第443話『明日だ、待っていろ……』by海弟
夜ですねぇー。
物凄く疲れた。
初期状態が寝不足というバッドステータスの中、神様探しをしようとして……青空に告白の返事をして……置いていかれて……逃げた。
現在俺の部屋なので当然この部屋にあるベッドは俺のものだ。
犬死ちゃんから置いていかれてしまったのでどうすることも出来ない。こうなりゃ寝るしかねぇ! というヤツだ。
やはりアレだよ。大いなる母は海とか大地とかじゃなく羽毛布団にあるんだよ。
寝心地の良さそうなベッドに潜り込むと目蓋を閉じる。
俺の体もそろそろ限界だ。
人というのは案外すぐに眠れるもので、もう睡魔がそこまで迫っているようだ。
さて、どんな夢をみるんだろうな。最近見ないから今日こそはという気分……もう無理、寝る。
☆
……あれ、朝?
……ああ、次の日ね。うん、明日と書いて『明日の――』ってもうどっちの文字も使ってしまったな。
起き上がると欠伸をしてベッドから降りると部屋の外に出る。
寝たときが制服だったし、このまま外に出ても大丈夫だろう。
「……って、あれ」
慌しく働くメイドさん。行ったり来たりを繰り返しているメイドさんを見てると、どうやら数人で何やら大きな仕事でもしているみたいだ。
ふむ、面白そうだ。見に行こう。
廊下を歩いていくと、その先は……俺の宿敵、あの小さな龍だ!
「フハハハハハッ!! ここで会ったが百年目ェ!!」
「グルゥ!」
ボグシッ
俺の鳩尾に食い込むように飛び掛ってくる龍。
見えていたのに動けなかった……だと!?
そのまま後ろにゴロゴロと転がり壁に頭を打ち付ける。
「クッ、まだ死んでたまるかァ!!」
「死ぬようなことしてないよね?」
「まあ、そうだな。うん、ところで青空さん、いつから?」
「さっきからいるよ」
……ほほう、さっきからとな。
じゃあ、この龍を止めて欲しかったな。
廊下の隅、と言っても食堂近くで龍の餌やりをしていたらしい青空。
餌やりされている龍と一緒にいるのも珍しいというか……前に聞いたのだがこの龍には猫みたいな放浪癖があるらしく、青空と一緒にいるのも稀だとか。
使い魔じゃなくペットなのだからご主人愛に目覚めろと……いつも思っていないがな。
「昨日はずっと部屋に閉じこもってたって聞いたよ。部隊の人達が仕事が進まないー、って」
「もうアイツ等に任せた」
「いや、ダメだってそれは……」
「んじゃあ俺の部隊に入隊したい奴等を募集するか」
「一人も来ないよ、あ」
……何だそのついぽろっと漏れた本音的言葉は。
しまったという表情をするが、もう遅い。
「入隊希望者を連れてこようじゃないか! というのは疲れるから心身ともに傷つけられたということで土下座を一つ頼む」
「まったく意味わかんないんだけど!」
ホンモノの女ならば黙って土下座だ! さあ!
……って、あれ? その拳は何で――
☆
数分間の記憶がない。
おかしいな。
「まあ良いっ。青空、俺は考えた!」
「良くないよ! ていうか自分の傷についてはスルーなんだね」
そういえば頭が痛い。たんこぶが出来ているぞ。
……ああ、何か掘り返していけない話題を掘り返している気がする。
これには触れちゃあいけない、過去の俺が言っている。
「まあ落ち着け」
「……海弟が喋らないのが一番落ち着けるかも。あ、海弟が居ない方のが落ち着けるね」
「名案だ、みたいな表情だが全然違うからな!?」
まあ話を変えよう。変えに変えて俺が話をしよう。
こほんっ、と咳を一度していらない身振り手振りを加えて説明する。
「劇をしよう!」
「え?」
「前に、全部出来なかったろう? 前と言っても一年くらい前だがな。どうだろうか」
いきなり何? って感じなのだが、俺には当然考えている事がある。
この世界に召喚されたせいで、完結させることの出来なかった劇。
だからこそ、この世界でもう一度……あの劇を。
残念ながら役者が三流以下で、台本だけが一流という低レベルな劇。
「やるなら今だろう? さっき思いついたんだから」
「私達以外の、他の人はどうするの?」
「俺の知り合いがいるぜ。この世界の」
「……そ、そうだね。えと、でも練習とか――」
「ぶっつけ本番という言葉を知っているか? 衣装は向こうの世界から借りてくるとして、あとは劇場だな。うん、学園にあるのを使おう! 青空手配頼んだ」
「……いつやるの? って聞いたほうが良い?」
「その質問の必要性は皆無だな」
何故なら明日公演だからな!
さて、影流に話を通しに行こうじゃないか!
「じゃあな青空! 配役はすべて俺が決める! そこは心配しなくてよいぞい! はっはっはっはっは!!」
ん? そういえば、あの子龍は何でもう帰ってきているんだ?
それほど近い場所に神様はいる、ということだろうか? 犬死ちゃんの説明だと遠くを示しているような感じだったのだが。
まあ良い、犬死ちゃんなら何とかなるだろう。
俺を置いていったのだからな、うん。
無理を矢理しました。
って言うか犬死ちゃんは……。