第441話『俺は忙しいッ!!』by海弟
影流視点、終了。
結局何がやりたかったかわかりません。
宝物庫。
迷宮となるそこは三つのエリアで分けられている。
「……っ、はぁ。いない」
溜息とともに吐き出す言葉。
時間があまりないので適当に探しただけだが、この宝物庫に残り一人であるバニーは居なさそうだ。
外に出て深呼吸すると、空に輝く月を眺める。
「……もうすぐ、日が昇りそうだな」
変な話だが、残りの一人はルールを守り行動しているのだろうか?
だとしたら何処にいる。
外も一通りは探したし、その場で隠れているのではないとわかってはいるが……。
「城内を探すか」
ルール通りに動いているのなら、その可能性が高い。
それに時間もかなり経ってきているので最初に中を探した兵士やメイド達が外を探し出している。
ここは彼らに任せて俺は城内を探す事にする。
☆
王室やその他、浴室などを探したが見つからない。
廊下の隅々まで探すわけだが、見つからない。
「っ、何処にいる!」
叫びが当然のように親切さで出てきてはくれない。
近くにいるかどうかわからないのだし、意味のない行動なのだろうが俺も追いつめられてきている。
こうなったら海弟にヒントでももらいに行こう――
前を見ると、頬を膨らませた青空が歩いてくる。
これは触れないほうがいいのだろうが、生憎と向こうから話しかけてきた。
「影流! 海弟が、海弟が!」
知らんぷりも出来ないだろう。
青空の話を聞くことにする。
「海弟はどうやら生粋の変態なんだよ、知ってた?」
「急に冷静になるな。と、言うか海弟が変態なのは周知されているだろう」
本人がいないので酷いことを言ってみたりするが相槌する青空もどうかと思う。
その後愚痴を長々と続け急に「帰る!」と言い部屋に戻っていく青空。
「……何が、あったんだ?」
兎に角、海弟にヒントでももらいに行くついでに様子を見てこよう。
☆
客人を泊めるような高級な家具の運ばれた大きな部屋の一つが海弟の部屋となっている。
右隣も左隣もいない、騒々しくしても問題ない場所に部屋を割り当てたのは俺なのだが何となく正解だったようだ。
たぶん、この光景を見たのが俺や青空以外ならば――
「そこにいるのは影流さんでは!? 助けろ馬鹿!」
俺の思考を遮るように叫ぶ海弟。
部屋の扉は無用心にも開かれており、そこから俺は室内を覗いているわけだがもうバレてしまったようだ。
しかし、助けてほしいのだろうにその意思が伝わるような伝わらないような……。
まあ、それはコイツに求めてはいけないな。
この形容しがたい光景。
バニーと騎士の殴り合いという奇妙な光景の仲裁をする為に海弟の部屋へ踏み入る。
とりあえず、ルールを守る二人目のバニーをタッチし捕まえた事にしてから抱きかかえる。
まだ少女、女の子と言っても良いぐらいの背の彼女は物凄く軽く、軽々と抱きかかえることが出来た。
「な、何するんですか? とりあえず、コイツは寝込みを襲いに来たケダモノなので心行くまで殴ってよいというルールが適応されるはずです」
海弟を指差して言う少女。
何だか何処かで会ったことがある気がするが、名前はわからない。
「おいおい、大怪盗マヤさん――」
「王の目の前で私の悪行をバラさないで、というか流れで認めてしまった!?」
「とりあえず、大怪盗って何だ? 海弟、この子は――」
誰なんだ? と聞く前に海弟がベッドの上に片足を乗せ天井を指差し言う。
「孤児になり教会で保護された可哀想な女の子……けれどもそれは彼女の一面にすぎないッ! 彼女は、そう! 夜の蝶であり大怪盗! あなたのハートも盗んじゃう、正義のドロボウ、マヤなのだ!」
よくわからんな。
「まあ、怪盗とかいう単語が並んでいたが悪い子じゃあないんだろ?」
マヤという少女の瞳を見て言う。
コクリと頷き微笑む少女。年頃の少女に相応しいその笑みは、何だかぎこちないような気がした。
「しかし、青空がお前を変態と言うのもわかるな」
「何!?」
ぶつくさと反省点を並べている海弟は俺達の事など見えていない様子なので、バニーを連れ中庭に移動する事にする。
長かったが、最後はとてもあっけなかったし少し楽しかったからよしとしよう。
中庭に戻ると、外を捜索していた兵士の一人が俺に気づく。
大声で人を集めていたのでついでにこれで鬼ごっこは終わりなのだと、教えてやる。
数分後、数名ほど欠けていたが全員集まる事になり無事に終了する鬼ごっこ。
軍団となった兵士にビビッて動けずにいるマヤだったが、終わると溜息を吐いてこちらにお辞儀をし何処かへ去っていった。
「……うーん、アレだな」
何だか虚しい。
虚しい、から……この虚しさを一度体験してしまったから。
もう一度、こういった騒ぎを求めてしまうのかも知れないな。
ふふっ、と短く笑い、俺らしくもない言葉を口に出す。
「虚しいからこそ騒ぎを起こし、それが終わると虚しくなる。だから、人生ってのは楽しいのかもな」
……まあ、それは俺の役目じゃあない。
近くに何もしなくても騒ぎを起こしてくれる奴がいるのだから、そこまで俺が背負わなくても良い。
任せたぞ、海弟。
☆
突然出たくしゃみ。
アレだ、マヤが俺のベッドを占領し俺の睡眠を妨げたのがいけないのだ。
青空と影流には変態認定をもらうし、何だかもうイヤになってくる。
しょうがない、これからは変態として生きよう。
ふかふかのベッドと毛布に身を包み目蓋を閉じる。
……ふむ、明日はどうしようか。
仕事は……面倒なので逃亡するとして神様探しのほうも何とかしなきゃあいけない。
「はあ、異世界にでも逃亡しようかな」
俺にとっての異世界は自由であるべきだ。
だから異世界に逃げる! ここも異世界だけれども逃げる!
などと考えていると、毛布とは違う重さに目蓋を開く。
「……ふっ、どうやら異世界よりも前に地獄に連れていかれそうだ」
「わたしです!」
あ、犬死ちゃんか。
黒ローブを何度も見てきた俺だが死神に間違えたのは初めてだぞ。
「どうする?」
「寝る」
「どうする?」
「寝る
「どう――」
「寝る」
「ど――」
「寝る」
「ど――」
「寝――」
「ど――」
……ちょっと待て。
俺がお前の言葉を遮るのはわかるが俺の言葉をお前が遮るなよ。
乗りかかり攻撃をする犬死ちゃんを退けて上半身だけ起こすと頭の中で話を整理する。
整理する話がなかった。
「どうする? ってどういう事だよ。一から説明してくれ」
「アレは昼食を仲良くメイドさん達と一緒に食べていた時のことです」
メイドさんの情報網はこんな小さな子供にまで伸びているのか。
恐ろしすぎる。
うっかり口を滑らせることが出来ないじゃないか。
「お父さんが神様を探している、と聞いて閃いたんです!」
「ほ、ほう。何か良い案でもあるのか?」
「わたしが位置を知っているから教えれば良い、って!」
ようし、殴る準備は出来ている。
大丈夫、この位置だから外すことは無い。
「そう、わたしは世界を渡る力と同時に――え、あ、お父さん? あふぅ!」
コメディーと同じぐらい変な部分がるので物凄く混沌とした最後になりました。
海弟視点ならば手の届くところも影流視点では届かない。
その代わり、影流視点でなければ届かないところは海弟視点では届かない。
一人称での視点変えは三人称の良さを上回る何かだと思います。
だから、自分は極力三人称で話を書かないッ!
追伸
第438話ぐらいから表記が間違っていました。
話の内容とサブタイトルは変わらないのですが、第○○○話の表記が……ね。
前にもこんなことがあったのですが今回は突っ込まれる前に直せたぜ!