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第434話『なるほど、未来の俺が過去の俺を。過去から未来じゃなくな』by海弟

これで復讐編的なものは終了ッ!

「紙切れ一枚とは、また」


手に取ってみる。

何やら文字が書いてあるそれだが、生憎とこの世界の文字は俺には読めない。言葉は通じるのに不便すぎる。


しかし、英語が話せないと生きていけなくなるぞ! と言われている最中で、こうも日本語ばかり話す奴がいる異世界が出てくるとなると何か怪しい術でもあるんではないか? と疑ってしまう。

まあ、現在疑ってもしかたのないわけで、英語ダメダメな俺が現実逃避するのに最も最適なこの紙切れを誰かに読んでもらおうと思うわけだが、周囲にいる執事さんは俺を襲う気マンマンだ。


「……犬死ちゃん、読める?」

「……三年待ってくれれば、こっちの文字習得します!」


遅い! あまりにも遅い!


心の中で突っ込みを入れていると、神々しさすら感じるドレス。何処かで見たことあるようなドレスを着たお茶が現れる。


「お母様から、立ち入り禁止だと言われていたのだが……緊急事態だ! 何故逃げる、海弟よ!」


ふむ、居るな。

読んでくれそうな奴。


お茶の目の前まで近寄ると、文字の書かれた紙を手渡す。


「えっとさ、読んでくれ」

「……ん?」


俺の渡したそれを見て顔を赤くするお茶。


「……ほ、本当に、読むのか? えっと、いいのか?」

「良い。早く読んでくれ」

「こ、これほど人がいるところで……とは」


こほんっ、と咳をすると大げさにも両手で紙を持って書いてある文字を言葉にして言う。


「この書類を見つけた時点で、海弟へリティニアへの名付け親、つまり夫になる権利を――」

「ふむ、手鏡は……と」

「待て! 読めと言ったのはお前だろう! ん? あれ、お前はこちらの字は書けないし、あれ?」


イタズラが過ぎるぞ、ママ茶。


溜息と共に『鏡』と短く口の中で呟く。

これで世界と世界が繋がった。


「犬死ちゃん、場所は女子トイレだ」

「……確かに、鏡の配置は変わらない。けど男子トイレでも良い――わたしへの考慮だね!」


おう、俺への考慮です。


犬死ちゃんが転移したのを見て一人で騒いでいるお茶に言う。


「あの魔法陣。きっとお前の手助けとなる。俺を追いたきゃ時を越えろ!」

「……へ?」


追おうと辿り着けないのが俺だがな!


はっはっは!





「……君のその微笑(ほほえみ)が嫌いです」

「……いや、海弟。今回どっちが悪いかなんて明らかだよね?」


メイドさんに連れられ来た先は、良い笑顔の青空さんの元でした。

ええ、土下座ですよ。許してもらえないのは確定なのですけどね!


「い、いや、アレだよ。決して下心があったわけじゃあなくてだな――」

「ううん、いいの。きっと海弟をたくさん殴っちゃえばこんな気持ちは晴れると思うし、それで解決するなら手っ取り早いと思うから」


よくないです。しかも俺は殴られるの?

おいおい世界の救世主に対し殴る?


よし、右頬を差し出そう。


「し、死なない程度に頼む」

「無駄に頑丈な海弟だから、本気でも大丈夫だと思うの♪」


まあ、青空の拳なら何発でも耐えられる自信は――って、いたっ!

誰だ今蹴ったの!


チラリと見れば俺をココに連れて来たメイドさんの片割れだった。


「みんな、本気でいくよ!」

「えっ、ちょ。ここにいる奴全員で俺をリンチですか!? やめてくれ青空さ――ただの覗きじゃないか!」


俺の叫びはどうやら届かなかったようです。





ボロボロだ。

突然現れた影流に助けられ、そのまま青空のところから立ち去ったわけだが、やはりと言うべきか(いぶか)しげな瞳で俺を見る影流。


「……ええ、はい。経緯を話しますよ。長くなるから覚悟しておけ」

「まだ何も……まあ、話してくれるとありがたいな」


異世界に行っていたことから何処に戻ってきてどうして青空に蹴られ殴られしているかを報告する俺。

その中で犬死ちゃんがいないことに気づく。


「ふむ、同情してやりたいような話なんだが最後の最後でやらかしたな。馬鹿か、お前」

「男ならわかるだろう! 俺は俺の為にだな――」

「まあ終始一貫してお前はお前の為に動いている、がな……」


俺の言葉を遮り言う影流。


「もうそろそろ、世間体(せけんてい)を考えてから行動するようになったらどうだ?」


……どういう意味だろうか?

俺は天地も驚き風雨を纏う、そんな偉業を成し遂げてきたのに。


「影流。俺は頑張った。物凄く頑張った。これ以上何を頑張れと言うんだ」

「……いや、考えてもみろ。その放浪癖のせいでお前は風来坊(ふうらいぼう)同然だぞ? 新規の兵士に顔向けが出来るのか?」


出来るか出来ないか、そう聞かれたら出来ると言おう。

力を示せば俺のことを認めてくれるさ。


「この世界に戦争はない。だからこそ、騎士の数は少なくていいんだ。だからこそだな――」


何だろう。


「――お前もしっかり、働かないとな」

「えっ」

「……お前、いくら顔見知りだとしてもぐうたら寝転がって騒いでいるだけだったらクビだぞ?」


影流よ。どうやら俺の本気が見たいらしいな。

ふっふっふ、ふっはっはっは!


「ようし、影流。俺に仕事をよこせ! 三分で解決してやろう」

「明日からな。もう夜だし」


俺がやる気なのに何てことだ。

こうなったら明日まで寝るしかないだろう。


俺の表情を見てか影流が言う。


「ま、仕事がないかあるか、と言えばあるな。お前の部隊に割り振られた部屋に行ってみるといい」

「今から寝ようと思ったのに何てことを言うんだ。行ってみるとしようじゃないか」


影流を連れて。





書類の束。書類の束。


俺の視界を埋めるそれは、異常な数だ。

溜息がでてしまう。


それに触発されたのか知らないが、紙の雪崩が起き、部屋中に舞う書類たち。


一枚を手に取り内容を読む。


「……ふむ、始末書か」

「書類仕事だな。重要なものからそうでないものまで、全部こなしておいてくれ、らしい」


らしい、とは何だ。らしい、とは。


「ファンに一人で背負いすぎだ、と言われてな。俺の直属の部隊だし、海弟達に半分ほど任せることにした」

「……え、と。これが半分? 馬鹿な、この二倍をいつも影流はこなしていただと!?」


何だか人間じゃあないものを見ている気がする。


「一ヶ月の期間があるからな。楽な仕事だよ、ほどんと椅子に座っているだけだし」


余裕の表情で語る影流。

これは負けてられない、一日で終わらせるしかないだろう。


「部隊の連中を起こしてくる!」

「おい!」


もう真夜中と言って良い時間だ。迷惑になるだろう。

なるだろう、が。隊長の命令は絶対だ。


「……アイツに仕事を与えちゃいけないな。ジッとしてもらっていたほうが良い」


ジッとして書類仕事をやろうと言っているんだ。

俺の行動は間違ってないんだよ。


青空と影流との絡ませ方が何だか違うような気がする。

試行錯誤していこう。今後、長い時間一緒にさせる予定だし。


元々合わない性格だったのかな。まあ良い、海弟が適応すればいいだけだ。

逆になる可能性のほうが高いのだけど。青空さんなんて半分ほど染まっているし。



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