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第433話過去と未来の王女様

さて、サブタイでネタバレ的なことをしてしまったな。

全て話し終わると、ニコリとこちらに微笑むママ茶。

彼女としては気分の良い話ではないはずだ。自分が死んだところから始まり、最愛の人が戦死し、娘は逃亡。

それ以降は、俺と協力し……仇討ちを行ったことの説明となったのだが……やはり気分は晴れないだろうに。


それでも微笑むことの出来る彼女は、優しいというよりも……それ以外の感情を知らないような。

まるで人形。ある種の狂気に満ちているように俺は見えた。


人ならば、怒ることもあるのだろう、悲しむこともあるのだろう、楽しい時には笑い、気分の悪い時には(わめ)き、様々な表情を持つものだ。

それで心を表していると言ってもいい。


けれども、彼女は優しさ以外の感情を持っているように見えない。


『リティは、今……強く生きていますか?』

「少なくとも弱くはないさ。強風一つで折れそうな強さ、かな。だが、まあ……この世界に現在リティの敵は存在しない。安心して死ね!」


それが強いのかはわからないが、俺なりに考えて出した言葉だ。

普段は使わない配慮などをする俺を過去の俺がみたら、滑稽(こっけい)なことだと笑うだろう。


今の俺のほうが強いとも知らずに。だから俺と過去の俺で一緒になって笑うに違いない。


そんな想像をしていると、ママ茶の口が開く。


『死にたくはありません。けれども、この時を待っていたのでしょうね。わたしは、この能力故に自然と死から遠ざかっていました』


淡々と語られる言葉に耳を傾ける。


『しかし、わたしは……優しすぎた。自ら選んだ道なのに、優しい母親になると誓い……進んだ道なのに。優しすぎたんです』


懺悔にしては、後悔していなさそうな表情のママ茶なのだが、自分の中にない感情を……必死で形にしようとしているのだろう。

感情が形になるはずもないのに。必死になっている。


『リティは、強くならなくてはいけない。わたしよりも、きっと強く育つ子なのだから』

「お前の過去など知らないが、というかお前とは初対面なのだがな。ほっといても子は育つぞ」


子育て暦が一ヶ月もない俺だが、既に悟りは開いた!


「ただ、親の真似して子は育つからな。愛情ってのも気が向いた時に子供に向けてやれよ」


俺からの最後のアドバイスだ。

ママ茶が死ぬ前に、何かお茶の記憶に残ることでもしてやってほしい。


けれどもママ茶は阿呆なことを言った。


『あなたは止めないの? わたしが死ぬ、そう言っているのよ?』

「止める必要などあるか。むしろ死ねと俺が言おう」


じゃなきゃ、お茶が復讐をしようとは思わなかったし、俺が強さを見つけることが出来なかった。

俺の都合が悪くなるじゃないか。


『あの人と一緒ね。最初、あの人はわたしに「化け物め、死ね!」と言ったわ。懐かしい』

「随分と素晴らしい性格の王様だな」


娘を持つと、こうも性格が変わるのか。

それよりも第一印象がそれでよく結婚したものだ。


『じゃあ、そろそろ帰り――』

『早い。早すぎる。お母様、少し待ってはくれないか?』


俺の目の前に、(きら)びやかな衣装を身に纏った女性……お茶が現れる。

これで、確信に変わってしまった。


この魔法陣は、過去と未来、現在を繋ぐゲートになっている。

そして、何らかの力が働き『神と同等それ以上』の力をこの魔法陣に与えているのだ。


だからこそ、簡単に他の世界の神に探知されることはない。


『すべての時間に向かうのは疲れたが、やっと会えた……。お母様! ……それに海弟』

『……あらあら、リティ。あなた……』


その姿を見て、涙を流すママ茶。

自分が死んだ後の、娘の姿なのだ。


「……強いだろう?」

『ええ、物凄く。それよりも、過去から……この時間へ、来たの?』

『……はあ、私は才能がないのでな、過去にしかいけない。お母様は知っているだろうに』


くすくす、と笑う二人を見て思う。


こりゃあ俺の出番はないな。


犬死ちゃんを連れ、上へ戻るための階段を目指す。


『海弟、待ってくれ! お前とも話がしたい! お前は身勝手すぎる! 私は……』

「知るかッ! 俺が行くのは当然だ。俺は強さを手に入れた。だから、戻らなきゃいけない場所があるのさ」


その世界が、俺の常識を破った世界だ。


『それじゃあ、わたしの願いは聞いてくれるかしら? 少ししたら、この場所に戻ってきて欲しいのだけれども。あなたにお礼をする約束だったでしょう?』

「いや、もうわかったから。いいよ、お礼なんて」


この魔法陣が過去、現在、未来を繋いでいるというのがわかった――待て。

能力がいくらなんでも限定されすぎじゃあないのか? 


魔法陣の上、しかもこの場所と限定されて。


「この魔法陣に何がある? それが報酬でいい」

『そうですか? リティの命の恩人とも言うべき人にそれだけなんて……ねぇ?』


娘のほうを見るママ茶。


『そうだ。もらえるものはもらっておけ。それが何かはわからないがな、それよりも――』

「うん。じゃあもらえるものはもらっておこう。それと、魔法陣のことなんだが……」

『実体化です』


……実体化?

それは、触れれるようになる、とか、そういうことだろうか?


『この魔法陣の中でなら、わたし……いえ、わたし達は実態を持つことが出来るんです。だから、予知能力を発動させる前に、あの人に予知する日にちと時間を伝えて、この場所で情報をもらって現在に戻っていた、だからずっとこの国は栄えて大国になることが出来たんです』


実体がなければ対話することが出来ない。

過去や未来にはママ茶の体がないわけだから、当然なのだが。この魔法陣の上ならば実体を持つことが出来るということか。


「なるほど。最後の謎は解けた。どうでもいい謎なんだがな。じゃ、少ししたらここに戻ってくるよ」


――それまで、親子水入らずの会話でもしているんだな。


『あっ、待て海弟! くっ、魔法陣から出たら体が――』


何だかうるさいな。





俺か階段を上り、一階へ着く頃には兵士は起きていたようで、思いっきり睨まれた。

けれども何故か物理的な攻撃は受けない。


「お父さん、すごかったね」

「ああ、そうだな。兵士の諸君も下を見にいけ――」


振り向くと、階段の入り口が頑丈そうな板と鉄で塞がれていた。

これでは中に入ることが出来ない、のだが……。


「なるほど、盗賊に城を占拠されたことを話したな」


俺へ、何かくれると言っていたし、盗まれないようにという措置だろう。

頭の回るママ茶だ。


……現在が変わっていく光景を眺めると、何だか心が痛くなってくるのでお茶の部屋に戻りくつろぐ事にした。


ベッドがふかふかで、シーツが変えられていたこともすぐにわかった。

隣に入ってくる犬死ちゃんを蹴り落としてから目を瞑る。


「ちょっと寝る」

「いたた……。ひどい、寝たら一緒の布団で――」


鏡でベッドの周囲を囲む。

俺と犬死ちゃんとの間に壁となるそれは、触れると爆発する特別製だ。


「……そ、ソファで寝ちゃうもんね! ふっかふかなんだから!」


皮製のソファにシーツはないぞ。





目覚めが物凄く悪い、何故だろうか?


疑問に思うよりも先に鏡を消す。光を鏡が遮っていたせいもあるのだろうが暗すぎる。

すると、いきなり飛び込んできたのは下着を身に付け、夜着を選んでいるのか高そうなタンスの中から色々と服を取り出しているお茶。


「……悪い夢か」

「……っ、か、海弟!」


頬を抓ってみる。どうやら夢ではなかったらしい。痛い。


頬を(さす)りつつ外を見る。月が綺麗だ。

寝る前に月の位置など見ていなかったが、きっと時間はかなり経過したはずだ。一時間ぐらい。


皮製のソファで苦しそうに寝ている犬死ちゃんを叩き起こすと、部屋の出口を目指す。

固まったままのお茶の体を見ないようにしながら向かうわけだが、扉の取ってを掴もうかとしていたところで腕をお茶に掴まれる。


「服を着ろ」

「生憎と、夜着しかこの部屋には置いていないのだ。他のドレスはメイドが管理して――」

「夜着でいい。着ろ」

「……逃げないか?」


勿論、という表情と仕草を見せる。

しぶしぶとタンスのある位置に戻っていくお茶。


この時のお茶は、ママ茶と出会っていない状態だろう。

……こういう緻密(ちみつ)な計算は苦手なのだが、まあ良い。


扉を開き廊下へ出る。


「あっ、やはり逃げたな! 誰か! 誰かいないか!」


その声に集まってくるメイドや執事達。

その中から抜けると、さっきの魔法陣のある地下へ向かう。


ちなみに勿論、というのは『勿論、逃げるさ』という意味の勿論だ。

別に俺は嘘を吐いていない。


硬い板に阻まれた階段の板を炎やら水やらでぶっ壊すと下へ降りていく。

執事連中が追ってきているのだろう、若い連中(三十代ぐらい)を先頭に老いた連中(長老様)が後ろから付いてくる形となっている。


けれども俺は負けない。


「この先にある宝を手に入れるのは俺だ!」


金銀財宝かな? それとも宝の地図、とか? それだと二度手間だよな。


ならばアレだ。食券一年分! ちなみにお菓子にのみ使えるヤツ。

楽しみになってきたぁぁぁ!!


伏線注入……次回で回収できるような浅い伏線ですが……。


まあ、いつもの海弟に戻ったのでよしとしましょう。

倒し浮かれる時もいいですが、目の前の欲で心を満たす時も良いものです。

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