第444話『こんな気持ち、初めてだ』by海弟
……主人公に……死の宣言!?
「影流ぅー! かぁげるぅー!」
「気持ち悪いな」
何だ、せっかくこのウキウキ感をお前の名前で表現してやったというのに。
失礼だろう!
「ところで影流さんよ。あ、ファンは仕事していろ」
執務室の中で大声をあげるのもどうかと思うし、ファンには……まあ聞かれてもいいのだがこちらを見ていると言いにくい。
一応、俺達が向こうの世界の住人であるのは秘密なのだ。
城内の奴等はいいとしても(一部を除く)、他の奴等に聞かれたらまずい。
こちらに振り向くも名指しされ渋々仕事に戻るファン。
影流の仕事の半分を分けるのならばコイツに任せてやったほうが良いと思う。
優秀な秘書には優秀な量の仕事を。
うん、全く意味がわからない。
影流の机の上に置いてあるチョコ(高級)を眺めつつ話題を切り出す。
「劇をしよう」
「……唐突、だな。どういう――」
「何をするか、など一年と半年前に決まっているだろう!」
それで気づいたのだろう、少しむっとした表情になる。
これは好感触。
「青空は参加してくれると言っていた。場所の提供もアイツだしな」
「あの馬鹿でかい劇場か。普段は演習場として使っているのだがな。まあ、この際仕方ないか。いつやるんだ? 衣装の手配とか色々あるだろう」
「明日だ」
きょとん、という表情に切り替わる影流。
そしてもう一度聞かれる。
「いつ?」
「明日だ。わからないのか? 明るいって字に曜日の日。つまり明日だ」
「字の説明をされてもな。まあ明日というのはわかる。しかし、無理だろう?」
都合のことを考えているのだろう。
はっはっは、このお間抜けさんめ。
「お前が今日中に仕事をすべて終わらせればいいだけの話だろう」
「いや、適量というのがあってな……。無理をすれば次の日に響く……聞いているのか?」
もう我慢できない。
「影流。一つ例え話をしよう」
「いきなりだな」
ふっふっふ、驚愕せよ!
俺の例え話のわかりやすさにな!
「九つ重ねて五つ崩すッ! 六つ並べて三つ食うッ! 俺の胃袋に収まれチョコよッ!」
「……なるほど。後半部分だけでいいな、その叫びは」
まあ前半はあれだ。
関係ない。
「しかし、生憎とこのチョコは向こうの世界から送られてきたものでな。とある旅行会社からのもので、異世界旅行というのを企画――」
「結論はどうなんだ! 俺は食えるのか!」
机を叩く。
「騒がしい」
「あ、ごめん」
ファンは仕事をしているんだったな。
「待てまて。まずは演劇――」
「お前が参加するのは決定事項だ。それはお前自身にも覆せない。そう、例え天地を創造した神だとしてもな!」
「もうお前自身がそれのようなものだろ。まあ良い、どの道、俺は参加するしかなさそうだしな……」
「それで?」
チョコの入った箱へと手を伸ばす。
「いや、だから待てって。この箱に入ったチョコは十個。つまり三人で均等に分けるとしたら一つ余るわけだ」
「俺が全部食べて解決だな」
「何故そこで全部お前が食べるという案が出てくるんだ」
熟睡した後は糖分を取る。常識だろう?
……俺の中での。
「どうしても一つ余る。だから二人か五人で割り振らなきゃいけないわけだ」
「一人か十人でもいいな。俺は一人で――」
「この場合、五人だな」
……そうなると……一人で食べれるのが――
「たった二個か!」
「十分だ。いや、十二分だ。糖分の取りすぎはよくない」
「それにしても少な――」
ファンのこほんっ、という咳に遮られる。
そして睨まれたので少し声を小さくして続ける。
「……少なすぎないか?」
「必死だな」
笑う影流にいつか天誅が下りますように。
ちなみに天誅とは暗殺という意味です。
……あれ、一気に無理っぽくなるな。
影流を殺せるような暗殺者なんているのか?
いないな。
「ま、まあ良い。ファンと影流がいる以上、二人というのは使えないのだ」
「俺的にはお前が来たから使えない、だな」
ぐぬぬ……。
だ、だがしかし……だ。
何か策があるはずである。
そう……そうだな。
「食べた者勝ち?」
「物騒な単語は好きじゃあないのだがな。お前、そろそろ死ぬんじゃないか?」
何で俺は死ぬと影流に予言されなくてはいけないのだ。
大丈夫、俺は死なない。
この城には一人で世の中を掻き乱せるだけの奴がうじゃうじゃいるのだから。
ちなみに影流もその一人だ。
「……あなたの特殊魔法で増やせばいいんじゃないですか?」
呟き。
そう、とある少女の呟きは……きっと神から与えられた最大級の褒美なのだろう。
俺が神に何かしたわけでもないのだがな。
いや、神は俺の子供なわけだから敬う心があって大変よろしい。
「影流、ファンが画期的なことを言ったな! ……あなたの特殊魔法で――」
「真似しないでくださいっ!」
酔っ払いのファンとは大違いだな。
いや、影流の前だからか? ふっ、まあ良いさ。
「夜眠れなくなるぐらい量産してやろう」
「間違えなく鼻血でるよな、それ」
鏡を取り出しその中に高級チョコを一つ投入する。
さて、こういう時に言うべき呪文があるのだった。
「ほんにゃらほんにゃら……」
「何だその呪文は」
「いや、一応道理にはあってますよ!」
「どういう道理だ、ファン」
ふっ、魔法の使える者にしかわからないのさ。
意味のない呪文も終わり、量産が開始される。
高級チョコが安物に変わる瞬間だ。
鏡の中から溢れていくチョコを何処から取り出したのか、皿に一つずつ盛っていく。
「早く食わないと溢れるぞ!」
「そ、そうだな」
「仕事中断しても――」
「良いから!」
せっせとチョコを口へと運ぶ二人。
おい、俺が食べれていないぞ。
しょうがない。
チョコを盛る際に俺も食べていき……ループが完成したのだ。
まずチョコを作るチョコ工場(鏡)。
そこからチョコを運ぶ配達員(俺)。
そして皿。そこに盛られるチョコ。
その盛ったチョコを食べる二人(影流、ファン)。
そう、胃袋の限界までコイツは続くのだ!
☆
「……ちょっと、死ぬな」
口の中が甘い。
……生憎と誰もいないので突っ込まれないが、一応自分で言っておこう。
「ちょっと死ぬって何だよ」
今、犬死ちゃんいないし死ぬのは危険だ。
『生死の門番』という二つ名通り、門番をやっている彼女は冥界(?)へ送らせたくない魂を跳ね返すことが出来るのだ。
つまり、犬死ちゃんのおかげで俺は瀕死の体に逆戻り!
けれども甘い。俺の治癒技術を侮ってもらっては困る。
まあそんな感じで犬死ちゃんさえいれば俺は無敵――
「グルルゥ」
隠れろッ!!
廊下の隅に隠れる俺。
あの龍に見つかったが最後、俺は最大のピンチを迎える。
影流の部屋で食べたチョコの匂いがしないか確認し、近くに置いてあったでかい壺の中に隠れる。
おお、俺がすっぽり入れるサイズだ。
「あ、ちょっと待て。出るときどうするんだ?」
立ってみる。
「グルッ!?」
やばい、見つかった!
おい、何で俺は立ったんだよ。見つかるに決まっているだろう!?
上半身は人、下半身は壺という意味のありそうでない、変態さんの格好をしている俺に飛び掛ってくる小さな龍。
クッ、逃げれない!
時間をかければ普通に壺の中から脱出できそうだが止むを得ない……割ろう。
壺に思いっきり内側から殴ろうとして気づく。
「……あれ、これハマってない?」
俺の横幅と両腕の大きさの合計により、見事壺のフチにハマってしまった。
入る時には気をつけていたのに、何でよ……。
まあこれで両腕が動かせない状態になったわけだ。
魔法でも使ったら自爆すること必須。
「……だ、誰かー!! 助けてー!」
俺のピンチですよー!
あーっ、来るな龍ッ!!
はい、影流の言葉など気にせず突き進む海弟です。
それと「影流ぅー! かぁげるぅー!」のとこは、自分で書いてて海弟気持ち悪いなぁ、などと思いました。
それと、海弟はどれほどの量のチョコを食べたのか。
作者には想像できませんね。という事は逆に食べていない……?
なるほど、海弟め、騙すつもりか!
だが甘かったな、食べていないというのは――
そうですよね、食べているのです。そう書きましたし。
さて、サブタイトルの説明しましょうか。
いらないと思いますが、影流に対する恋心と勘違いされたら困るのは海弟だからいいか。
うん、説明はこれで終了です。