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第429話帰り道とその方法

さて、あと何話したら青空さんの元へ辿り着くのだろう海弟は。

俺の背負った願いも、託された想いも、娘が何とかしてくれる。

これ名言だね。うん、ちなみに俺の言葉ね。


一人、治癒魔法を自分にかけつつ(『鏡』を使い複数同時進行中)エシヴァン王の死体を眺める。

神の意思は親の一言で簡単に変わったわけだ、それはコイツにとっても予想外だっただろう、けれども、だ。


ノリという言葉がある。初対面だが、感動シーンで当人が叫んだ言葉を受け取った奴がイヤと言えるだろうか?

言えないに決まっている。つまりは俺が親で、敵が(かみ)という構図が出来上がった時点で、俺の勝利は確定していたわけだ。


家族が多いと良いことあるよ!


……若干犬死ちゃんが入ってきた感が否めないが、事実だろう。

口から血を吐き倒れているエシヴァン王から視線を娘であり神でもある少女へと向ける。

さっきまで目の前にいたのに、何故かアレン君とレンテのところへ行っていた。暇だったのかも知れない。

この能天気さは俺から受け継いだものだろう。


心の中で笑いつつ、近くに倒れているお茶へ向かい俺を治癒していた鏡を飛ばす。

アイツが一番酷い傷を負っているのだ。とりあえず「古傷が痛むぜ……」とか何とかという展開を起こさせないためにも俺の次に治しておく必要がある。

男の傷は勲章だが女の傷は……何なのだろう。まあ、あっていいものではない気がする。


疲労感が消えない体で娘のところまで行くと、何やら不穏な雰囲気に包まれているように俺は見えた。

主に会話しているのは娘とアレン君、なのだが。時折レンテの声も聞こえてくる。


「パパは回復したわけだが、何の話をしているんだ?」


三人の中に割って入る。

娘がむかっ、とした表情をしたが気にしない。というか「気づけよ凡才」と俺へ向かい視線を向けてきている気がする。

感動したのもつかの間というヤツか。


けれども、だ。

自分で言うのもアレなんだが、世界の支配者を降りてから俺は世界に関する情報を一切得ていない。

世界の数だけ息子や娘がいて、その世界の神として一つひとつの世界を管理しているらしいというのはわかった。


そんでもって、俺は世界を巡り子供に会ってこい、などと言われているのである。

そこにこの娘っ子がむかっ、とする理由が含まれているとは思えない。


「パパ、あたしに違和感感じないの?」


違和感。そうだ、違和感なら最初からあった。

どうして神というのはこうも胸がないの――確かに違和感を感じた。殺気だろう、これは。


放っている少女に微笑む。

すると剣を俺へ向け振りかざしてきたので急いで本音を語ることにした。


「違和感ってほどの違和感は感じないな」

「……斬って、切って、裂いて、バラバラに――」


少女の瞳から生気が失われていく。

神というのは、とんでもない奴等ばかりだな。うん。


「――ふぅ、落ち着け、あたし」


一瞬にして生気を取り戻した少女はアレン君を指差し言う。


「内側! でもって――」


少女は自分のない胸を親指で指して言う。


「――外側! 力の君と器のあたし。二人で一緒、ってわけ」


なるほど。


「よくわからない。アレン君と、えーと……娘っ子が二人で一緒?」

「娘っ子じゃなくて、あたしは『虚名の絵師』ことキリエ!」


キリエ。『虚名の絵師』ってのは『生死の門番』みたいな二つ名、なのだろうか?

しかし、犬死ちゃんみたいに変な名前ではないのだな、コイツ。


「とりあえずキリエ。お前の話はわからない、黙っていろ」

「あたし主体の話なんだけど!」

「知るかッ!」


黙らせるとアレン君のほうを向く。

完全に黙ってしまっている、キリエと話をして黙っているということは、事態を理解しているという事だろう。


「簡単な説明、してくれ」

「……神が生まれた事による世界への影響。その余波により、オレは現実として現れたらしい」

「よーし、それをもっと簡単にして言おうか」

「つまり、神がこの世界に現れた瞬間。その瞬間、世界と反発を起こし外側である器と内側である力がバラバラになってしまった、らしい」


犬死ちゃんみたいに、全部が全部……その世界に適応できた神であるわけじゃあない、ってことか。

世界と神、その関係が少しでも矛盾していれば反発が起き、神の中の力が吹っ飛ばされてしまう。そういうわけらしい。


「それで、アレンが内側。神の力、ってのはありえないんじゃないか? 父親がいることを知っているんだし」

「……どれも、人から聞いたものばかりだ」

「なお更、お前の父親はいたって証拠に――」

「あたしが説明しよう」

「黙れ、子供はもう寝る時間!」

「まだ昼にもなってないよ!」


そういえばそうだ。何だか疲労感があるし、外が暗かったからもう夜だと勘違いしてしまった。

外と言えば、あの龍はどうしただろうか。十字架に頭突きし死ぬなんて事はないと信じたい。


「あたしが外側! つまり神様の外郭(がいかく)ってわけよ! 世界に神様がいる、と認識されればそれ相応の力を与えられる。けれど、元々の力より弱いものなの」

「……いや、今までの話を聞いているとアレン君も神――」


っ、おかしい。

神がこの世界には二人存在する事になってしまう。

けれども、外側と内側。この違いが世界の認識の違いに繋がったのだ。


「外郭だけの神が、神と認識され。じゃあ――」

「世界がアレンという異物、というか神の力に取った対応は一つ。歴史の改ざん!」


歴史の改ざん。

世界が、自然に起こした現象。


「……なるほどな。だからこそ、アレン君は――親を知らない」


いや、知っていた。俺みたいな奴、だと言っていた。

そうか、そこで気づくべきだったのかも知れにない。まあヒントが少なすぎたんだ。


「あたしには、世界が神と認めた存在という特権がある。だからこそ、この世界に留まり続ける権利が発生する。君は? あたしの中に戻るべきなんじゃないかな?」

「……っ、オレは――」


俯き、考えている様子のアレン君。それもそうだ。


若干共感しつつ、アレン君がキリエと一緒になったら娘じゃあなくて何になるんだろうか? という好奇心もある。

つまりは早く戻れ、という一つの答えが俺の中には存在するわけだ。若干の共感が何になる。


「……ふむ、では……私の護衛を神がする……何てことになるわけか」


背後、見知った声がし振り返る。

やあ、と片手を振るお茶。どうやら回復したらしい。


「どうだろう。アレン、お前に覚悟があるのなら。私は止めはしない。ここで怖気づいたとしても、私はお前を軽蔑したりしない。お前が決めろ」


背の高いアレンを見上げるように、お茶が言う。

俯いているアレンの顔を覗きこむような形になっていて、何だか見ているこっちが恥ずかしい。


「キスか」

「そうだなレンテ。俺もその展開を望もう」

「キスし決断するオトコ。燃える!」


外野三人が騒ぐ中、アレンが顔を上げる。


「オレは――」

「ああ、一つ言っておくとね」


決断したアレン君の言葉を遮るようにキリエが言う。


「あたしの中には、この世界に与えられた力がある。神として存在する故に与えられた力がね。それだけでも、この世界は管理できる。けれど、あたしは君の気持ちを聞いているんだ……って話をしているんだけどね」


まあ、力を増幅させる施設。この神殿がなければ何にもできないほど弱い力だけどね、と付け加えるキリエ。

そうなると、キリエはこの神殿から出られなくなるという事だ。


俺じゃあ決められない質問だな。

きっと、内側が外側を取り込む、なんて答えでも出しちゃいそうだ。そんでもって出来ちゃったりしそうだ。


「……お前に、姫様のことは任せよう」

「任せんしゃい。あたしの護衛術は忍者五億人集まっても勝てないほどよ」


忍者、という単位じゃあわかりにくいのだが兎に角すごいに違いない。


そんな関心しつつ、アレンが身動き出来ないように捕縛する。

同時にお茶の四肢を固めるキリエ。


「両者の意思? 関係ないぜ!」

「キース、キース、キィース!」


ぶちゅっ、と。

うん、それはもうすごかった。





途中、俺の衣服や鏡を回収しつつ(割れているものもあった)神殿の外に出る。


『我々で、龍を倒したぞー! バンザーイ! バンザーイ!』

『おおおお!! オデダチズイに、ヤッダァァァァッ!!』

『きたねェ! 鼻水拭けッて!』


何だか狂気乱舞している五万人ぐらいの集団がいた。

そういえば神殿の中に誰も残っていなかったな。


「キリエ、黙らせろ」

「いや、楽しそうだからいいよ」


楽しいことだったら何でも許されるというのか!?

神殿の前でお祭り騒ぎ!? はっはっは、神への冒涜――うーん、そうでもないな。

神父さんへ無理やり酒を飲ませるようなことをする奴が言っても説得力ないし。


「よーし、叫べ! 踊れ! 舞い上がれ! 祭りじゃーいっ!」

「……私も行くぞ!」

「護衛がキツいのでダメってことで」


お茶がキリエに止められ後ろでも騒いでいる中、五万の集団の中に俺も飛び込む。

その瞬間、俺の飛び込んだ場所から人混みが遠ざかる。


ポツーン、と俺が周囲に立つ男達を見る。

先ほどのお祭り騒ぎがどこへ行ったのやら、俺へ向けられる瞳は殺気に満ちている。


半径五メートル、そこに誰もいなくなってから一分が経過した頃だろうか。

人混みの中から髭の濃い一騎当千も可能ではないか? と思わせる風格を持った男が現れる。


『……エシヴァン王の仇、と言いたいところだが。我々も分を弁えているつもりだ。今回は君達のほうが正しいのかも知れない』

「いや、俺たちのほうが正しい」


堂々と言ってやると苦笑いする男。

正しくなけりゃ俺は外道なんてやっていないんだよ。間違っていることを全力でやるのは邪道だ。

正しいことを全力でやるのは王道だ。


外道ってのはどちらでもない。違和感、嫌悪感のあるものを、その感覚のあるまま全力でやることだ。


未熟と言われようと、その中にある強さを俺は見つけた。

だから俺は外道なんだ。


「と、言うか。数のゴリ押しは出来るんじゃないのか? 正直、こちらが消耗しているのは事実だし」


俺はお祭りに加われなかった恨みがあるのでバトル展開に発展するのを物凄く望んでいる。

虐殺の始まりだァ!


『しない。将軍の上に存在するのは大将軍か王のみだ。そして我々がするべきはその護衛。守れぬ仕事を永遠に続ける気はないよ』

「なるほど。ならば俺から斬りかかってこい、という意味だな?」

「コイツは冷静な判断が出来ていないようなので代わりに話を聞こう」


レンテが俺の後ろから現れる。

何だ、今良いところなのに。


無理やり後ろへ追いやられたので愚痴を吐きつつお茶達のところへ戻る。


「……馬?」


おかしい。いつからお茶は馬になったのだろう。

そうなるとキリエは馬じゃなく何になったのだろう。


空を見る。


「……ハエ、か」

「神はハエじゃあないと思うんだけどねぇ」


馬が移動し、それを挟んで反対側にいた人物達が見える。

お茶にキリエ、医者もいた。それに――ノッグ!?


「おお、お前は、狼殺しのノッグじゃないか!」

『狼殺しって何だ? 普通のノッグだ』


うん、今考えたんだ。狼殺し。


「で、何でノッグがここにいるんだ? まさか、お茶へ愛の告白? やめておけ、かつてアレンという男がいてな――」

「昔話みたいに語るな。これだ、王と兵士が不在の間に――エシヴァンの国に小国が攻め入り城を占拠した、という報告だ」


紙をひらひらと振るお茶。

俺が受け取り読み始めると同時に背後から声が聞こえてくる。


『な、何ッ!? 国が……今すぐ戻らねば!!』


どうやらレンテに説明さらたらしい将軍さん。

忙しいなぁ、うん。


「さて、俺たちも帰るか」

「そうだな。歩きで」

「だね、歩き」

「みたいだねぇ、歩き」


歩き?


『先に馬で帰っている』


ノッグが馬に乗り颯爽と消えていく。

ふむ、徒歩ねぇ。


「……何で?」

「移動手段が徒歩しかないからだ」

「龍は?」

「死んだ」


死んだ。そうか、うん。十字架が脳天に刺さって死んだんだな。

可哀想に。"今"ならキライな龍に同情できる。さて、"今"は終了した。もう龍は大嫌いだ。


「まあ良いや、お前等は徒歩でいいらしいので俺は先に帰っている」


手鏡を取り出す。

すると、取り出した手がお茶に掴まれる。


「その手があったじゃないか」


ニコリ、と俺へ向かい微笑むお茶。

なるほど、なるほど。


「その手はない。その手を放せ」

「無理な相談だ」


※海弟はこっちの世界の字を読めません。


前の話とのバランスを考え後書き終了。

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