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第438話小動物的な鬼ごっこ

※干支、干支……と呟きながら書いていたらこうなりました。その点注意してお読みください。

二兎(にと)追う者は一兎(いっと)をも得ず、だな」


影流の横で頷く海弟。それを見て影流は思う。


「海弟、何で顔中真っ黒なんだ?」

「二兎は凶暴ってことだ。気にするな」


執務室に現在入り浸る海弟は何かから隠れているのだろう。

顔は真っ黒だがしっかりとそう書いてあるように見える。


影流は簡易にまとめられた書類のうち一枚を手に取る。


「海弟、お前の言ってた件について何だがな。調査結果だ」


無駄に長い文章で見つからなかった、という一言で語ることの出来る薄っぺらい内容がぐだぐだと書かれている紙を影流の手から奪い取り読み始めて数秒で床に叩きつける海弟。

しかし相手は紙。ふわふわと舞って落ちていくだけだ。


「読むの早いな」

「読んでない。お前なら見つかったらのなら、この場に連れてきてくれるはずだからな。優秀な王様よ」


気障っぽく言う海弟。

かなりの期待、というよりもそれが常識だとでも言いそうな様子だ。


「俺はそこまで優秀じゃあないさ。ところで、最初のは何なんだ?」


仕事などよりよほど気になることだ。


ワクワクでもドキドキでもない、ただの興味を海弟へ向けているとニヤリと海弟は笑う。

そして自身の持つ鏡を取り出す。


「ヴァニィィィセゥッツ!」


そう言い鏡の中に手を突っ込む海弟。


「……わかる言葉で頼む」


しかし、もう一度海弟が言う必要はなかったようだ。

出てきたのは……それはもう、確定的な、バニーさんの衣装。


「これは、何だ?」

「バニーガールのコスプレ衣装だ。ちなみに、特注品」


何処で手に入れた、と突っ込みたかったが我慢する。


「何をするんだ?」

「全貌を語るのはよそう。しかし! ただ一つ言えることがある!」


無駄にでかい男である海弟が叫び、言う。


二兎(バニー)を追って捕まえろ! 城中捜索大作戦ッ!」

「……嫌な予感しかしないのだが?」

「気のせいだ」


再びバニーコスプレを鏡の中に仕舞う海弟。


「まあ結果的に士気力増加を狙ったものだから安心するが良い!」

「士気力って何だ。戦争でも起こす気か。生憎と俺は賛同しないこと――」

「作戦の一端に触れた程度で反対してもらっては困るな!」


言葉を遮られる。

その遮った海弟はと言うと、影流の使う机とは別の平べったく頑丈そうな長方形の形をした机の上にいつの間にか乗っていた。

もはや演説者気分だ。


「この作戦の重要な部分はバニーだ! それ以外の何でもない。バニーが見たい、それだけなんだ! 後のものは飾り!」

「……ああ、うん。どういう経緯でそういう気分になったかは知らないが、やめておけ。青空に殺される」

「心配するな。追う者と追われる者は常に対立しているのだよ」


影流には理解できない境地に海弟はいた。


「ま、簡単に言えば鬼ごっこだから安心しろ。追う者が鬼、バニーが逃走者」

「もうわけがわからないんだが、許可しないぞ」

「男の希望を打ち砕くキサマ……さては女だな!」

「いや、俺は男……。わかってて言ってるだろ」


呆れつつ、溜息を吐く影流に人差し指を向ける海弟。


「天の叫びを聞くが良いッ! 胸の谷間は奇跡だと、お前は聞こえないのか!」

「奇跡ほどの価値があるという意味か? それなら胸のある女子はミラクル連発中だな」

「そのミラクルにやられてしまえ!」


最初からわけがわからないのだが、もうこれ以上混乱したくはない。


そう影流は思い、一度だけ首を縦に振る。


「……俺と、お前で、ルールを作ろう。それで鬼ごっことやらをやろう。これで良いんだろう!?」

「わかっているじゃないか」

「良い意味でも悪い意味でも、一度決めたことを曲げるような奴じゃないからな、お前は」

「最初から曲げた考えを持っているから不要なんだもんな!」


影流は否定出来なかった。


「まあ、バニーと追う者衣装はダメだぞ」

「……亀さん衣装で妥協するか」


何処からか取り出す海弟。

見事な甲羅のついた亀さん衣装だった。


「だからお前は、何処からそんなもの手に入れているんだ!」

「製作者が名前はNGらしいのでな、言わない」


――確かに、名前を出したくは無いだろう。


影流は思う。

けれどもそれ以上に――


――そう思うなら作るなよ。


と思っているのだった。


「ま、俺に任せろ!」

「……お前は悪い方向にばかり俺と青空を引っ張るんだな」


元が優秀すぎるんだよ、と海弟は言い既に海弟が考えたルールの書かれた紙を取り出す。


――優秀だとか、平凡ってのは、何の基準にもならないんだがな。





ひゅうひゅうと風が吹く中、中庭に(たたず)む二人。


「……夜中だぞ」

「ああ、夜中だ! けど、(バニー)はそれでも逃げる」


えっ、という表情で海弟を見る影流。

基本に忠実に、逃げる者を二人に、ここで特別なルール、追う者を城中の兵士全員という、変則的すぎる鬼ごっこが始まる。


影流はこれで素早く終わる、と思っていたわけだがここで再びバニーが出てくるとは思わなかった。


「お、おい。それはなしだろ?」

「逃げる側が着たいと言ったからこうなったんだからな?」

「……逃げる側、確かお前が決めるんだったな」


今更ながらに後悔していると、ぞろぞろとスタート地点である中庭に集まってくる兵士達。

その中にはメイドやら執事やらまでいるが、まあ使用人まで面白がって参加しているのだろう。


「褒美の影流が青空のキスが効いたのか」

「おい、兵士達に伝えるのは俺の役目だったんだが、何で褒美がいつの間にか出来ているんだ!」

「やる気なさそうだったからな。うん、今日のバニーちゃんは一筋縄では捕まえれないぞ☆」


溜息を吐いていると、中庭内に青空の姿を見つけ影流は安堵する。

それ以前にバニーの格好をしたいなどと奇天烈なことを青空は言わないのだ。


そうなると、今回逃げる側になる人物も結構絞れてくる。


そんな阿呆なことを言う奴は――


「……海弟の周りにたくさんいすぎる。普通だったら絞れるはずなんだが」


何だか途轍もなく理不尽な気がするのだが、影流は頭を横に振り考えを頭の隅に追いやる。


「そういや海弟、逃げる奴のスタンバイは出来ているのか?」

「ああ、バニーは中庭スタートじゃなく、城内の俺の指定した場所からのスタートになっているわけだが……ふっ、安心しろ。スタート時刻と逃げる事のできる範囲だけは伝えてある」

「……そうか」


……もうなるようになれ状態である影流は開始時刻を待つ。

兵士が勝つか、海弟の手配したバニーが勝つか。


「にしても、青空も探す側に回るんだな」


青空の周りにいる人物、と言えばやはり。


「メイドにでも話を聞いたんじゃないか?」

「ほう、そうなると報酬の影流のキス目当てか」

「何故そうなる」


擬似夫婦をやるだけで十分だ、とばかりに海弟と距離を取る。


すると、城内から響く、低い鐘の音が中庭にいる全員の耳に届く。

それと同時に海弟の声も。


「ほら、何してるんだ? スタートの合図が出たんだ、全力で探せよ」


いつの間に細工したんだ? という思考がぶっ飛ばされるほど慌しい兵士達の移動。

各自持ち場などを決めていないらしい。当然だ、今日思いつき、今日開催した大会。作戦を決める時間などない。


影流は兵士に巻き込まれないようにしながら、海弟の傍まで移動する。


「ふむ、影流。制限時間は何時間だっけ?」

「……日が完全に昇りきるまで。詳しい時間は決めていなかったろう?」


自分が海弟に感化され始めているような気がして項垂れている影流を励ますかのように声が聞こえてくる。


「あ、ちなみに、バニーが一人でも生き残ったら影流は裸で城下町を一周する事になってるから」


励ます声ではなかった。


「……なあ、俺にも参加資格はあるよな? 当然」


もうどうでもよくなってきた影流は最終手段を実行する。

もう彼を止める者はいない。


しかし海弟はそれを待っていたとでもいうかのようにニヤリと笑う。


「当然、ある!」

「……二人、いや……二匹とも見つけて捕まえてやるッ!」


意気込む影流。

勝っても負けても何も得られない彼だが、何も失う事がないのだ。


そう考えると、青空も似たような事なのかも知れない。


「んまぁ、逃げるだけならプロの人いますし俺的にはバニーもう見れたからどうでもいいんだよね」


三人称は、苦手です。


……ええ、小説的なもの書いてきて長いですが、いつまで経っても三人称が苦手です。利点を活かしきれず悪い点を最大限に活用してしまっています。


なので、次から影流は一人称でいきましょう!

ええ、決断し決意し決別しました(オイ



ふむ、影流の一人称か……ドキドキする。

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