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第437話『毎回呆れさせられるんだけどね』by青空

青空と土下座を避けるが為に、青空さん視点で書くという素晴らしい機転。

……うん、海弟って他人から見てたほうが書きやすいからという理由もあるよ。

『知ってますかー?』


メイドの一人から聞いた話。


『二階にある女子トイレからふらっ、と現れて『お父さんどこー!』って彷徨いあるく亡霊みたいな女の子が城内にいるらしいですよ』


そんな何処にでもあるような怪談話を真に受ける人間なんていないだろう。

と、いうか。少なくとも私は信じない。


この世の不思議は待っているだけでは迫ってこないことを知っているから。


海弟みたいに向かって掴んで叩き落して、それぐらいしなきゃあわかんないことばかり。


学園長なる仕事の合間、昼の休憩のような時間なんだけど私は城内を歩いていた。

食事の時間は終わったし、少し散歩でもしようかと歩いているわけだけれども……とっても不思議な……なおかつ奇妙で珍妙な光景、というか人を見た。


「腹ペコの娘を放って拉致されたお父さーん! 今すぐ出てきなさーい!」


ふらふらと中庭を歩く少女がいた。その格好は黒いローブと、存在そのものを消してしまうような暗い印象のもので……何だか関わったら不幸になりそうな感じの人だ。

けれども、何だか同情とは違う親近感が沸き、私はその子に話しかけるため中庭に(おもむ)く。


城内から中庭を眺めていたわけだから五分ぐらいの間があったのだけど、幸いにして彼女は移動していなかったようだ。

いや、行き倒れしているのだから当然か。


中庭でも場所を選んだのか芝生に倒れている少女の前に座り息があることを確認する。


「……うん、死んでない」

「いやぁ、神は死なないよ。生死の門番が死んだらそれこそお笑いだよ」


気は失っていなかったらしい、生気のない瞳をこちらに向け『お嬢さん、わたしは乞食(こじき)です。何でもいいので食べ物分けてくださいな』とでも今にも言いそうな表情で私を見つめている。

かなり怪しい。


むぅ、と睨むように視線を交差させていると、急にお腹の鳴る音に二人の集中が遮られる。

その鳴ったお腹を叱るかのように芝生の上をもぞもぞと動きながら立ちあがる少女。


「……お腹減った。けど、お父さん見つけなきゃ」

「な、何だか感動物かも」


決意する娘。父親を探し城の中に侵入するも第一の敵空腹にやられそうになる。

しかし! 彼女は負けない! ふれーふれー、えと……?


「あの、名前は?」

「犬死ちゃんです! あんまり言いたくないけど焼死体犬死ちゃんでも通ることもあります!」


焼死体が苗字なんて変わってる。それ以上に犬死ちゃんが名前なんて変わってる。


……どちらを先に突っ込むべきか。

海弟ならばどうするだろう。うん、無視だね。それ以上に海弟のネーミングセンス並みの名前だよね。


私も立ち上がり、ちょっと犬死ちゃんより高い目線を同じぐらいに調節してゆっくりと話す。


「私も探してあげる! 二人で探せばお父さんもきっと見つけてくれるし……それに、こんな可愛い子を置いてどっか言っちゃうお父さんなんていないもん!」

「ありがとう」


少し照れたように笑いながら言う少女の表情は、やっぱり可愛い。


真正面から見なければわからない少女の顔に不安は浮かんでいない。

だからこの子は強い子だ。


私なんかよりも、数倍強い子。

支え、支えられる価値のある……ただの足手まといじゃあない。


首を振って思考を頭の隅へ追いやる。

何だか自分がすごく惨めなように思えてきて、(つら)い。


「それで、お父さんの名前を教えてほしいな」

「海って字に弟を付けてかいで、と読む。そんな字面の名前に不敵な笑みを浮かべイヤらしいことをいつも考えています。ちなみに良い意味で」


良い意味でイヤらしいことを考えているって何だろう。

それ以前に海に弟をくっ付けた人なんてこの城の中で一人しかいないと思う。


もう昼なわけだけど、一部夜の部屋で徹夜をしているお馬鹿な人が。


「えと、こっちかな」


案内しつつ考える。


海弟がこの子のお父さん……ってどういう事だろう?





「おー、兵士に止められていたのにスムーズに城の中を探索できる!」


ぴょんぴょん跳びはねながら私の横を歩く犬死ちゃんの歩くペースにあわせて歩いていると、奇天烈な叫び声が聞こえてくる部屋が見えてくる。


『クハハハハハッ!! ソース? いいや、コイツはしょうゆだぜ!』

『隊長! よくわかりませんけどそれはインクです! インクが書類にこぼれてます!』

『うわぁ、カーペットまで染みちゃってないこれ』


とりあえず、その部屋を素通りして少し気分転換でもしてみようと思う。


そんな私の心のうちを知らない犬死ちゃんは、興味でも持ったのかその部屋の前で立ち止まる。

この年の女の子なら、危機察知能力とか何とかで変なものに興味を持たないと思うけど……何だか嫌な予感はしていると思うし。


「お父さんの声だ」

「……あ、うん。そうだね、うん」


私の複雑な心境、何て関係なかった。

それは純粋な親子の愛! 少女漫画にだって匹敵する!


海弟と犬死ちゃん、二人の――


「あ、でもでも。この扉開かないよ? 向こう側に何か置いてあるみたいだし」

「えっ? 引きドアじゃあないの?」


試してみる、とばかりにドアノブを引く犬死ちゃん。

残念ながら、こっちの世界の住宅事情はそれほど人に優しくないのだ。


と、言うか細い路地にも扉が付けれるように、全て扉は内側に移動するようになっているのだ。

この世界なりの工夫なのだろう。向こうの世界じゃあ考えられない。非常時とか適切な判断が出来ないから、なんて理由で押したら出れるようになっているわけだけど。


「扉なんて飾りなのに、何を遠慮する必要が……」


ぶつくさ言いながら、何処からともなくその体に似合わぬ大きさの鎌を取り出す犬死ちゃん。

海弟に慣れたからか何故か素直に驚けない。


大体、城の中で篭城するなんて意味不明なことをするような人の近くにいたら普通の人なら慣れるに決まっている。


思考に没頭していると、土煙と風圧が私を襲いそちらに視線を向けさせる。

そこにはちょうど人が一人通れるぐらいの穴があった。


そこから視線を少し右に移動させれば、犬死ちゃんが鎌を消しているところだった。


「……えと、建物を壊すのはよくないよ。海弟もいっつも怒られてる――」


ああ、やっぱり親子なんだなぁ、って思うよ。


「って、待ってよ! 私はどうなるの!」

「錯乱しているところ申し訳ないのですが青空さんや。トイレじゃないんだから壁を壊すなよ」


目の下に隈が出来ている海弟が穴の中から現れる。

その格好だけ見てわかる。不健康だ。絶対不健康。とっても不健康。


後ろから顔面が真っ黒に染まった二人の海弟の部下さんが出てくるわけだけれども、私の姿を見るなり二人とも敬礼する。

その光景がおかしくて笑いそうになっちゃうのだけれども、私は何とか堪える。


「何だ? 何がおかしい。というかいつからそんな腕力を青空が持つように――」


犯人が私ということになりそうなので指を指して真犯人を教えてあげる。

私の指に沿い、視線を移動させる海弟。


「……ああ、忘れてた」

「そ、それは酷いよお父さん! 女子トイレで待ち合わせと言ってたのに!」

「青空に拉致されたのだから仕方がない。メイドさん達にあの後リンチされたのはもうトラウマだぞ」


そのわりに元気そうにしてるね、海弟。

何か反省しているように見えないのだけど。


(いぶか)しげに見ていると、びくりと体を反応させ私の両肩を掴み震えながら私に一言、丁寧に言葉を伝える海弟。


「俺は、悪くない」

「真犯人は私でも、犬死ちゃんでもないよね。うん、海弟だよ」

「何故に犯人扱い!?」


後ろにいた二人の部下に連れ去られていく海弟。

何か叫んでいるけども、うまく聞き取れない。


「お、お父さんが……犯人だったなんて」


わなわなと震える犬死ちゃん。

ちょっとやりすぎたかな、という気持ちも芽生え始めた頃、顔をあげニコリと微笑み言う。


「何か面白い!」


海弟の周囲にいる人達は常識の『じ』も知らないんだね。

私も段々感覚が麻痺していってる感があるし、海弟ってやりすぎなんだよ。


海弟がでっかいことやって、それに釣られた私達が小さなことをやって。

そういうのが繰り返されていって、段々麻痺しちゃうんだよ。


久々に海弟のことをマジメに考えて頬が熱くなっていると、後ろから冷たい手で両頬を挟まれる。

犬死ちゃんかな? と思ったけど腹ペコなのかその場にうずくまっている。


誰?


「孫の見物しに来たんだけど、ココであってる?」


……。


もう溜息しか出ない。


「あってますよー。勇者様!」

「ちょっと青空ちゃん投げやりー。まーいいや、孫はどこよん♪」


浮かれてるなぁ、この人。


何だか、もう。ね。


「あの、それよりもインク臭くないですか?」


……最後の一言は、アレです。

オチが寂しかったので思い出させてあげたような感じです。


とりあえあずインクはこぼすな、墨汁も! という名言を残して後書き終わり。

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