなのだろう。
俺的には良い思い出にさえなればそれで良い。魔王役なのだが、別に良い感じだ。
「ふむ、そろそろ着替えないとな」
本格的なものではない為、メイクなどなし衣装だけ。
その衣装も向こうの世界の学校から盗んで来たものだ。今頃学校内でパニックになっているに違いない。
この公演が終わったら、ただの布に戻して屋上に置いておいてあげよう。
「さーて、魔王の衣装は……」
鏡の中から取り出して、その手の係に渡したはずだ。
男用の更衣室へ入り色々と物色する。
既に何人か、着替えている人がいたが……そういう趣味はないので目を逸らす。
おかげで誰が着替えているかがわからない。
まあ知る必要などないのだが……。
「……そういや衣装の大きさは……」
普通の高校生サイズな衣装。
さて、どうしたものだろう。胴回りが大きな人ならば着れないし、逆に小さな人だとぶかぶかだ。
「……最悪、額に配役名を書いて舞台にあがってもらおう」
村人A、村人Bに割り振られた人には悪夢が待っているだろう。
まあ……それほど体の形が通常のそれを超えて余りあるような奴や小さい奴など誘ってはいないので大丈夫だろう。
「最悪でも、俺と青空と影流が――」
……あれ、おかしいな。
俺の手に取った魔王衣装。
何だか小さくなったように思える。俺が着れない。
「……ははは。俺と青空と影流が着れればそれで――」
入らない。
「ちょっと待て!? え、入らない!?」
太った!? いや、違う。
俺はまだ成長期だったのか……それも違う!
とりあえず額に『魔王』って書いて舞台には上がりたくない!
そんでもって「や~ら~れ~た~」は……意外に笑ってくれそうだな。
いや、待て。冷静になるな俺。それはこの魔王衣装の洗脳だ。
勇者と魔王、姫の衣装はこちらで保管されていたので手元にずっとあったのだが……。
「くっ、何てことだ!」
どうする。どうする俺。
その時閃く。
「ホンモノに借りればいいんじゃないか!」
アイツは俺よりも体が大きい。
だから入らない、なんて状況にはならないはずだ。
ブカブカでも『魔王』と額に書いて舞台に上がるよりかはマシなはずだ。
公演まで一時間。
さあ、タイムリミットは近いぞ俺!
魔王は演劇に参加しないので、まず見つけるところから……って、魔界に行かなきゃならないじゃないか!
しかも魔神と一緒!
うぉぉぉ、いきなり最大の壁が現れやがった!
くそう、壁はぶち壊すために――ってこれは鏡です! 割っちゃダメ――時すでに遅し。
よし、一度冷静になろう。
俺が割ったのは?
俺の手鏡。ちなみに転移用。
「魔王不在でも、演劇って成り立つよねっ♪」
「成り立つか、馬鹿」
そんな殺生な!
そちらを振り向けば勇者姿の影流さん。
コイツ……さては、成長していないな!?
「どうした? 早く着替え――」
「馬鹿はお前だ! この気持ちを食らえ!」
顔面目掛け拳を振るうが余裕で避けられる。
意外に拳って避けられると隙が出来るものなんだな。
「そうじゃない! 影流! 衣装が着れないんだ!」
「一応言おう。太ったのか?」
「……原因は……きっと、人の成長という奇跡にあるんだよ」
「奇跡は女の谷間にあるんじゃなかったのか?」
ん? となると俺には谷間が……出来ているはずがないじゃないか。
俺は男だ。
「どうする? 額に『魔王』と書いて――」
「それはイヤだ」
「……諦めろ」
「クッ、諦めない事! それ大事!」
……どうする。
どうする俺。
物凄く目の泳いでいるであろう俺に背を向け去っていく影流。
待って! と呼びかけようとして気づく。
「……あれ、もう一時間経ってる?」
そろそろ公演開始しちゃうよこれ。
やばいよ。本当にやば――
再び閃く。
「魔王の上着だけを着て……と」
下はトランクス、上は魔王の上着、それにマントとなっている。
そしてしゃがみ込み魔王の上着を膝に引っ掛け一気に踝辺りまで下げる。
これでチョコチョコとしか歩けないが着替えることが出来た。
「……ん? あれ、何か違うくないか?」
こんな魔王なら子供の先制右ストレートで一撃死亡確実だ。
開演のアナウンスが流れる。
……俺には迷う暇はなかった。
「……いや、待て。俺の出番は一番最後だ」
更衣室の扉を開き、遠目に舞台を眺める。
残念ながら壁があり、見ることは出来ない。
「……ギリギリまで考えろ、俺」
で、出番の順番的に考えれば間に合う!
きっと間に合うよ!
次が謎展開すぎるので、主軸コメディーちょいとギャク(え?)の関係での一話です。
もう自分自身で把握できないので読者様のほうで何とかしてください。




