第439話『思い悩むのは良いことだ』by影流
探して倒して連れて行け。
海弟が選んだバニー二人を追い、捕まえるという謎の鬼ごっこが始まり十数分。
ルールは簡単。
城内のみの鬼ごっこ、バニーにタッチしたら捕まえた事になり強制的に中庭へと送られる事になる。
その中でもやはり立ち入り禁止の区域は決められていて、宝物庫や王族の使う……俺達の使うような施設への立ち入りは禁止されている。
普通に考えれば城内にいる、という結論に辿り着くだろう。
海弟の持っていたバニーの格好で長時間外をうろつくのは、寒いだろうから。
「……まあ、海弟が選んだ二人だからな。何をやるか――わかんないよな」
俺が執務室として使っている部屋の扉を開く。
勿論、立ち入り禁止区域だ。鬼ごっこに参加していない兵士が二人、扉の前で佇んでいるが……やはりそんな事は関係なかったようだ。
「……チッ、何故バレた」
輝く金髪に長い耳。
片手にティーカップを持ったバニーガール姿のエルフの女性がソファに座っていた。
「……ディティさん、何やってるんですか」
「うん、年長者に敬語を使うのはよろしいよ。でもさ、バニーちゃん相手に遊び心なしじゃあ、大人にはなれないよん♪」
ドボドボ、と溢れるまで紅茶をティーカップに注ぐと、熱いはずであるそれを一気に飲み干すディティさん。
妖精としてあるはずの儚げや稀薄さが全く感じられない。
存在感バリバリだ。
とりあえず、こんな立ち入り禁止区域に入るのも海弟が選んだバニーだからだろう。
だからこそ相手にルールは通用しないと考えた方が良い。
つまりタッチしたって相手は言うことを聞いてくれるかわからないと言うわけだ。
「……動けなくして連れて行く、しかないか」
「へぇ、魔法も使えない小僧がね」
ピッ、と指先を天井に向け、そこから一センチほどの大きさの炎を出現させるディティさん。
正直、魔法というのは軌道さえ読めれば避けることが出来る程度のもの、と俺は考えている。
何処から来るかわからない、という初期状態から発動さえしてしまえば後は操作不可の魔法。
海弟のような、途中だろうと何だろうと摩訶不思議な能力的なもので軌道を変えられるのは厄介だが、避けさえすればこちらだって十分に対応できる。
「……何億倍の年の私に勝つと? 良いね、若気の至りってのは最高さ」
そう言い殺気……いや、魔族が放つ魔力に似ている。
似ている、のだが本質はまるで違うのだろう。
ただ、自らの持つ膨大な魔力を意識せずに使い続ける魔族と、限界を知り、その上で魔力を放出しているエルフ。
魔族には使い切ろうとも普通に使っただけじゃあ使い切る事の出来ない量の魔力を初期装備しているという欠点を克服するような……それ以上に強力な武器となる才能がある。
海弟の師、というだけあってこの人もかなりの魔力を持っているのだろう。
妖精の涙という水には魔力を上昇させる効果があるという事も聞いた。
けれども、この人は今の海弟には劣る。
「はぁ、ルールをいきなりブチ壊すなんて、あなただけにしてくださいよ?」
答えはなかった。
いっそう濃くなる魔力に、魔力を持たない俺の体が反応したのか意識が別のところに飛ばされそうになる。
「……本気ぶつけても大丈夫そーね。うん、その頑丈さ気に入ったわ」
指先に出現し続けた炎が消え、辺りが暗くなると同時に――雷撃が空気を切りながら俺の元まで突き進んでくる。
それを後ろに跳び避けると相手を睨みつける。
こちらにも、彼女(ディティ本人)から渡された武器があるが……使わずに済むと非常に助かる。
威力制御など出来そうにもない、本当に強力なものなのだから。
「部屋の中じゃあダメね。外に行きましょ?」
「逃がすと思うかッ!」
バニー姿のエルフに近づき顔面を狙い殴りかかる。
それを相手はしゃがみ避けると足を引っ掛け俺を転ばせる。
「逃げるんじゃなく、場所を変えるの」
めんどくさそうに、火球を壁へ向かい放ち破壊する。
その壁の向こうは中庭になっていて、兵士がたくさん入ったことからわかるように、かなりの大きさがある。
「追っかけて来てね♪」
「くっ」
急いで立ち上がり、もう見えないバニーの姿を探す。
やはり下に降りたようだ。
飛び降りるか、一瞬迷ったが下で待ち構えられていたら危険だ。
ここは階段で降りて応戦するのが正しい判断だ――
ふと、考える。
高さは受け身さえ取れば無傷でいられるような高低差だ。
相手に攻撃されるのを恐れ、一撃を受けることを躊躇い遠回りする。
強さが語れるとは思わない。
最初から最後まで説明できる強さがあるのなら、人は努力を好みするだろう。
けれども、夢や希望はあやふやで。
今の状況と同じだ。
誰かに、何かに、攻撃されることを恐れている。
それを躊躇い遠回りして、夢や希望や強さを逃している。
世の中にはチャンスの多い人間と少ない人間がいる。
平等だと言うが、平等ならば、人はこんなにも自分を嫌いになることは無い。
……一つ、海弟の生き方を真似してみようか。
アイツはどうだろう。
下にいる敵が、攻撃しようと待ち構えている時……自分を狙い、それを恐れている自分が居る時。
「……ああ、なるほどな。思ったより、アイツは単純なんだな」
自分の机の中から装飾の施された魔法石を取り出す。
この世界での俺の武器。
「魔族の伝える魔道――彼らは魔力を通し魔法に匹敵する武道を生み出した」
ならば、魔力の無い俺は……どうすればいい?
簡単だ、借りれば良い。この魔法石から。
装飾品は首飾りのようになっており、輝く魔法石が俺の首へぶら下げられると、体中に痛みが走る。
魔力を持たない俺が、魔力を使いこなせるか、と言えば使いこなせない。
そこは才能とかの問題じゃあない。慣れや適性だ。
それが無い者が、この痛みに耐えられる時間は一分にも満たない。
体がこの魔力に慣れようとして変化を起こすのだが、当然……体は悲鳴をあげ死ぬ可能性だってある。
「……敵がいるなら倒せば良いだろう。作戦など問わない、徹底的に」
こんな感じだろうか? ちょいと違う気もするが。
俺が思い切るには十分な言葉だ。
ふっ、ルールなどお飾りよォ!!
はい、バニー一人目はディティさんです。
最近出番の少ない彼女ですが、序盤の伏線に色々絡んでいるのでたまに出してあげないと……うん。
でも何故バニーかというと作者が脳内で妄想したいからであったりなかったり。
ちなみに、ディティの髪の色忘れたので金髪ということになりましました。
もう何でもいいやって気分です。